肩脱臼の治し方 脱臼の原因から治療法まで

肩脱臼について

数ある関節の中でも特に自由度の高い関節の肩。その特性から、人体の脱臼の中で2番目に脱臼しやすい部位とされています。
スポーツの怪我や日常生活での思わぬ事故などにより、肩(上腕骨頭)が元の位置から外れてしまう現象を肩脱臼といいます。そんな肩脱臼について、なぜ肩は脱臼しやすいのか、どんな症状なのか、当院での診断と治療法などについて解説いたします。

本稿では初めて肩を脱臼してしまった方を目的としています。
↓繰り返し肩を脱臼してしまう、「反復性肩関節脱臼」に関してのページはこちら

脱臼とは何か

そもそも脱臼とは、関節が外れてしまった状態を指します。医学的な定義としては、二つの骨が接触する部位である関節が、急激な衝撃や異常な動き(外傷)により骨と骨のつながりが外れてしまう現象を指します。特に腕や足など、大きく動きのある関節部に多く見られる病態で、外れた直後の急性期は強い痛みを伴います。

肩脱臼とは?

外傷により肩関節が脱臼(関節窩(かんせつか・肩甲骨にあるくぼみのこと)と上腕骨頭(じょうわんこっとう・肩に近い腕の骨)が完全に接触を失った状態)した状態をいいます。肩関節脱臼は人体の脱臼の中で2番目に頻度が多い部位とされています。ちなみに一番多い箇所は指の脱臼だそうです。
肩関節脱臼は、関節窩に対して上腕骨頭が前方に脱臼(前方脱臼)、もしくは後方に脱臼(後方脱臼)します。前方脱臼が90%以上を占めるとされています。
スポーツでの怪我が多く、コリジョンスポーツ(ラグビー・アメリカンフットボールなど、衝突・激突の多いスポーツ)やコンタクトスポーツ(柔道・格闘技・サッカー・バスケなど)での発症率が高いです。

なぜ肩は脱臼しやすいか

主な理由が2つあります。肩関節が人体の関節の中でも可動域(動かせる範囲)が広いこと。しかし骨同士の結合部分は弱く、構造上脱臼しやすい形状になっています。
もう一つの理由は、他の関節に比べて肩の周りを覆う筋肉が比較的薄く、強い衝撃が加わった際に関節内にその衝撃が届きやすいことが挙げられます。
 

肩脱臼の原因

肩脱臼とは、肩の関節が正常な位置からずれてしまう状況を指します。通常、強い外力が加わった際に起こりますが、原因はそれぞれ異なります。スポーツ中の怪我、交通事故、生活習慣など、様々なシチュエーションで肩脱臼のリスクが存在します。

スポーツでの怪我(外傷) 主に外傷性肩関節前方脱臼

転倒や転落、ラグビーのスクラムなどを筆頭に、スポーツでの接触プレーや野球でのヘッドスライディング時に起こります。
肩関節の外転・外旋動作、最大挙上動作、あるいは水平伸展動作、これらの身体の動きが ”強制” されてしまうことで、上腕骨骨頭は ”てこの作用” で関節窩(かんせつか・肩甲骨にあるくぼみのこと)から前方へ脱臼します。
肩脱臼が起こりやすいスポーツ
ラグビー
アメリカンフットボール
柔道
サッカー
バスケ
格闘技
肩脱臼がくせになってしまう 脱臼してしまった時の組織の損傷について
肩脱臼がくせになってしまい繰り返してしまうことを、反復性肩関節脱臼といいます。

脱臼時、脱臼が繰り返されてしまうときに、肩関節を構成する人体組織に損傷がおこってしまうケースが多いです。

1.関節を支える組織である関節唇(かんせつしん)損傷
2.下関節上腕靭帯IGHLの、関節窩からの剥離損傷(Bankart病変・バンカートびょうへん)
3.関節包の、上腕骨頚部からの剥離損傷(HAGL病変)
4.関節を構成する骨である関節窩の剥離骨折(骨性Bankart病変)
5.上腕骨頭陥没骨折(Hill-Sachs病変・ヒルサックスびょうへん)

上記のような組織損傷が大きい場合、治療をしても症状が改善せず、脱臼を繰り返してしまう 反復性肩関節脱臼 になる場合があります。

肩脱臼の症状

肩脱臼の症状には、強い痛み、肩の動きの制限、肩の部分の腫れ、感覚異常などがあります。具体的な症状は

肩が外れる
亜脱臼(関節に緩さがあり、痛みや違和感がある状態)
痛みがある
力が抜ける
緩い
グラグラする
外れそうで怖い

治療の途中での症状

保存治療の過程では肩関節組織の強度が弱いことが原因で、治癒途中で症状を感じる場合も多くあります。主な症状は、

・肩脱臼の恐怖感(外れる感じ・外れそうで怖い)
・痛み
・違和感(力が抜ける感じ、緩い感じ、関節がグラグラする感覚)

などが多いです。
肩関節組織が治癒すると、組織の強度が強くなるのでそのような症状も消失することが一般的です。
根治目的の手術について
関節、靭帯組織の損傷であるBankart病変、HAGL病変や、
骨病変(骨性Bankart病変・Hill-Sachs病変)があり、程度が大きい場合は保存療法を実施しても症状が改善しない場合があります。
その場合には、根治を目的とした手術療法を検討します。 

脱臼をしてしまった時の初期対応

外傷性に肩脱臼が起きてしまった場合、医療機関を受診して整復します。整復した後に、保存療法・治療を実施していきます。
亜脱臼(脱臼後自分で整復することができた)した場合においても、医療機関を受診して検査・診断・治療を実施することが推奨されます。
肩が外れた場合、自分で戻しても大丈夫か
自己整復(自分自身で肩をはめること)を無理にせず、整形外科、医療機関を受診して整復してもらうことが望ましいです。
初期対応として、専門者によって適切に整復されることが、 組織の損傷を最小限にする 重要なポイントとなります。

肩脱臼の診断と検査方法

肩脱臼をしてしまった時の肩の状態を、各種検査を行いはっきりとさせていきます。
肩関節の状態の正確な把握は、適切な治療の選択、予後を良くしていくために必要になります。

理学検査

肩関節診療において一般的に実施される 関節可動域検査 筋力検査 など
※理学検査
医療スタッフが患者さんに実際に触れて行う検査のこと。 これに対して画像検査とは、レントゲン、MRI検査などで撮影した写真(画像)をもとに診断していく行為
関節不安定性検査
前方脱臼の誘発肢位に動かして脱臼不安感の有無(anterior apprehension test)
 
肩関節の不安定性の有無(load and shift test)

レントゲン検査

肩関節が実際に脱臼している状態の場合では、レントゲン検査で脱臼している様子が確認でき、前方に脱臼しているか後方に脱臼しているか確認することができます
肩関節脱臼が整復されている場合では、明らかな異常を認めない場合も多くあります。
内旋位でのレントゲン検査では、上腕骨頭陥没骨折(Hill-Sachs病変)の様子が確認できる場合があります。


右肩脱臼 レントゲン写真
 

MRI検査

肩関節を安定化させる関節の状態を確認することができます。MRI検査の得意とするところは、骨を含め、靭帯や関節唇などの靭帯の軟部組織です。
※MRI検査は、近隣の検査専門クリニックに紹介という形での撮像となります。

Bankart病変↓(関節唇、下関節上腕靭帯IGHLが関節窩からの剥離損傷)



HAGL病変(関節包の上腕骨頚部からの剥離損傷)
 

CT検査

肩関節を構成する骨の状態を確認することができます。CT検査の得意とするところは検査スピードの速さと骨の状態の描出です。コンピュータ処理により、様々な角度からの画像を作ることも得意としています。3D画像の作成も可能です。
※CT検査は、近隣の検査専門クリニックに紹介という形での撮影となります。

骨の異常(関節窩骨欠損、上腕骨頭陥没骨折(Hill-Sachs病変))


↑関節窩(受けの部分の骨)骨欠損 CT画像 矢印の先端部分が欠損部分です


↑同じ患者さんの関節窩骨欠損 CTの3D画像です 〇の中が欠損部分です


↑脱臼が繰り返された患者さんの3DCTの画像です
上腕骨頭の表面が陥没しています ヒルサックス病変といいます

肩脱臼の治療方法

保存療法と、保存療法以外の手術療法に大別されます。
 

初めて肩脱臼をしてしまった時はどうすればいいですか?

脱臼をしてしまった時は、関節内のダメージを最小限にするため、自分で戻すことをせずに医療機関で医師の手で整復(せいふく・元の位置に戻すこと)することが望ましいです。
しかし脱臼する際には、関節組織は大なり小なりダメージを受けます。
初期治療は、 肩関節を保護し、ダメージを受けた組織の修復 をしていくこと  が重要なポイントです。
組織の修復が進むと、組織の強度が強くなります。タイミングを判断し、リハビリテーション(理学療法)を実施していきます。

肩脱臼

医療機関で整復(肩をはめる)

肩の保護

肩関節組織が治癒

関節機能の改善・身体機能の改善・再発しにくいスポーツ動作の獲得 ←これらをリハビリテーションにてセラピストと一緒に行う

スポーツ競技に復帰

肩脱臼  保存療法 の順序

受傷後から約3週間 -固定-
医療機関にて肩関節整復後に装具、もしくは三角布を用いて外旋(腕を外に捻る)方向に動かないよう固定します。
固定することで脱臼した際に損傷した 組織の修復を促します
受傷後から3週間目以降 -リハビリテーション-
リハビリテーション(理学療法)を実施していきます。
目的は関節可動域の回復、関節を安定化させる筋力強化、日常生活での症状改善です。関節機能の回復を図ります。

日常生活での症状が消失したのち、さらに肩甲胸郭関節機能や腱板筋機能強化を図り、スポーツ競技動作においても再発しないように身体機能を改善して
いきます。
スポーツ時の動作で不良な動作があれば動作修正し、脱臼再発しにくい動作獲得を目指します。
これらはすべて専門のセラピストのもとに行います。
受傷後から3~4か月目以降 -復帰-
肩関節組織が治癒し、再発予防の取り組みを実施してからスポーツに復帰していきます。

肩脱臼  手術療法

保存療法をしても関節、靭帯組織の破綻(Bankart病変、HAGL病変)や骨病変(骨性Bankart病変・Hill-Sachs病変)を有し、その程度が大きい
場合は症状が改善しない場合があります。
その時は、根治を目的に手術療法を検討します。
 

担当医  肩脱臼専門医 木﨑医師 毎週木曜日


木﨑一葉医師(Dr.KAZU)

木﨑医師はカナダ・ダルハウジー大学整形外科にて肩・膝関節鏡手術に特化したトレーニングを行い、特に肩関節においては、世界にリードする手術方法を習得しました。肩脱臼の関節鏡手術治療を得意としています。



 
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