COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治し方

 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは・・・

タバコなどの刺激にさらされて肺や気管支に炎症が起き、それが長い期間継続することで、肺胞(肺の中を通る気管支の末端にある小さな袋状の組織)が破壊されてしまう病気です。
この肺胞の壁が壊れることで隣り合う肺胞同士が結合し肺の中がスカスカの状態(肺気腫)になってしまうことから、呼吸障害(咳、痰、息切れの症状や肺活量の低下)などを引き起こします。
日本人のCOPDの有病率は8.6%と言われており、40歳以上の方の530万人がCOPDに罹患していると考えられています。しかしながら、実際にCOPDと診断されたり治療を受けたりしているひとはその中でもほんの一部であり、喫煙歴があり慢性的に咳や痰がらみの症状がある方はCOPDの状態にある可能性があります。
慢性的に進行すると在宅酸素療法(酸素ボンベを持ち歩き鼻からチューブで酸素を吸入し続ける治療)が必要になることがあり、急性増悪や肺炎の合併は致命的となることがあります。COPDはまだまだ認知度の低い病気ですが日本人の死因第10位になっており今後さらに上昇することが予想されています。
喫煙習慣を止めても壊れた肺は元には戻りませんが、吸入薬や内服薬による治療を受けたり、運動やリハビリによって身体活動性を維持したりすることで、症状を和らげ肺の状態が悪化するのを防ぐことができる可能性があります。喫煙歴があり慢性の咳や痰、息切れの症状のある方は「煙草を吸っていたからこれくらいの症状はしょうがない」「年もとったからこれくらいの症状はしょうがない」と思わずに是非一度ご相談下さい。                                             

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因

〇タバコ・喫煙
COPDの方のほとんどが喫煙者です。
喫煙歴が長期間にわたり本数もより多く吸っている人の方が、COPDにかかる傾向が高いとされています。またご自身の喫煙習慣がなくても家族や周りの人の喫煙による「受動喫煙」でも発症することもあります。
新型タバコ(電子タバコ)でもCOPDの発症や進行が抑制されることは証明されていませんので「新型タバコ(電子タバコ)に変えたから大丈夫」というのは間違いです。
新型タバコ(電子タバコ)でも従来の紙巻きタバコと同様に発症の原因となると考えられています。
〇有害物質/大気汚染
PM2.5による大気汚染がCOPDの原因となることもあります。PM2.5には、たばこの煙に含まれる有害物質のみならず、工場などから立ちのぼる化学物質や車の排気ガスなど、様々な理由で空気中に排出された粒子状の物質が含まれています。
〇呼吸器疾患の既往
子どもの頃に呼吸器系の感染症などを繰り返してしまうと、肺が十分に成長しないことがあります。もともと肺の成長が不十分な人は、同じだけの有害物質にさらされたときに、肺の成長が十分な人に比べ閾値に達するタイミングが早くなるため、肺気腫を発症しやすくなります。
〇遺伝
唯一、COPDとの因果関係がわかっている遺伝性疾患として、「α1-アンチトリプシン欠損症」という病気(指定難病)が存在します。欧米では全肺気腫患者のうちα1-アンチトリプシン欠損症が数%存在すると言われていますが、日本ではとても稀です。日本人の肺気腫は特別な遺伝性疾患とはほぼ関係していないと言われています。

COPDの病態

1本の気管から枝分かれをしていき、気管支は肺の中で23回ほど分岐を繰り返します。その先にはぶどうの房のような「肺胞」(空気の房)があります。
合計でおよそ3億~4億個ある肺胞へと繋がる、内径2mm未満の非常に細い気管支のことを「末梢気道」といいます。COPDとは、この「末梢気道」とその先の「肺胞」にタバコの煙や大気汚染物質などの有害物質を長年吸い込み続けることにより炎症が起こり、肺胞の組織が破壊される疾患です。組織の破壊は「過去の出来事」であり、タバコを止めても元に戻ることはありません。
下図は正常な肺とCOPDに罹患している肺の違いです。


Barnes PJ. New Engl J Med 2000; 343: 269-280.より監修者訳津田 徹編.
非がん性呼吸器疾患の緩和ケア 第1版 2017. 南山堂,P38
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の症状
・1日に何回も咳が出る
・運動時、動作時に息切れをしやすい
・透明~白色、黄色、緑色などの痰がみられる
・ゼイゼイ、ヒューヒューという呼吸音がする
・体重減少
・肺炎などの感染症にかかりやすくなる
・頭痛
・口すぼめ呼吸
・ビール樽状胸郭(胸郭がビール樽の様に膨らむ)
・チアノーゼ(血中酸素濃度が低下し、皮膚が紫~黒がかった色になる)
・ばち指(指先がバチ状に膨らみ爪が丸くなる)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)による全身への影響
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は肺の炎症が起こる疾患ですが、炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす原因となるタンパク質の一種)の増加がみられ、全身性の炎症が起こり以下のような影響が発生します。
 
・筋力や筋肉量の低下による骨格筋機能障害
・低栄養
・内臓脂肪型肥満
・貧血
・骨粗鬆症
・抑うつ
・睡眠障害
・メタボリックシンドローム
・糖尿病
・動脈硬化
・心筋梗塞
・狭心症
・脳血管障害
 
 
COPD(慢性閉塞性肺疾患)では、加齢と肺の機能障害による身体活動性の低下や全身の組織への酸素供給障害から全身に悪影響を与えて合併症や併存症(元の疾患が引き起こした疾患ではないが、一緒にみられる疾患)をもたらします。全身の状態が悪くなることで、さらに筋力低下、筋肉量低下が進み、身体機能を悪化させるという悪循環を起こします。
 
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪
ウイルスや細菌による感染症への罹患、大気中の有害物質やアレルゲンの増加などが原因となって急激な症状の悪化がみられることがあります。咳や黄色や緑色の粘り気が強い痰の増加、発熱、全身の痛みなどや、息切れが労作時だけでなく安静時にもみられるようになります。重症例では、急性呼吸不全を起こし、呼吸ができないほどの激しい息切れやチアノーゼ、冷や汗、体の震え、頻脈、意識障害がみられ致命的となることもあります。
 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の診断・検査方法

問診
COPDを診断するうえでもっとも重要な情報は「喫煙の有無」です。いま喫煙しているかだけでなく、過去の喫煙歴や、自分が喫煙していなくても「まわりに喫煙者がいる(受動喫煙)」という情報も有用です。咳や痰などの症状に加え、日常生活の中での呼吸困難感(どのくらい動くと息が苦しくなるか)の程度も重要な情報となります。医師は呼吸困難の程度を添付の表に従い判断します。
呼吸困難の程度の目安
Grade息切れの程度
0 激しい運動をしたときだけ息切れがある。
1 平坦な道を早足で歩く、あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある。
2 息切れがあるので、同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い、あるいは平坦な道を自分のペースで歩いているとき、息切れのために立ち止まることがある。
3 平坦な道を約100m、あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。
4 息切れがひどく家から出られない、あるいは衣服の着替えをするときにも息切れがある。
「COPD 診断と治療のためのガイドライン第4版」より引用して一部改変
呼吸機能検査(肺活量検査)
大きな呼吸をしたり、勢いよく息を吐き出したりして、肺の機能(肺活量)を調べる検査です。
検査は「スパイロメーター」という計測機器を用いて行います。
鼻から空気が漏れないようにクリップでつまみ、マウスピースという筒をくわえて検査スタッフの掛け声に合わせ、息を吸ったり吐いたりして、空気を出し入れする換気機能などを調べます。
測定した肺活量の正常値に対する割合を%肺活量といいます。正常値は80%以上です。
最大努力で吐き出した息のうち最初の1秒間に吐き出される量を「1秒量」といい、その値の肺活量に占める割合を「1秒率」といいます。正常値は70%以上です。
 
要経過観察:%肺活量:80%未満もしくは1秒率:70%未満
要治療:%肺活量:80%未満且つ1秒率:70%未満
 
胸部レントゲン検査
肺の膨張の有無、横隔膜の平坦化の有無、心臓の大きさの評価を行います。 重症例では胸部エックス線画像で肺の透過性亢進や過膨脹所見(資料 1-a)が見られることもあります
高分解能CT検査
肺胞の損傷程度(肺気腫の程度)を評価することでCOPDの進行度合いを評価します。高分解能CTでは肺胞の破壊が検出され、早期の気腫病変(資料 1-b)も発見できます


(引用:日本呼吸器学会HP)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療方法

タバコを止めても破壊されてしまった肺胞を元どおりに治すことはできません。このため根治を目的にした治療ではなく、病気が進行しないように食い止めたり、出ている症状を緩和したりするための治療を行います。以下の全ての治療を状況に応じて並行して行う必要があります。
禁煙
喫煙者である場合は、まずは禁煙することが何よりも重要です。
薬物治療
気管支拡張薬などの吸入薬や内服薬を使用して気管支や肺の状態を保ち、症状を和らげたり肺活量を維持したりします。状態に応じて、咳や痰を抑える薬や、細菌に感染している場合は抗菌薬を用いることもあります。
呼吸リハビリテーション
衰えてしまった呼吸機能を回復・維持するための呼吸リハビリテーションを併せて行うことも有効です。口を細くすぼめて、ゆっくり息を吐く口すぼめ呼吸や腹式呼吸を続けることで、呼吸時の息苦しさを軽減することにつながります。横隔膜や胸・肩・首などの呼吸筋をストレッチしたり鍛えたりするトレーニングもしっかりした呼吸の助けになります。少しずつ負荷を上げていく全身的な運動療法も運動能力向上のために効果があるとされています。
在宅酸素療法
重症化している場合は、鼻にチューブを装着して酸素ボンベから酸素を吸入する在宅酸素療法が必要となる場合があります。適切な酸素吸入は悪化を防ぎ寿命延命効果があるとされています。

COPDに対する管理の目標
(1)症状および生活の質の改善、(2)運動能と身体活動性の向上および維持、(3)増悪の予防、(4)疾患の進行抑制、(5)全身併存症および肺合併症の予防と治療、(6)生命予後の改善にあります。気流閉塞の重症度だけでなく、症状の程度や増悪の頻度を加味した重症度を総合的に判断したうえで治療法を段階的に増強していきます(資料2

(引用:日本呼吸器学会HP)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の予防

COPDは初期にはせきやたんなどの症状しかみられずゆっくり進行するため自覚しにくく見過ごしてしまうことが多くあります。しかし、壊れてしまった肺を元に戻すことは難しく残念ながら治る病気ではありません。
喫煙者であればできるだけ早く禁煙すること。また、肺気腫は初期の段階では症状が出にくいため、定期的に健康診断を受けて早期発見・早期治療につなげることが重要です。COPDを患っている人は、風邪やインフルエンザなどにかかると急性増悪と呼ばれる状態になり、症状が一気に悪化して命に関わるケースもあります。このため、日頃から手洗いとうがいを徹底し、ウイルスや細菌の感染を防ぐことも大切です。
また、そうした感染症を予防するために肺炎球菌の予防接種やインフルエンザの予防接種を受けることも大切です。
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