糖尿病の治し方

 

糖尿病とは

糖尿病とは血液中の血糖値が慢性的に高い値を持続する疾患です。大きく1型糖尿病と2型糖尿病に分かれており、1型糖尿病はインスリンをつくる膵臓の細胞の機能が障害されることで起こるため、インスリン依存型とも呼ばれます。2型糖尿病では、食べ過ぎ・飲み過ぎや運動不足、ストレスなどにより膵臓の働きが弱まり、インスリンの働きを阻害する物質が体内にたまることによって発症します。遺伝的要素も大きく、家族に糖尿病患者がいる場合に発症する可能性が高いといわれています。日本の糖尿病患者の大多数は2型だといわれています。
網膜症・腎症・神経障害の三大合併症や動脈硬化症を伴うこともあり、一度発症すると完全に治らないため、生涯を通してうまく付き合っていくことが大切です。
糖尿病の疫学として現在成人の5人に一人は糖尿病か糖尿病予備軍であると推計されています。このうちのほとんどを2型糖尿病が占めており、近年わが国における2型糖尿病の増加は著しいものがあり、その背景として生活習慣の急速欧米化(接種カロリーの過剰、肥満、運動不足など)があります。糖尿病は高齢になるほど発症しやすくなります。人口の高齢化も2型糖尿病の増加に拍車をかけている要因と考えられます。最近は肥満児の増加に伴いい、小児においても2型糖尿病が増加しています。

原因

血糖値を下げる機能を持つホルモンであるインスリンの不足や、インスリンの効き目が弱くなることが原因になります。このインスリンの効き目が弱くなると血糖を血液中から体内に十分に取り込めなくなってしまい、高血糖状態が長く続くことで合併症を引き起こすこともあります。1型糖尿病の発病の原因としては、原因不明のタイプ(特発性)と、感染症などによる免疫不全から膵臓細胞を破壊してしまうタイプ(自己免疫性)の2種類があります。
2型糖尿病の場合、食べ過ぎ・飲み過ぎや運動不足、ストレスなどの生活習慣が原因となり、膵臓の動きが弱まる、インスリンの働きを阻害する物質が体内にたまることによって起こります。

症状

2型糖尿病の場合、初期症状はほとんどなく、早期発見が難しいといわれています。症状が悪化すると、口の中が渇く、喉が渇く(水分を多く摂取するようになる)、トイレが近くなる、疲れやすくなる、体重が減るといった症状が見られます。さらに悪化して慢性化すると、糖尿病網膜症(目の奥の網膜にある血管から出血が起こったり、異常な血管が網膜につくられたりして、視力の低下や失明などを引き起こす病気)、糖尿病腎症(腎臓の血管が破壊されて腎臓の機能が低下し、腎不全などを引き起こす病気)などの合併症を引き起こします。1型糖尿病も上記のような症状が出るが、中には1週間以内と急激に悪化する場合があり、劇症1型糖尿病と呼ばれます。また、発症までにかなりの時間を要する緩徐進行1型糖尿病も存在します。
 
著しくQOLを下げる主な糖尿病合併症
 
・糖尿病網膜症
硝子体出欠や牽引性視力が低下する、放置すると失明に至ることもあります。
 
・糖尿病性腎症
糸球体の細小欠陥が障害され進行すると慢性腎臓不全に至ります。放置すると透析を導入、もしくは腎臓移植をしなければならなくなります。透析患者の半数近くは糖尿病性腎症が原疾患です。
 
・糖尿病性神経障害
末梢神経障害が進行すると温度や痛みを感じなりにくくなり、熱傷やケガの原因となります。比較的早期から出現し高頻度です。自律神経障害も生じます。
 
・虚血性心疾患、脳梗塞
大血管の動脈硬化により虚血性心疾患になりやすく重篤な障害が残ることがあります。
 
・糖尿病足病変
神経障害や末梢血管病変、感染が関与し潰瘍、壊死が進行して最終的に足を切断に至ることがあります。
 
・糖尿病昏睡
急激に高血糖になることで意識障害、昏睡状態に至ることがあります。
 

糖尿病の診断方法

血液検査で血糖値やHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー。過去1〜2ヵ月の平均的な血糖値の指標)の値を調べます。
検査は2度行い、以下の4つの所見のいずれかが両日で確認されると糖尿病と診断されます。
(1)早朝空腹時の血糖値が126mg/dL(1デシリットル中に126ミリグラム)以上
(2)75グラム経口ブドウ糖負荷試験(75gのブドウ糖を溶かした水を飲んだ後に血糖値を測る検査)で2時間後の血糖値が200mg/dL以上
(3)時間に関係なく測定した血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上
(4)HbA1cの値が6.5%以上
なお、1度の検査で(1)〜(3)のうち少なくとも1つと(4)が同時に確認された場合、その段階で糖尿病と診断されます。2型糖尿病は高血圧などの生活習慣病とも密接な関係があるため、それらがないかもあわせて確認となります。必要に応じて腎臓や目に合併症がないかも診断します。

糖尿病の治療

糖尿病の治療は、血糖値のコントロールが基本となりますが、その手段としては食事療法、運動療法、薬物療法の3つが中心となります。
1型糖尿病ではインスリンの必要量が足りていないため、速やかにインスリン注射によって補っていくことになります。2型糖尿病では、食事内容に気をつけたり(食事療法)適度な運動を行ったりすることで症状を改善していきます。
 
食事療法
食事療法は、炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素をバランスよく取ることや、
ビタミン、ミネラルなどを欠かさず取ることが大切となります。
私たちは食物からエネルギーを得て活動しています。摂取した糖質は体の中で分解されてブドウ糖となり、血液の中をいつも流れています。血液中の糖の値、これが血糖値です。血液中の糖は、たまりすぎないようインスリンというホルモンによって一定の濃度に保たれていますが、このインスリンのシステムがうまく機能しなくなってしまうのが糖尿病です。
食事療法とは、いわば体にあるインスリンの状態に見合った食物をとること、といえるでしょう。その要素はカロリーであったり、働きを助ける栄養素であったり、食事習慣であったりします。基本ルールさえ守れば、食べてはいけないものは何もありません。まずは身長から適正摂取エネルギー(カロリー)を導き出し、それを朝・昼・晩バランスよく摂取できる、栄養素も考慮した献立を決定します。カロリーや栄養素の詳細は「糖尿病食事療法のための食品交換表」を参照すると便利です。
すでに糖尿病を起因とした合併症を起こしている人は、合併症の治療も含めた食事療法が必要になります。食事療法の基本は先述した内容と同じですが、合併症の種類により、食品・栄養素の摂取量がより制限されたメニューになります。
 
症状が以下の場合は上記と異なる場合があります。
・脂質異常症(高脂血症)の合併症があるエネルギー摂取量を減らし、また飽和脂肪酸、ショ糖・果糖の摂取量をできる限り少なくしましょう。コレステロールが1日300mgを超えない食事を心がけましょう。
・高血圧の合併症がある血圧値は、食塩の量に大きく影響されるため、食塩摂取量は1日6g未満にしましょう。 
・腎臓の合併症がある慢性的に尿中にアルブミンが排泄されている場合は、摂取タンパク量を0.8~1.0 g /kg(標準体重)に制限しましょう。また、同時に高血圧も合併している場合は、食塩摂取量も制限されることがあります。そのほかの合併症においても同様に注意が必要になりますので、医師と相談しましょう。
具体的には、かかりつけ医に1日に必要なエネルギー量を決めてもらい、「糖尿病食事療法のための食品交換表」(日本糖尿病学会)という表を利用して栄養バランスの良い食事を取ると良いでしょう。
 
運動療法
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。1型糖尿病は子どもや若年層で多く見られる遺伝的要因が高い糖尿病で、2型糖尿病は主に、肥満、過食、運動不足といった生活習慣を起因とする糖尿病です。糖尿病患者の95%は後者の2型糖尿病です。
生活習慣が原因で糖尿病になった2型糖尿病患者にとっては、運動療法を行って体内の糖の利用率を高めることは、血糖値をコントロールする有効な手段の1つです。筋肉量が増えることで糖代謝があがり、また余分な脂肪細胞が減ることでインスリンの効き目が高まります。
脂肪を効率よく燃焼させるには、有酸素運動が効果的です。治療の一環だからといって特別なことをする必要はなく、好きなスポーツや、日常的に行えるウォーキングなどでも十分に効果が期待できます。強度はちょっときついと感じる程度が理想的です。
また筋肉量を増やすためには、筋力トレーニングを入れると効果的です。これも特別な器具など用意する必要はなく、自重トレーニングやテレビで紹介されている簡単なトレーニング、インナーマッスルを意識した呼吸法などでも効果を期待できます。運動をする時間としては、血糖値のピークとなる食後1時間から1時間半あたりが理想的です。
ただし糖尿病の方が運動をするときは、低血糖に対する準備を必ず行ってください。また、強度の強い運動をする必要はありませんが、軽度の運動を最低でも週に3日以上行わないと、運動療法としての効果は見込められません。加えて、運動すれば食事療法はしなくてもいいということではありません。無理なく継続できる運動療法を、食事療法と並行して行っていくことが大切です。
運動療法が逆効果となる場合もあります。

次のような場合には運動を制限したり禁止したりすることもあるので、医師に相談しましょう。
・血糖値が極端に高いとき
・糖尿病のために眼底出血が見受けられるとき
・糖尿病のために腎臓機能が低下しているとき
・心臓などが悪いとき など
また、運動する際は、自分の足に合った靴を選ぶことを心がけてください。血糖コントロールが悪いと、足の感覚が鈍くなることも多いため、怪我をしていても気づかない恐れがあります。また、血糖コントロールが悪いと細菌に抵抗する力が弱くなっているため、怪我をした患部から細菌感染を起こす可能性があります。
運動が終わったあとは、汗をかいた足をよく洗って乾燥させ、清潔な状態を保つようにしましょう。そのうえで、怪我がないかどうかチェックするようにしましょう。
当院では運動施設としてパーソナルコンディショニングセンター(PCC)を運営しています。
パーソナルコンディショニングセンターは医療法第42条施設として保健所に認められた運動療法施設です。膝・腰・肩などの運動器疾患や、高血圧症・糖尿病・高脂血症などの内科的疾患を有する方々へ「専門トレーナー」が一人一人の体に必要とされる最適な運動を提供します。血圧が高く、主治医から運動をするようにと話があったが、今まで全く運動をしてきておらず、どのようにしたらよいのかわからない。最近体力が衰えウォーキングを行っているが果たしてこのウォーキングだけで健康が維持されるのだろうか?他に、どのような運動をしたらよいのかわからない、など運動したいが、何をどれ程の頻度で行えばいいかわからなくてお困りの方は是非PCCを利用してみてはいかがでしょうか?
 
薬物療法
食事療法や運動療法を行っていても血糖値の改善がされない場合に、薬物治療を行います。薬物療法で使用される薬剤には、大きく分けて経口血糖降下薬とインスリン注射薬があります。どの薬剤を使用するかは、糖尿病のタイプ、年齢や肥満の程度、合併症の程度、肝・腎機能、インスリン分泌能やインスリン抵抗性の状態などを含めて、医師と相談のうえ決めます。
糖尿病の薬には、種類によって摂取時が食前や食後だったり、摂取量がそれぞれ異なったりと、複数の薬を服用している場合は煩雑になりがちです。もし薬を飲み忘れてしまった場合でも、自分で勝手に薬の量を調節したり、違う時間に飲んだりすることは止めて、医師に相談をするようにしましょう。
くり返しとなりますが、糖尿病の治療は食事療法と運動療法が柱です。薬物治療は補助的な役割を担っています。薬が処方された後も、食事療法と運動療法は継続する必要があり、またそれにより薬の更なる効果が期待できます。薬の種類には、インスリン注射のほかに、経口血糖降下薬やインスリンの分泌を促進させる薬があります。経口血糖降下薬には、過剰な糖を排泄する薬とインスリンの分泌を促進させる薬があります。
 

糖尿病の予防

世界糖尿病連合(IDF)の調査によると、世界の糖尿病人口は4億6,300万人で、毎年2,200万件が新たに糖尿病を発症しているとされています。食事・運動・体重管理などの健康的な生活スタイルにより糖尿病を改善できることが、多くの研究で確かめられています。
生活スタイルを改善することで、糖尿病の治療をより良く行えるようになり、糖尿病予備群と指摘された人は発症を防ぐことができます。しかしながら、米国医師会(AMA)によると米国の糖尿病予備群の10人中9人は自分に糖尿病のリスクがあることを知らず何も対策していないと言われています。
また、AMAでは糖尿病をコントロールするための6つの生活スタイルを提案しています。
 
 
1健康的な食事
食べたものは血糖値の変動に直接に影響するので、食事療法は糖尿病の治療でとても重要となる。食事療法の基本は、エネルギー摂取量と栄養バランスを適正化すること。それにより、血糖値を下げるインスリンの働きを十分に活かせるようになります。
食べてはいけないものがあるわけではないが、勧められる食品とそうでない食品はあります。一般的に、十分に摂った方が良いのは野菜、全粒穀物、魚、低脂肪の乳製品や赤身肉、果物。減らした方が良いのは糖質と脂肪の多い高カロリーの食品です。
三大栄養素のうち、血糖値にすぐに影響するのは炭水化物なので、その摂り方には注意が必要です。1日3食を食べ、食事の間隔はあまりあけないようにしましょう。夕食のドカ食いや就寝前の食事なども避けた方がいいでしょう。インスリンや血糖降下薬を使っている人は、規則正しい食事の習慣はとりわけ必要となります。
 
2運動をする
体を活発に動かすと血糖値がすぐに下がり、運動を習慣として続けると1~2ヵ月の血糖値の平均を示すHbA1cが低下しやすくなる。食後に軽いウォーキングをするだけでも、食後高血糖を改善できます。運動をする習慣のない人は、いますぐ運動を開始した方が良いでしょう。
テレビの視聴やデスクワークなどにより座ったままの時間が長いと、肥満になりやくすなり、心疾患などもリスクも上昇します。
スポーツジムに通って本格的なトレーニングを行う必要はなく、家や職場の周辺でのウォーキングや自転車に乗るだけでも立派な運動になります。少し汗をかき呼吸が深くなるくらいの強さの運動が勧められています。運動を週に週に3日以上できれば毎日行い運動をしない日が2日以上続かないようにしましょう。
 
3早期に検査、治療を受ける
糖尿病腎症や網膜症、脳卒中・心疾患などの糖尿病合併症を予防するために、良好な血糖コントロールが必要となる。血糖コントロールに加えて血圧、コレステロールもコントロールすると合併症をさらに抑えやすくなるという研究が報告されています。
そのために、医師の診療をできれば毎月受けて適宜検査をしてもらうことが勧められます。
検査で異常が出ているときには医師に相談しましょう。リスクの高い人は網膜症や腎症、神経障害、足潰瘍・壊疽などの検査も定期的に受けるべきといわれています。
合併症のリスクを高める最大の要因は、通院を中断し、治療を勝手に止めてしまうことです。
 
4ストレスをため込まない
ストレスとは「過剰な負荷が心身にかかり、ゆがみが生じること」。うつ病や不安障害といった心の病気にも、さまざまなストレスが関係しています。
ストレスがたまった状態になると、血糖値が上がりやすくなるといわれています。さらに、糖尿病は食事や運動、服薬など自己管理が重要な病気でストレスがたまると糖尿病の自己管理がうまくいかなくなりやすいといわれています。
ヨガや呼吸法、自分をリラックスさせる趣味など、自分なりのストレスを和らげる方法を見つけることが大切です。こころと体の不調が続くときは、医師やカウンセラーなどの専門家に相談する方法もあります。
 
5タバコを吸わない
糖尿病を適切に治療しないでいると、心臓病、脳卒中、腎臓病、網膜症、動脈硬化による血管疾患、神経障害、足病変など、さまざまな合併症のリスクが高まります。タバコを吸う習慣があると、これらの障害が発生する可能性が大幅に高まります。
タバコをやめて1ヵ月が過ぎると、咳やたん、喘鳴などの呼吸器の症状が改善し、2~4年もすれば、狭心症や心筋梗塞などの心臓病のリスクが改善します。
「タバコを長年吸っているから、いまさら禁煙は無理」というのは誤解で、いまは禁煙を科学的に成功させる方法が開発されており、健康保険を使える禁煙外来は増えてきています。禁煙を希望している人は医師に相談してみては如何でしょうか。
 
6過剰なアルコールの摂取
アルコールは高血糖の原因になる。お酒を飲み過ぎている人は飲まない人に比べ血糖コントロールが難しくなるという報告があります。インスリンや血糖降下薬を使用している人は低血糖が起こりやすくなる場合もあります。お酒を飲むときは適量をこころがけましょう。
 
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