前十字靭靭帯 ACL

Arthroscopic Surgery

ディフェンスの動きに考慮しラクロスに復帰した選手

理学療法士
日髙 宏一郎

選手紹介


性別   女性
年齢   21歳
診断名  左膝関節前十字靭帯損傷
スポーツ歴  種目:ラクロス(関東大学女子ラクロスリーグ1部) ポジション:ディフェンス
       競技歴:4年目 (高校までのスポーツ歴なし) 練習頻度:週5日、3~4時間
術式   鏡視下前十字靭帯再建術(患側採取 半腱様筋・薄筋腱 2ルート Outside-In)
現病歴  
ラクロスの練習中に左足を滑らせ、膝内反位(膝が内側に入る)になり怪我をしました。診察では膝前十字靭帯の緩さ・膝関節不安定性があり、手術も検討されたが膝不安定性に対するリハビリを行い、ラクロスに復帰しました。
ラクロスはプレー可能でありましたが疼痛が再発してしまいました。MRIより膝前十字靭帯の連続性はありましたが靭帯の太さの減少があり理学所見より回旋不安定性を認め、膝前十字靭帯部分損傷と診断されました。本人がスポーツ完全復帰を希望し、主治医の判断でラクロスへの完全復帰を目的として半腱様筋・薄筋腱を使用して膝前十字靭帯再建術が決定。

術式の選択・手術方法

カッティング動作が多いラクロスの競技特性から膝の前後・回旋の両運動方向を十分制動できるように再建靭帯を半腱様筋・薄筋腱の2本を使用し、2ルートの手術(前十字靭帯を2本再建する手術)を予定していました。また、これまでのスポーツ歴(高校までスポーツをしてない)を考え、筋力の回復を踏まえて患側採取にしました。手術中の所見で膝前十字靭帯の連続性は認めましたが、靭帯の緊張がなく靭帯自体が薄くなり伸びている状態でありました。膝の回旋動作を制動するなど靭帯の役割を十分行えていないと判断し、膝前十字靭帯の再建を行うことにしました。

リハビリテーション

リハビリテーション(手術後3か月まで)

この患者様は関節弛緩性が強く、体が柔らかいです。そのため、膝関節の可動域はスムーズに獲得できました。関節が柔らかいことから可動域を獲得していく中で再建した靭帯に負担がかからないように工夫しました。強制的に可動域を無理に拡大させずに正常な関節運動が獲得できるように注意してリハビリを実施しました。
筋力については術前から筋力低下が認められたため筋力の回復に時間を要しました。筋力トレーニングは筋肉の1つ1つに分けて負荷が低い体重をかけないトレーニングから開始し、徐々に体重をかけたトレーニングに移行し、負荷を強くしました。その後、動作の中で筋肉を使えるように動作トレーニングに移行し実施しました。
スポーツ復帰の際には膝関節を補助的にサポートできようにテーピング、装具を装着の指導をしました。これにより手術前からある関節弛緩性に対してサポートすることができ、膝関節への不安感の軽減を図りました。

アスレティックリハビリテーション(術後4か月以降)

スポーツがラクロス、ポジションがディフェンスのため細かいステップワークを必要とします。また、相手のフェイントなどの動きに合わせた動作を行わなければなりません。競技復帰に向けた時期ではラダートレーニングでステップワークを行い、相手の動きに合わせて動けるように急な切り替えしやストップ動作にも対応できるよう反応ドリルを反復しました。再受傷を予防するために、片脚でのスクワット動作で膝が内側へ入らぬよう徹底指導しました。

ラクロス復帰状況

術後は1.5ヶ月で松葉杖を外して正常歩行獲得、1〜4ヶ月で基礎筋力強化と各種スクワット動作、4ヶ月でジョギングと各種ジャンプ動作、5ヶ月以降でアジリティトレーニング等を行いました。6か月以降から対人プレーが加わる練習項目以外の練習からラクロスに徐々に復帰し、8ヶ月で制限なく練習復帰可能になりました。 
競技復帰に際しては関節可動域や筋力だけでなく、ラクロス動作時の身体の使い方なども考慮したトレーニングが必要になります。 ポジションがディフェンスということも考慮しフェイントなどの相手の動きに対応できるようなアジリティートレーニングも行いました。段階的にリハビリを行うことで、ラクロスへの完全復帰を実現しました。