第35回日本臨床スポーツ医学会学術集会 参加報告
学 会:第35回日本臨床スポーツ医学会学術集会
日 時:2024年11年16日(土)~17日(日)
場 所:朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
2024年11月16日~17日に第35回日本臨床スポーツ医学会学術集会が開催されました.
アレックスメディカルグループか多くのスタッフが発表し,日頃の取り組みや研究成果を共有しました.
本学会に参加して最新のスポーツ医学に関する知識を得ることができました.
本学会で得られた知見を活かし,痛みの早期改善やアスリートの早期復帰に向けてより良い治療を提供できるように精進してまいります.
以下,アレックスメディカルグループの発表演題です.
日高宏一郎 理学療法士
「男子体操競技選手における膝前十字靭帯損傷発生の特徴」
今回,男子体操競技選手における膝前十字靭帯損傷の発生に特徴があるかを調査しました.
その結果,跳躍系の種目での受傷が多く,ひねり回数が多い技で受傷する傾向でした.
また,受傷側と着地方向が有意に関係し,前方着地で同側受傷,後方着地で反対側受傷が多いことがわかりました.
これまで男子体操競技選手の前十字靭帯損傷の報告は少なく,本研究の結果から体操競技選手の前十字靭帯損傷のリハビリテーションや予防に活かしてまいります.
杉坂朋美 理学療法士
「慢性腰痛に対するRECOREを用いた腹部体幹筋力強化エクササイズが腹横筋・多裂筋の筋厚変化率に与える影響」
今回,慢性腰痛に対してRECOREを用いた腹部体幹筋力強化エクササイズの即時効果について発表しました.
慢性腰痛者は健常者と比較して,多裂筋および腹横筋の筋厚変化率が有意に小さいと報告されており,慢性腰痛には多裂筋や腹横筋の筋厚変化率の低下が関与している可能性が考えられます.
体幹のトレーニング機器であるRECOREを用いたトレーニングによる筋力改善効果が報告されていますが,多裂筋や腹横筋の筋厚変化率の変化については明らかになっていません.
そのため今回の研究では,RECOREでのトレーニング前後の多裂筋・腹横筋の筋厚変化率を確認しました.結果,RECOREを用いた体幹エクササイズは,多裂筋の賦活化に効果があることが示唆されました.
引き続き,慢性腰痛でお困りの患者さまにより良いリハビリを提供できるよう精進してまいります.
井関航 理学療法士
「骨粗鬆症性椎体骨折患者のスポーツ中の受傷・スポーツ習慣の有無および種目に関する記述疫学調査」
今回,骨粗鬆症性椎体骨折(脊椎圧迫骨折)について発表しました.
内容は,日常生活で圧迫骨折が発生する報告はされていますが,スポーツ中にも圧迫骨折が発生している可能性があるのではないかと考え,①スポーツ中に圧迫骨折が発生しているか,②どのように受傷しているか,③圧迫骨折が発生した患者さまは受傷前から運動習慣があるのか,④そのスポーツ種目は何かを調査しました.
その結果,スポーツ中の圧迫骨折発生率は全体の約4%であり,受傷理由は「スポーツ中の転倒が」全体の46%と最多でした.
圧迫骨折患者さまの約20%に受傷前から運動習慣を認めました.
スポーツの種目は,トレーニングジム,ヨガ,ピラティスなどの「フィットネス系」の種目が全体の約52%を占めました.
スポーツ中に圧迫骨折を受傷する患者さまは,球技や対人スポーツなどの種目で「スポーツ中の転倒」が多く,トレーニングジムの利用者では「トレーニングやストレッチなどの動作中」に多く発生していることが分かりました.
そのため,受傷理由に合わせて圧迫骨折患者さまのリハビリテーションをオーダーメイドにカスタマイズする必要性があると考えることができました.
引き続き研究を続けて,より良い情報を提供できるように頑張っていきます.
勝又哲 理学療法士
「片側腰椎分離症に対する半硬性装具とギプス固定による骨癒合率および癒合期間の検討」
今回,腰椎分離症について発表しました.
内容は腰椎分離症の装具として硬性装具が選択されることが多いですが,装着ストレスが高く通院中断につながることが多いため,当院では半硬性装具(アルケア社製ライトブレース)にギプス固定を追加する固定方法を考案し使用しています.
本研究の目的は,片側腰椎分離症に対する半硬性装具とギプス固定による骨癒合率および癒合期間を明らかにすることでした.
本研究の結果,硬性装具と同等の骨癒合率が得られました.
しかし,骨癒合率は硬性装具に比べると癒合期間が長い傾向にあるためさらなる検討が必要と考えます.
最近の報告でも,腰椎分離症の病期が進行すると骨癒合が得にくいとされています.
早期に子供の腰痛を発見することが非常に重要です.子供に少しでも腰に違和感があった,1回でも腰に痛みがあった場合にはMRI検査をお勧めします.
「腰痛撲滅」のために,まずは早期発見を目指し,日々臨床に取り組んでいきたいと思います.
髙野秀人 理学療法士
「急性足関節外側側副靭帯損傷に対する拡散型圧力波治療により即時除痛が得られた一症例」
足首の捻挫はスポーツ外傷全体の約25%を占め,その85%が外側に生じます.
通常の足関節捻挫(ここでは頻度の高い外側靭帯損傷のこととします)の治療としてはギプスによる固定や,内服,テーピング,サポーターなどがあります.
近年では拡散型圧力波がスポーツ現場でも用いられており,筋損傷に対する効果も報告されています.
拡散型圧力波は炎症を抑える効果や痛みを軽減させる効果があります.
今回足関節捻挫の急性期における除痛に対して効果的であった症例を経験したため,その治療経過を発表しました.
拡散型圧力波に関しての記事はこちら(リンク)
https://ar-ex.jp/nagano/154245127493/%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84%E3%83%BB%E9%9B%A3%E6%B2%BB%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E5%A4%96%E6%9D%A5
この症例では足関節外側靭帯と診断されたのち(骨折を除外),拡散型圧力波を実施することで直後から痛みの強さが70%軽減しました.
痛みを軽減できたことでスムーズに運動療法(可動域訓練やバランス訓練)に移行することができ,リハビリテーションを継続しつつ元のスポーツに復帰しました.
注意点として,組織の治癒期間の面では十分でないことがあげられます.
靭帯損傷の治癒期間は4~8週程度を要するため痛みが減ったからといってすぐに元のスポーツに復帰すると再度受傷する可能性が高くなります.
スムーズなリハビリテーションを実施するためのオプションとして拡散型圧力波は有効である可能性がありますが,その利用に関しては十分に選手・医師・理学療法士・トレーナーと話し合ったうえで決めていく必要があります.
長野整形外科クリニックでは地域スポーツに対し貢献できるクリニックになるため,引き続き自己研鑽に励んでいきたいと思います.
久保大輝 理学療法士
「高校野球選手における投球障害既往とトランクローテーション角度の関係」
今回の発表ではトランクローテーション(体を捻る動き)を四つ這いで行い,投球障害の既往との関係を調査しました.
投球障害とトランクローテーションの関係については,様々な報告がされていますが,意見は定まっていません.
投球障害の既往歴との関係性に関する先行報告もないため,今回調査を行いました.
投球動作の肩最大外旋:MERというフェーズでは,肩や肘関節の障害が多く発生します.
その際の肩や肘のストレスを減らすためには胸郭の柔軟性が重要です.
トランクローテーションは胸郭の柔軟性の評価やエクササイズとして,スポーツ現場でよく使われています.
クリニックにおいても胸郭の動きを改善するためのエクササイズとして患者さんに指導することもあります.
今後も自己研鑽を継続して,高校野球選手の障害予防のために,調査やより良いリハビリテーションを提供していきます.
池津真大 理学療法士
「足底腱膜炎に対する TENEX を用いた経皮的超音波腱切離術後に理学療法と体外衝撃波の併用により早期ランニング復帰を達成した女性ランナーの一症例」
足底腱膜炎は,踵部痛の代表的な足関節疾患であり,ランナーに多く発生することが報告されています.
近年,足底腱膜炎に対する治療としてTENEXを用いた経皮的超音波腱切離術が報告されています.
治療メカニズムとしては,変性した腱を乳化,吸引することで除痛が得られると考えられています.
TENEX治療に関しての記事はこちら
https://ar-ex.jp/oyamadai/989753426210/%E8%B6%85%E9%9F%B3%E6%B3%A2%E5%90%B8%E5%BC%95%E6%B2%BB%E7%99%82TENEX%E2%93%87%EF%BC%88%E3%83%86%E3%83%8D%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%EF%BC%89
また,足底腱膜炎に対する体外衝撃波や理学療法の有効性も報告されています.
今回,足底腱膜炎に対するTENEXを用いた経皮的超音波腱切離術後に理学療法と体外衝撃波の併用により早期ランニング復帰を達成した女性ランナーの治療成績を発表しました.
本症例のランニング復帰は,術後2ヵ月で達成し,術後3ヵ月でハーフマラソン完走,術後6ヵ月でフルマラソンを完走することができました.
本症例はTENEX治療と理学療法,体外衝撃波の相乗効果によって早期に疼痛と機能が改善し,ランニング復帰を達成できた可能性があります.
アレックスでは,最新治療の併用によって早期除痛,早期スポーツ復帰を目指してまいります.
田中聡子 理学療法士
「腹直筋離開を有する妊婦の腹筋運動が腹直筋間距離に与える影響」
腹直筋離開とは,左右の腹直筋が腹部の真ん中から左右に開いてしまう状態です.
妊娠中や産後の女性に,よくみられる症状であり,腹直筋離開があると,お腹に力が入りにくかったり,ぽっこりお腹に見えやすくなったりします.
多くが妊娠中に発症するので,妊娠中の予防,改善が望まれます.
妊娠中や産後の運動は腹直筋離開の改善に効果的である,との報告はありますが,どのような運動がよいのか,は,まだよくわかっていません.
そこで,今回,42名の妊婦さんにご協力いただき,Head up運動とDraw in運動による変化を調べました.
結果,どちらかの運動が望ましいか,ではなく,人によって適している運動が違うことがわかりました.
運動は,専門家の評価の元で,正しく行うことが,良い結果を得る近道のようです.
妊娠・出産,更年期など,女性特有の変化と,身体への影響について,これからも研究を続け,得られた知見を臨床に活かしてまいります.
ご協力くださった妊婦の皆様へ心より感謝申し上げます.