前十字靭帯断裂から体操競技への復帰
多くの方は、スポーツ選手がどこで誰に手術を受けても同じ結果になると考えているかもしれません。しかし、それは全く異なります。手術の方法や術者の技術により、早期での完全復帰の成果は大きく異なるからです。今回の体操選手に施行した手術は、膝前十字靭帯(ACL)再建術の中から、AR-Ex独自の方法を用いて高精度で行ったものです。この手術方法は行なっている病院が少なく、史野先生が開発した「outside in 2ルート」という技術をAR-Exが独自にアレンジしたものです。ACL再建術は、スポーツ選手一人一人に対してオーダーメードで行うべきだと考えています。身体の柔軟性などの遺伝的要素、スポーツの種目、ポジションなど、あらゆるバックグラウンドを考慮して手術方法を決定しています。
前十字靭帯の手術の3つの重要なポイント
- 靭帯を通す穴をどこに開けるか。1mmのずれもなく、元々の靭帯が付いている場所に正確に開けられるか(解剖学的再建)。
- 切れた靭帯は使用できないため、どの腱を代わりに使用するか(採取した腱によるデメリットも含めて)。
- 前十字靭帯と合併した軟骨や半月板をどのように温存し、治療するか。
その他にも重要な要素はたくさんありますが、特に大切な部分を挙げさせていただきました。スキルの高いoutside in法の手術が前提であり、それと同様に高いレベルのリハビリテーションが早期の完全復帰には不可欠です。
前十字靭帯(ACL)再建術におけるoutside in法は,大腿骨孔を作成する方法の一つです.Outside in法では,大腿骨の外側から内側に向かって骨孔を作成し,より解剖学的に移植腱を配置することがでます
outside in法は,transtibial法と呼ばれる大腿骨孔を作成する方法よりも膝の回旋不安定性が改善される
前十字靭帯再建術後のリハビリテーションのポイント
前十字靭帯再建術後のリハビリテーションは時間ベースとタスクベースの考え方が重要になります。時間ベースの考え方は再建した前十字靭帯の成熟度に関係しています。再建した前十字靭帯がスポーツに耐えれる強度になるには時間がかかります。どんだけ調子が良くても再建した前十字靭帯の強度が戻ってない時期にスポーツをしてしまうと再断裂のリスクが高くなります。もう一つのタスクベースは膝関節の可動域や筋力が戻っているか、前十字靭帯に負担がかかるような身体の使い方を改善させてるかなどのタスクをクリアしていくことが重要になります。
いくら前十字靭帯の強度が戻り時間的な問題をクリアしていても、可動域や筋力が戻ってないなどのタスクベースの問題が残存しているとスポーツに復帰しても再断裂の可能性が高くなったり、スポーツ時の痛みが残ってしまう可能性があります。体操競技は他の競技との大きな違いは回転運動を制御する必要があることです。それはバスケットボールではドリブルの前後、左右の運動やリバウンドの垂直方向の運動の制御ですが、体操は宙返りやひねり動作といった回転運動の制御が必要になります。そのためリハビリでは回転運動からの着地の練習も重要になります。
今回の選手の場合は可動域も術後早期から問題なく獲得でき、筋力も術後3ヶ月の段階で左右差がないくらいまで回復していました。また、チームやクリニックでも着地の練習は重点的に行いました。
今後もトップアスリートに対して、再断裂を防ぎ、早期の完全復帰を実現できる手術や治療法を創造していきたいと考えています。