鏡視下肩関節唇形成術後にソフトテニスに復帰された患者様

肩関節唇損傷は野球・テニス・水泳など、肩をよく使うスポーツに発症しやすい疾患です。損傷の原因として、肩関節の酷使による慢性的なもの、一瞬の強い力がかかることにより起こる外傷があります。関節唇とは関節窩の周りを取り囲む線維性の軟骨組織であり、関節唇が関節窩の凹みを深くすることで関節を安定化させています。そのため損傷により安定性が失われることとなり、肩関節に痛みや脱臼・ひっかかり感を感じるようになります。

今回は、ソフトテニスでのボール返球時(外転外旋位)に肩関節唇を受傷し、肩関節唇形成術を受けられた方の競技復帰までの過程を紹介します。

患者紹介

2016年4月にソフトテニス中に右肩関節を外転外旋位でボールを打ち返した際に脱臼感があり、自己整復をした上で、佐久平整形外科クリニックを受診されました。右肩関節唇損傷の疑いと診断し約3ヶ月間リハビリテーションを行いました。しかし、症状改善がなく造影MRI検査を施行し、結果より前方関節唇損傷と骨性Bankart病変と診断されました。ソフトテニスでのサーブ・スマッシュ時の疼痛・脱臼感などの症状が改善されず、今後も競技を続けるために手術を決められました。
術後6週間は前方の肩関節唇を縫合しているため肩関節の外旋角度が出すぎないように注意しながらリハビリテーションを行いました。術前より肩甲骨を固定する力・体幹を支える力が弱かったため、ご自宅とクリニックとでトレーニングを続けました。その結果、術前よりも強い体を作ることができ、術後5ヶ月頃より部分練習再開、術後8ヶ月頃より競技復帰されました。

患者データ

性別:男性  年齢:33
スポーツ歴:ソフトテニス17年
術式:鏡視下肩関節唇形成術+遊離体摘出術

現病歴:ソフトテニス中に右肩関節を外転外旋位でボールを打ち返した歳に脱臼感が出現しました。佐久平整形外科クリニック受診し右肩関節唇損傷の疑いで3ヶ月間リハビリテーションを行いましたが、症状改善なく造影MRI検査施行し、結果より前方関節唇損傷・骨性Bankart病変と診断されました。疼痛・脱臼感などの症状改善がみられず競技継続を希望されたため、鏡視下肩関節唇形成術を施行し、その術中で遊離体を発見したため摘出術も施行しました。

理学所見

術前 術後6ヶ月
可動域 屈曲 180 180
外転位外旋 90 90
C7TD 16 10
整形外科テスト Crunk
Silcus sign

術前 術後6ヶ月
筋力(健患比:% ) 屈曲 101 107
*マイクロFET 外転 114 116
棘上筋 96 114
下垂位内旋 119 153
   外旋 95 112
外転位内旋 108 99
   外旋 108 97

画像所見

術前:前方関節唇損傷あり 術後6ヶ月

術前:骨性Bankart病変 術後約6ヶ月

手術所見

遊離体 遊離体摘出時

前方関節唇損傷 損傷部位を縫合中 縫合終了

執刀医師より

オーバーヘッドスポーツの手術適応はとても考えます。
今回は残念ながらリハビリテーション等だけでは痛みや不安定感が改善しませんでした。
関節窩の骨片を引き上げて鏡視下Bankart修復術と術中に発見した遊離体を摘出しました。
肩関節だけでなく肩甲帯、体幹機能の重要性を理解してもらった上で手術を行い、術後に担当療法士の
指導の元でアスレティック・リハビリテーションを行い競技復帰を果たすことが出来ました。
今後のご活躍を期待しています。

リハビリテーション


 

サーブなどの頭の上でラケットを操作する場面も多いスポーツですので、
肩のどの角度でも筋力発揮できるようにトレーニングを進めていきました。
様々な場面を想定して、肩の角度を少しずつ変えながら
肩甲帯・腱板のトレーニングを実施しました。


 

肩関節不安定症は腱板の筋力のみならず
肩甲帯や体幹の土台となる筋力が非常に大事であり術前からトレーニング実施しました。
術後も早期から肩甲骨帯や体幹トレーニングを行いました。
肩甲帯・体幹がしっかりついたため、腱板の筋力も発揮しやすくなり肩の安定性につながったと思います。

担当理学療法士より

術後はテニスのフォアハンド、スマッシュ、サーブで不安定性が出ないように注意しました。
外転外旋位は不安定性が出現する好発肢位であり、術前もその傾向にありました。
しかしテニスを行う上では必要な肢位でもあるため、医師とディスカッションを行いながら
​特に1st、2nd外旋の可動域獲得時期に注意しながら、可動域の改善を図りました。

アスレティックリハビリテーション

  アリゲーター
  肩甲帯周囲筋・体幹固定力、上肢下肢の協調性向上のために取り入れたトレーニングです。

  この運動では、オーバーヘッドのから脇を締める状態まで体を支える必要があります。
  そのため、肩だけに負担がかからないよう肩甲帯周囲・体幹を意識して行ってもらいました。
  さらに、右手左脚・左手右脚など対角線上の動きがバラバラにならないようにも注意しながら
  段々と距離を伸ばして行いました。

壁打ち
伸張反射を利用した、筋力を素早く発揮するためのトレーニングです。

返球・サーブ等ではインパクト時に合わせた筋発揮が求められます。
とくに患者様はサーブ時ののインパクトで脱臼感を感じるとのことでしたので肩甲帯の浮き上り、体幹のぶれはないかなども注意しながら、トレーニングを行いました。

担当トレーナーより

術前より、肩甲骨周囲筋・体幹固定力の弱さがありました。
そのため当初はターゲットの筋肉を少なくし意識出来るように注意して行いました。
徐々に胸椎や胸郭などの他の部位の動きも含めて行えるように段階を上げてトレーニングを行いました。

患者様のご理解があり、ご自宅でもしっかりトレーニングを継続して行えたため
肩甲骨周囲・体幹を支える力は術前よりも強くなり良い状態を作ることが出来ました。

スポーツ復帰状況