肩脱臼について

肩関節脱臼とは

肩関節脱臼はラグビーや柔道などのコンタクトスポーツ に多く見られる疾患です。地面に体を打ち付けたり、肩の脱臼を誘発する体勢を強制されることで脱臼が起こります。よって外傷による受傷がほとんどです。また、一度脱臼した肩関節は不安定性が出現し、脱臼を引き起こ しやすくなります。何度も脱臼をすることで、日常生活動作でも脱臼するようになり生活に支障をきたす状態を反復性肩関節脱臼と言います。

肩関節の構造

肩関節は肩甲骨と上腕骨の間の関節です。肩甲骨と上腕骨は周囲の靱帯で繋がっており、骨による支持がないため可動性が大きい特徴があり ますが、外力には弱く他の関節と比較すると不安定な関節です。

肩関節脱臼の病態

肩関節上方は骨の形状がアーチ状になっているため、脱臼は前方、下方、後方どの方向にも起きますが、後二者は少なくほとんどが前方脱臼です。肩関節が脱臼すると肩関節周囲の靱帯が剥がれたり、切れたりするため、肩の不安定性は非常に強くなります。

肩脱臼の頻度

全人口では、10万人都市では、1年間に23.9人の肩脱臼患者が生じます。一方、大学生アスリートのようなハイリスクグループでは、1年間に10万人あたり最大169人の肩脱臼が生じます。

PATRICK, Cole M., et al. Epidemiology of shoulder dislocations presenting to United States emergency departments: an updated ten-year study.World Journal of Orthopedics, 2023, 14.9: 690.

アスリート300人が300回ほど(約1年間)練習した場合(100000 athlete-exposures)、高校生で2人、大学生では2.5人の肩脱臼が生じます。

KRAEUTLER, Matthew J., et al. Epidemiology of shoulder dislocations in high school and collegiate athletics in the United States: 2004/2005 through 2013/2014.Sports health, 2018, 10.1: 85-91.

肩脱臼を繰り返すリスクファクター

初めて肩脱臼した人の39%が再脱臼します。特に関節が緩い人・40歳未満の人・骨性バンカート左記の方は要注意です。

OLDS, M., et al. Risk factors which predispose first-time traumatic anterior shoulder dislocations to recurrent instability in adults: a systematic review and meta-analysis.British journal of sports medicine, 2015, 49.14: 913-922.

肩脱臼の整復方法

痛みなく整復できているということは、整復時に、傷つけていないことになり、一番大切なことです。。少ない頻度のケースで整復時に肩のグレノイド骨折(骨性バンカート)が起きています。FARES (FAst, REliable, Safe)法が最も痛みなく整復できると私個人が持っています。

ALKADUHIMI, H., et al. A systematic and technical guide on how to reduce a shoulder dislocation.Turkish Journal of Emergency Medicine, 2016, 16.4: 155-168.

肩脱臼のリハビリテーション

肩脱臼のリハビリテーションは、肩の筋力や可動域を回復させ、再発を防止するための重要なプロセスです。初期段階(安定性の回復):痛みや腫れの軽減のため、包帯やスリングを使用して肩を安定させます。

  • 保護された状態で肩の可動域を維持するための軽度な運動を行います。
  • 筋力トレーニング:肩の周囲の筋力を回復するために、軽い抵抗を使った筋力トレーニングを開始します。これには、肩の外旋や内旋、上腕二頭筋、三角筋などの筋肉を対象とする運動が含まれます。レジスタンスバンド(チューブ)や軽い重りを使ってトレーニングを行います。ただし、痛みを感じない範囲で行うことが重要です。
  • 可動域の向上:肩の可動域を改善するためのストレッチや可動域運動を行います。これにより、肩の柔軟性が向上し、日常生活での機能が改善します。肩の前方、後方、外旋、内旋などの方向に対するストレッチを行います。
  • 機能トレーニング:日常生活やスポーツで必要な動作に焦点を当てた機能トレーニングを行います。例えば、物を持ち上げる、物を運ぶ、投げるなどの動作を模倣したトレーニングを行います。アスリートでは、特に競技に特化した機能トレーニングが大切です。
  • 予防と自己管理:再発を防ぐために、肩の周囲の筋力や柔軟性を維持するための運動プログラムを定期的に続けます。
  • 適切な姿勢や体力トレーニングを通じて、肩に過度の負荷をかけないようにします。特に肩脱臼後はScapula dyskinesiaになりやすく、肘や頸・腰に負担がかかりやすいので、Scapula dyskinesiaの改善も大切です。

リハビリテーションは患者の状態に応じて調整され、一人一人に特別なメニューが作成されます。医師と理学療法士のチームの指示に従い、リハビリプログラムを適切に実施することが重要です。

肩脱臼のスポーツ復帰

アスリートは早期復帰が必要です。しかし、その判断は難しいです。アメリカのスポーツ雑誌に掲載された肩脱臼後の競技復帰の目安を紹介します。肩脱臼後3週間で競技復帰を目指し、リハビリを行います。

WATSON, Scott; ALLEN, Benjamin; GRANT, John A. A clinical review of return-to-play considerations after anterior shoulder dislocation.Sports Health, 2016, 8.4: 336-341.

肩脱臼の内視鏡手術(低侵襲)

手術すべきか手術しないべきか

保存療法・リハビリで症状が改善せず、肩の不安定感・脱臼感が残存する方に対して、手術療法を検討します。 近年、はじめての肩脱臼患者さんでも保存療法では、肩の不安定感が多く残存するという研究結果があり、手術を選択すべきか選択すべきでないかを患者さんの希望をヒアリングし、相談し検討しています。

”はじめて肩脱臼された患者さんの肩の不安定感の残存率:手術療法6.3%に対して保存療法46.6%”

どのような手術を選択すべきか (ISAKOSガイドライン)

手術療法については、ISAKOSのガイドラインを参照

し、3つの方法を採用しています。
①:関節鏡視下バンカート修復術 (Arthroscopic Bankart repair)
②:関節鏡視下レンプリサージ (Arthroscopic Remplissage)
③:関節鏡視下関節窩再建術 (Arthroscopic Anatomical Glenoid Reconstruction)

関節鏡視下バンカート修復術 Arthroscopic Bankart Repair

肩の脱臼により損傷した前方関節唇を修復します。

レンプリサージ Arthroscopic Remplissage

”最近の発表では、Remplissageをしても、動きの制限は外旋で10度ほど(術後1年)で術後2年時には制限がなくなることがわかっています。”

関節鏡視下関節窩再建術 :Arthroscopic Anatomical Glenoid Reconstruction)

肩を脱臼した際に、関節窩が骨折を起こすことがあります。その場合、受け皿が小さくなってしまい、肩が脱臼しやすくなります。その小さくなった受け皿を大きくする方法がAAGRです。AAGRの分野で第一人者であるカナダ・ダルハウジー大学スポーツ整形外科Ivan Wongの方法を模倣し、手術を行っています。