第18回日本肩の運動機能研究会 学術発表報告
2021/12/17
2021年10月29日(金)~10月30日(土)にウインクあいち(愛知県産業労働センター)で第18回日本肩の運動機能研究会が開催されました。
当院からは、池田朱里 理学療法士が「健常者と凍結肩患者における肩関節挙上時の肩甲骨後傾運動」,池津真大 理学療法士は「肩関節複合体からみた中年者および凍結肩患者における肩関節挙上角度に影響を及ぼす要因」兼岩淳平 理学療法士は「Scapular DyskinesisのTypeごとの機能的差異の検討」について発表しました。
以下に発表内容とコメントを掲載致します。
<池田理学療法士>
肩関節の動きの制限や痛みを主症状とした、『凍結肩』で悩みを抱え当院へ来院する患者様は多くいらっしゃいます。私たち理学療法士は、肩で悩みを抱える患者様に対し、肩甲骨の動きを評価し、治療に活かしていますが、凍結肩の患者様がどのような肩甲骨運動を呈するのか明らかにされておりません。
そこで、臨床現場で簡易に測定できるiPhoneのアプリケーションを用い、凍結肩の患者様の多くの方が困っている腕を上げる動き(肩挙上運動)の肩甲骨後傾運動を評価いたしました。結果は健常人より凍結肩の患者様の方が肩甲骨の後傾角度が大きいことが分かりました。
このことから、凍結肩の患者様の肩挙上運動は肩甲骨の運動に異常があり、それを踏まえ、治療していくことが必要であると考えております。
今後も研究を進めて,凍結肩患者様に対する最善の治療を提供できるよう努力してまいります.
<池津理学療法士>
凍結肩(五十肩)の患者さんは,肩の関節可動域が制限されてしまいます.臨床上,治療の効果判定として腕を挙げる角度(肩挙上角度)を用いることが多いです.しかし,凍結肩の患者さんにおける肩挙上角度に影響を与える因子に何が関与しているのか十分に明らかにされていませんでした.そこで,今回の研究は中年者と凍結肩の患者さんを対象に,様々な方向の肩の角度や肩甲骨の動きが肩挙上角度に影響を及ぼすか調査しました.
その結果,肩挙上角度には腕を外側に開く角度(下垂位肩外旋可動域),腕を水平にしたまま脇を絞める角度(肩水平内転可動域),肩甲骨が後方に傾斜する運動量(肩甲骨後傾運動量) が影響を及ぼす因子であることが明らかになりました(図1).
(図1) 肩挙上角度に影響を及ぼす因子
このことから,肩挙上角度を増加させるためには肩の可動域のみではなく肩甲骨運動に対する治療を実施することが重要であると考えています.
今後も研究を進めて,凍結肩患者さんに対する最善の治療を提供できるよう努力してまいります.
<兼岩理学療法士>
当院に「肩が動かない」、「動かすと痛い」といって来院される方は非常に多く、我々はどのような治療がより効果的か常に考えて治療にあたっています。肩の痛みへの治療介入は腕の骨である上腕骨と土台となる肩甲骨の間の関節だけでなく肩甲骨の位置や動きなどにも行われます。しかし、肩甲骨の位置や動きは評価が難しく、何が異常なのか?どのような治療をしたらいいのか?ということは不明確です。
治療現場で肩甲骨の動きを簡便に評価する方法として視覚的に肩甲骨の動きを判断するScapular Dyskinesisというものがあります。この方法では腕の上げ下ろしに際して肩甲骨の下側が浮かび上がる群、内側が浮かび上がる群、肩甲骨が上方向に動きすぎる群、正常の群の4群に分類します。
しかし、Scapular Dyskinesisでは4つの群にどのような機能的な差異があるのかは不明確です。また、視覚的な判断なので判断する人が変わると結果が変わってしまうことがあります。
そこで我々はスマートフォンに内蔵されているジャイロセンサー(加速度計)を用いて肩甲骨の動きを測定する方法を考案し、その測定精度について様々な学会で報告を行ってきました。今回私は、我々の考案したスマートフォンを用いた評価でScapular Dyskinesisの4つの群を定量的に裏付けできるのかを検討いたしました。
その結果、Scapular Dyskinesisの4つの群は肩甲骨の動きの実測値では正確に分類できないことが分かりました.視覚的な評価は簡便ではありますが、その精度の低さが問題になります。
今回の結果から実測値を測定することが肩甲骨の評価には必要ではないかと考えられました。このような研究をすることで私達理学療法士が治療介入するべき問題が明確にでき、治療がより効果的に行えるようになると思います。今後も研究活動を含めて自己研鑽を続け、来院される方々により良い治療を提供できるように精進してまいります。