肘頭滑液包炎
症状
肘頭滑液包炎(ちゅうとうかつえきほうえん)は、肘の先端にある骨(肘頭)の皮膚の下にある「滑液包」という袋が炎症を起こし、内部に液体が溜まって腫れる病気です。滑液包は関節の動きを滑らかにするクッションの役割を果たしていますが、炎症が起こると機能が損なわれ、腫れや痛みを引き起こします。初期は痛みが少ない場合もありますが、進行すると日常生活に影響が出始めます。
肘頭滑液包炎で現れる具体的な症状は以下の通りです。
- 肘の後ろ側の目立つ腫れ: 肘の先端部分に、水風船のように柔らかくポコッとしたしこり(腫れ)ができます。これは炎症により滑液包の中に液体が溜まっている状態です。
- 圧迫や動作に伴う痛み: 腫れている部分を押したり、硬い床などに肘をついたりした時に痛みを感じることがあります。また、肘の曲げ伸ばしで違和感や軽い痛みを伴う場合があります。
- 急激な熱感と強い痛み: 腫れが急に大きくなり、患部が赤く熱を持ったり、激しい痛みが現れたりした場合は、細菌感染(化膿性)の可能性が高く、速やかな治療が必要です。
肘の腫れを単なる打撲だと軽視していると、溜まった液体が吸収されずに硬く残ったり、細菌感染を併発して症状が重くなるリスクがあります。違和感を感じたら、早めに専門的な診断を受けることが大切です。
原因
滑液包炎の主な原因は、日常生活やスポーツで肘に繰り返し起こる負担や外傷ですが、単なる局所の問題だけでなく、全身の病気や細菌感染が背景にある場合もあります。原因を正しく特定することは、再発予防と適切な治療につながります。
肘頭滑液包炎を引き起こす具体的な原因には、次のようなものがあります。
- 慢性的かつ反復的な摩擦や圧迫:長時間にわたり硬いデスクなどに肘をつく習慣があると、滑液包が繰り返し圧迫され、摩擦により慢性的な炎症が起こり液体が溜まりやすくなります。
- 一度の外傷(打撲や転倒): 肘を強くぶつけたり転んだりした際の打撲が引き金となり、滑液包内部に出血や炎症が発生することがあります。
- 細菌による感染(化膿性): 肘周辺の皮膚の小さな傷などから細菌(特に黄色ブドウ球菌)が侵入し、滑液包内で繁殖することで急性の感染症を引き起こすことがあります。
- 全身性の関節の病気::痛風や関節リウマチなど、全身の炎症性疾患の一部として発症することがあり、この場合、基礎疾患の治療も並行して必要となります。
単なる使いすぎと思っていても、感染や他の病気が隠れている可能性があるため、まずは整形外科で詳しい検査を受けましょう。
診断
肘頭滑液包炎の診断では、腫れの中に溜まった液体が、単純な炎症によるものか、細菌感染や他の病気によるものかを区別することが重要です。原因に応じて治療法が根本的に変わるため、適切な検査を通じて安全かつ効果的な治療へとつなげます。
当院では、問診や診察に加え、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
- 問診と診察: 症状の経緯や生活習慣、病歴などを詳しく伺い、肘の腫れ、熱感、痛みの程度などを直接確認し、初期の診断を行います。
- 超音波(エコー)検査: 超音波を使って、滑液包の液体の量や性状、周囲の炎症の状態をリアルタイムで確認します。これは診断だけでなく、後の穿刺や注射の際にも正確な位置を把握するために役立ちます。
- X線(レントゲン)検査: 骨折や関節の変形など、他の骨や関節の病気が隠れていないかを確認するために実施します。
- 滑液検査(穿刺と分析): 細菌感染や痛風が疑われる場合、細い針で液体を採取し、細菌の有無や尿酸結晶を調べます。感染がある場合はステロイド注射が危険なため、この検査は安全な治療に欠かせません。
当クリニックでは、これらの検査を総合的に判断することで、滑液包炎の原因を明確にし、患者様にとって最も安全で確実な治療方法を決定します。
治療
肘頭滑液包炎の治療は、炎症を鎮め、滑液の貯留を抑え、再発を予防することが目的です。細菌感染を伴わない場合は、まず肘への負担を減らし炎症を和らげる「保存的治療」から開始します。
肘頭滑液包炎の具体的な治療方法は以下の通りです。
- 安静と肘への負担軽減: 肘への圧迫や長時間の肘つきを避け、可能な限り肘を休ませます。急性期には副子などで一時的に固定することもあります。
- 内服薬と外用薬: 炎症や痛みを抑えるための飲み薬や、湿布・塗り薬を使用し、症状の緩和を図ります。
- 冷却(アイシング): 腫れや熱感が強い急性期には、氷などで患部を冷やし、局所の炎症を抑えます。
- 滑液の除去(穿刺): 腫れが著しい場合、注射器で溜まった液体を抜き取り、内部の圧力を下げることで、痛みや腫れの症状を迅速に軽減します。
- ステロイド局所注射: 事前に感染がないことを確認した上で、保存療法で改善しない慢性的な炎症に対し、炎症を強力に抑えるステロイド剤を滑液包に直接注射します。
- リハビリテーション(理学療法): 痛みが治まった後、肘の関節可動域の回復や周辺の筋肉強化を行い、再発を防ぐための正しい肘の使い方を指導します。
- 感染に対する治療: 細菌感染と判明した場合、液体を排出し、感染を抑えるための抗菌薬(抗生物質)を投与します。感染がある場合はステロイド注射は行いません。
ほとんどの肘頭滑液包炎は保存的な治療で改善しますが、基礎疾患が原因の場合は、その治療も同時に必要です。また、保存療法に抵抗する難治性の慢性例では、まれに滑液包全体を取り除く手術が検討されることもあります。