上腕骨近位端骨折
症状
上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)は、肩の関節に近い部分、具体的には上腕骨(二の腕の骨)の肩側の付け根付近で起こる骨折です。転倒や外傷によって発生し、強い痛みと肩の機能の大きな制限を引き起こすため、日常生活に深刻な影響を与えます。特に高齢者の骨折として頻度が高く、早期の適切な対応が求められます。
具体的な症状としては、主に以下の点が挙げられます。
- 耐えがたいほどの激しい痛み: 転倒や外傷の直後から肩周辺に強い痛みが起こり、安静にしていてもズキズキとした痛みが続くことが多いです。
- 肩が全く動かせない(可動域の制限): 骨が折れたり、大きくずれたりしている(転位)と、痛みで自力で腕を上げたり、動かしたりすることが不可能になります。
- 腫れと皮下出血: 骨折部周辺はすぐに腫れあがり、骨折に伴う内出血によって肩から胸にかけて青あざ(皮下出血)が広がる場合があります。
- 神経・血管損傷のリスク: 骨折のズレが大きい場合、骨片の鋭い端が近くを通る重要な神経や血管を傷つけてしまい、腕や手のしびれ、感覚の麻痺、血行不良などの症状が現れる危険性があります。
上腕骨近位端骨折は、単なる痛みだけでなく、骨のズレの程度によっては神経や血管に深刻な影響を及ぼす可能性があります。肩に強い痛みや動きの制限が出た場合は、深刻な後遺症を防ぐためにも、できるだけ早く専門的な診断を受けることが重要です。
原因
この骨折は、発生する原因と患者様の年齢や骨の強度によって、大きく二つのパターンに分けられます。特に高齢者においては、骨の健康状態が深く関わっており、単なる外傷としてではなく、全身的な骨の弱さの表れとして捉える必要があります。
具体的な原因としては、以下のものが挙げられます。
- 高齢者における低エネルギー外傷: 骨粗しょう症を背景に、自宅の段差でつまずくなど、立っている自分の身長程度の低い位置からの転倒で発生します。高齢者の約80%はこの軽微な外力で骨折が生じます。
- 骨粗しょう症による骨の脆弱化: 骨がもろくなる骨粗しょう症は、この骨折を引き起こす代表的な原因の一つです。骨密度が低いことや、過去に他の部位で骨折した経験があることも危険因子として知られています。
- 若年者における高エネルギー外傷: 若い方や活動的な方では、交通事故や高所からの落下、激しいスポーツ中の衝突といった、非常に大きな外力によって骨折が引き起こされます。この場合、骨折の程度も重症化しやすい傾向にあります。
特に高齢者の場合、この骨折は骨の健康状態が悪化していることの警告サインとも言えます。骨折の治療と並行して、将来、さらに重篤な骨折を防ぐための全身的な骨のケア(骨粗しょう症の検査と治療)も検討していくことが非常に大切です。
診断
骨折の診断と、それに続く適切な治療方針の決定には、骨折の形やズレ(転位)の正確な把握が欠かせません。当院では、患者様の訴えを詳細に聞き取った上で、骨折の形態を正確に評価するための包括的な画像診断を行います。
- 問診と触診: まず、いつ、どこで、どのように怪我をしたかという受傷機転や痛みの程度を確認します。また、神経や血管の損傷を示唆する症状(手足のしびれや感覚の麻痺など)がないかを慎重に確認します。
- X線(レントゲン)検査: 骨折の有無を迅速に確認し、骨折した部分がどのくらいずれているか(転位の程度)を基本的な画像で把握します。この検査は、治療方針を決めるための基礎情報となります。
- CT検査(コンピューター断層撮影): レントゲンだけでは分かりにくい、骨折の複雑な形状や、骨折片が関節面にどの程度影響を与えているかなどを詳細に立体的に把握します。上腕骨近位端は骨頭、大結節、小結節、骨幹部の4つに分かれる傾向があるため、そのズレを正確に評価します。
- MRI検査(磁気共鳴画像): 骨折の治療方針に大きく影響を与える可能性がある、肩の腱(腱板)や靭帯などの軟部組織が同時に損傷していないかを確認するために、必要に応じて追加で行われます。腱板断裂を伴っている場合、手術の必要性やその種類が変わってくるため、この情報が非常に重要となります。
これらの総合的な診断により、骨折が安定しているか、不安定で手術が必要か、また腱板断裂などの合併症の有無を確認し、患者様にとって最も適切な治療方法を決定していきます。
治療
上腕骨近位端骨折の治療は、「骨折したズレの大きさ(転位の程度)」と「骨折の安定性」、そして患者様の活動レベルを総合的に考慮して選択します。治療法は大きく「保存療法(手術をしない治療)」と「手術療法」に分けられ、どちらの場合でもその後のリハビリテーションが機能回復の鍵を握ります。
当院では、高度な診断結果に基づき、患者様一人ひとりの生活背景や回復の目標を考慮し、最も機能回復が見込める治療方法を提案します。
- 保存療法(手術をしない治療): 骨のズレ(転位)が小さく、骨折部が安定している場合に選択されます。三角巾とバストバンド(胸に巻くバンド)を用いて、骨折部を約2〜4週間、動かないようにしっかりと固定し、骨がつくのを待ちます。
- 骨接合術(手術による骨の固定): 骨折によるズレが大きい場合や、骨折部が不安定で保存療法では骨癒合が期待できない場合に選択されます。金属製のプレートやネジなどのインプラントを用いて、骨折した骨片を正しい位置に戻して強固に固定します。
- 人工骨頭置換術: 骨折が非常に複雑で細かく砕けている場合や、骨頭(肩の丸い部分)への血流が悪くなり、骨が壊死するリスクが高い場合に検討される手術です。傷んだ骨頭の部分を人工の部品に置き換え、肩の機能温存を目指します。
- リバース型人工肩関節置換術: 重度の骨折で腱板も広範囲に損傷している場合など、特定の複雑な骨折の形態や高齢者で考慮される特別な人工関節を用いた手術です。
- リハビリテーション: 固定期間終了後または手術後の適切な時期から開始する、硬くなった関節の動き(可動域)を徐々に広げ、低下した筋力を回復させるための専門的な訓練です。この訓練が最終的な肩の機能回復には欠かせません。
最終的な目標は、痛みなく日常生活やスポーツ活動に戻っていただくことです。当グループでは、初期の治療から、専門知識を持ったスタッフによるリハビリテーションまで、患者様の回復過程を一貫してサポートし、機能の回復を徹底的に追求いたします。