離断性骨軟骨炎
症状
離断性骨軟骨炎は、主に成長期のお子様やスポーツを熱心に行う選手に発生する関節の病気です。関節を覆う軟骨と、その下の骨の一部が、周囲から分離したり、剥がれ落ちたりして関節の中に遊離してしまう状態を指します。初期段階では症状が軽いため見過ごされやすく、進行すると関節の機能に大きな問題を引き起こすことがあります。
具体的な症状としては、以下のものが挙げられます。
- 運動後の不快感や鈍い痛み: 病変の初期段階では、特にスポーツ活動の後や翌日に、関節に漠然とした違和感や重い痛みを感じることが多くあります。安静にしていると痛みが引くため、疲労や成長痛と間違われやすい傾向があります。
- スポーツ中の持続的な痛み: 病変が進行し、軟骨の表面に亀裂や変形が生じ始めると、運動中にも痛みが続き、競技パフォーマンスに明らかな支障を来すようになります。
- 関節の引っかかり感やズレ感: 骨軟骨片が完全に元の骨から剥がれて関節の中に遊離してしまうと、膝や肘を曲げ伸ばしする際に、何かが挟まるような引っかかりや、関節がズレるような感覚が生じます。
- ロッキング現象: 最も重い症状で、剥がれた骨軟骨片が関節の隙間に挟まり込むことで、関節が突然動かなくなり、固定されてしまう状態です。
これらの症状、特にスポーツ中に痛みが継続するようになったり、関節の引っかかりを感じたりする場合は、病状が進行しているサインであるため、専門の医療機関での検査が必要です。
原因
離断性骨軟骨炎は、特定の原因が単独で引き起こすのではなく、成長途上にある骨の特性と、スポーツ活動による慢性的な負荷が複合的に関与して発生すると考えられています。
原因の全体像として、成長期の骨のデリケートな部分に、繰り返しの機械的なストレスがかかり続けることが、病気の引き金となります。
- 好発年齢と性別:10代の、骨がまだ成長している最中の小中学生に最も多く発症します。また、統計的に見ると、女性よりも男性の方が約2倍の頻度で発症しやすいことがわかっています。
- 繰り返される負荷(ストレス): 野球、サッカー、バスケットボールなどのスポーツ活動によるジャンプやひねり、投球動作など、関節に繰り返し過度なストレスがかかり続けることが、発症の主な原因とされています。
- 血流の障害:慢性的な機械的負荷が軟骨の下にある骨の部分に加わり続けることで、その部分への血の巡り(血流)が悪くなります。血流が妨げられると、骨は必要な栄養を受け取れなくなり、最終的にその骨の一部が壊死(組織が死ぬこと)してしまいます。
- 骨軟骨片の分離:壊死して弱くなった骨は、周囲の健康な骨組織との結合を保てなくなり、上にある軟骨と一緒に分離して、関節の中に遊離してしまうという病態に至ります。
このように、成長期の骨の脆さに、スポーツによる負荷が組み合わさることが、離断性骨軟骨炎の発生に深く関わっています。
診断
離断性骨軟骨炎の診断において最も重要なことは、骨軟骨片が元の骨にしっかりと付着している「安定した状態」なのか、それとも剥がれかけている、あるいは完全に剥がれてしまった「不安定な状態」なのかを正確に見極めることです。この安定度の評価が、その後の治療方法を決定する鍵となります。
1. 専門的な画像検査
初期の離断性骨軟骨炎の病変は、一般的なX線(レントゲン)撮影では見えにくいことが多く、見落とされてしまう可能性があります。そのため、症状が軽くても、成長期のスポーツ選手に痛みが続く場合は、より詳細な画像検査が不可欠となります。
- X線(レントゲン)検査:病変が進行し、骨の一部が分離・遊離してくる時期には異常所見が確認できるようになりますが、初期段階では特殊な方向からの撮影が診断の手がかりとなります。
- MRI(磁気共鳴画像)検査:離断性骨軟骨炎の確定診断に最も重要とされる検査です。MRIでは、病変の大きさ、関節軟骨の状態、そして骨軟骨片がどれだけ元の骨から分離しているか(安定度)を詳細に評価できます。この安定度の評価に基づいて、保存的治療で治癒を目指せるか、手術が必要になるかを判断します。
- CT検査:骨の欠損の形状や、完全に遊離してしまった骨片が関節内のどこにあるのかを立体的に、より正確に把握するために補助的に使用されることがあります。
2. 診断の重要性
特に成長期にある患者様の場合、骨軟骨片が安定している初期の段階で精密なMRI診断を行い、適切な安静を指示することが、手術を回避し自然治癒を期待するための決定的な一歩となります。
治療
離断性骨軟骨炎の治療は、患者様の「成長期であるかどうか」と「骨軟骨片の安定度」を考慮して選択されます。安定した初期の段階であれば、体の自然な治癒力を最大限に引き出す保存的治療が基本となります。
治療の全体像として、骨軟骨片が元の骨と再びくっつき、関節の機能が回復することを目標にします。
- 保存的治療(安静と免荷)
- 安静とスポーツ活動の禁止: 骨軟骨片が安定している発育期の患者様に対しては、まずスポーツ活動を完全に禁止し、患部に負担をかけないようにします。これにより、血流障害の原因を取り除き、骨が修復するのを待ちます。スポーツ禁止期間は3ヶ月から6ヶ月、長い場合は1年以上にわたることもあります。
- 松葉杖の使用(免荷): 膝関節の病変の場合、松葉杖を使って患部に体重をかけないようにする(免荷)ことで、骨の癒合を促します。
- PRP(多血小板血漿)治療
- 再生医療のサポート: 患者様ご自身の血液から、組織の修復や再生を促す成分を濃縮したPRP(多血小板血漿)を抽出し、患部に投与する新しい治療法です。自身の血液を用いるため、重篤な副作用のリスクが低いという特徴があります。PRP療法は、保存的治療による治癒をサポートし、骨の修復や疼痛の軽減に繋がることを期待する選択肢として提供されます。
- 手術的治療
- 非分離型への処置(ドリリング): 保存的治療で改善が見られない、あるいは成長期を過ぎた患者様に対して、関節鏡を使って病変部に小さな穴を開け(ドリリング)、出血を促すことで骨の治癒を加速させる処置を行うことがあります。
- 遊離型への処置(固定・移植): 骨軟骨片が完全に剥がれてしまった場合は、剥がれた骨片を元の位置に戻してピンなどで固定する整復固定術や、遊離した骨片の状態が悪い場合には、健康な骨軟骨を採取して移植する自家骨軟骨片移植術(モザイク手術)などが検討されることもあります。
当グループでは、患者様一人ひとりの病変の進行度やライフスタイルを考慮し、最も適切な治療法を提案いたします。特に成長期のお子様については、将来を見据えた無理のない回復を目指します。