内側側副靭帯再建術(投球障害・トミー・ジョン)
内側側副靭帯再建術、通称「トミー・ジョン手術」は、野球などの投球動作で重度に損傷した肘の内側側副靭帯(MCL)を、患者様ご自身の健康な腱(自家腱)を使って新しく作り直す外科的な治療です。この靭帯は肘関節の安定に極めて重要であり、損傷すると投球時に肘がぐらついたり、激しい痛みが起こったりします。本治療は、不安定になった肘を根本的に治し、特に競技スポーツにおいて高いパフォーマンスでの活動再開を目指す方にとって、確立された有効な治療法です。
治療の適応(対象となる方)
内側側副靭帯再建術は、特に以下のような症状や状態にある患者様を対象とします。重度の損傷や、リハビリテーションなどの保存的治療で改善しない場合に適用を検討します。本治療は長期的なリハビリが必要なため、競技復帰に向けた強い意志を持つ方に推奨されます。
- 投球動作中や強い負荷がかかった際に、肘の内側に強い痛みや「ぐらつき」を感じる方。
- 靭帯が完全に断裂しているなど、重度の損傷であるとMRI検査などで診断されている方。
- 安静やリハビリテーションなどの保存的な治療を続けても、肘の不安定性や痛みが改善しない方。
- 投球動作を伴う競技において、高いレベルでの完全復帰を強く希望している方。
手術術式の選択
内側側副靭帯再建術では、損傷した靭帯を、ご自身の体から採取した健康な腱(自家腱)で置き換える「再建術」が最も標準的かつ成功率の高い術式として選択されます。自家腱を使用することで、拒絶反応のリスクを低く抑え、新しい靭帯が生着しやすい状態を作り出します。
使用する自家腱の選択肢
再建に使用する腱(グラフト)は、移植後の安定性と腱を採取した部位の機能温存を考慮して選択されます。
長掌筋腱(ちょうしょうきんけん)
主に手首付近から採取される腱です。多くの方で切除しても手首の機能に大きな影響が出ることがほとんどないため、広く利用されています。
足底筋腱(そくていきんけん)
長掌筋腱が利用できない場合や、より強固な腱が必要だと医師が判断した場合に、ふくらはぎなどから慎重に採取されます。
手術の詳細
内側側副靭帯再建術は、移植した腱を骨に正確に固定し、強固な安定性を確保するため、慎重な手順のもとで実施されます。
- 麻酔・所要時間:
- 麻酔方法: 手術中は痛みを感じないよう、全身麻酔下で実施します。
- 手術時間: 腱の採取を含め、損傷の程度により変動しますが、概ね1.5時間から2時間程度が目安です。
- 手術手順:
- 自家腱の採取: 新しい靭帯として使う腱を、他の部位の機能に影響が出ないよう慎重に採取します。
- 損傷靭帯の処理: 肘の内側を切開し、損傷した古い靭帯を切除します。
- 骨に穴を開ける: 移植する腱を固定するため、上腕骨と尺骨に、正確な位置に穴(骨孔)を作成します。
- 腱の移植と固定: 採取した腱を骨孔に通し、専用のボルトや特殊な糸を使って強固に固定し、肘の安定性を回復させます。
- 縫合と固定: 傷口を丁寧に縫合した後、再建した靭帯を保護するため、装具やギプスを装着します。
入院・術後経過
- 入院期間: 標準的な入院期間は、術後の疼痛管理と初期のリハビリテーションを開始するため、4~5日間程度が目安となります。
入院中の管理
- 疼痛管理: 術後の痛みを最小限に抑えるため、適切な薬物投与や鎮痛処置を継続的に行います。
- 初期固定: 移植腱が骨に定着し始めるまでの期間、医師の指示に基づき、装具やギプスで肘を固定し保護します。
- リハビリ開始: 術後早期から、関節が硬くなるのを防ぐため、再建靭帯に無理のない範囲で可動域訓練を開始します。
退院後の注意点と復帰までの道のり
トミー・ジョン手術の成功には、退院後の長期的で計画的なリハビリテーションが不可欠です。焦って負荷をかけると、再損傷のリスクが高まります。
術後は、まず肘の動く範囲を広げ、次に前腕や上腕、体幹の筋力強化を行います。その後、約3〜5ヶ月頃からスポンジボールなどを使った軽い投球動作を始め、フォームの確認を優先します。マウンドでの本格的な投球開始は平均で9ヶ月、競技への完全復帰までは平均12〜18ヶ月程度の時間をかけて慎重に進める必要があります。
期待される効果
手術と長期的なリハビリテーションを完遂することで、以下のような効果が期待されます。
- 肘関節の安定性の回復: 投球時の不安感や肘の「ぐらつき」が解消されます。
- 投球時の痛みの消失: 靭帯の機能不全によって生じていた、肘内側の痛みが解消されます。
- 競技レベルでの活動再開: 適切なリハビリを経て、高いパフォーマンスレベルでの投球が可能となります。
- 怪我をしにくい身体づくり: リハビリ過程で、痛みの原因となった全身の機能不全を改善するため、再損傷のリスクを低減できます。
手術のリスクと合併症
手術には大きな効果がある一方で、いくつかのリスクと合併症が存在します。
一般的なリスク
- 手術部位からの出血や血腫の形成。
- 手術部位の細菌感染症。
- 術後の疼痛(適切な管理で軽減)。
特有のリスクと合併症
- 神経損傷: 肘の内側を通る尺骨神経にしびれや麻痺が生じる可能性があります。
- 関節が硬くなる(拘縮): リハビリ不足などにより、肘の曲げ伸ばしの範囲が制限されることがあります。
- 再建靭帯の再断裂: リハビリの段階を無視した過度な負荷で、再建した腱が再び損傷する可能性があります。
費用について
内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)は、公的医療保険が適用される保険診療です。
手術の費用は、入院期間や治療内容によって変動しますが、健康保険証3割負担の方の概算自己負担額は、25万円から40万円程度が目安となります。この費用には、術前検査費用や長期にわたる術後リハビリテーション費用、装具費用などは含まれていません。
高額な医療費の支払い負担を軽減するため、事前に申請を行うことで高額療養費制度の適用を受けることが可能です。また、医療費控除についてもご相談いただけます。
当グループでの治療・手術の特長
アレックスメディカルグループでは、「Arthroscopy(手術)」「Rehabilitation(リハビリ)」「Exercise(運動療法)」の3分野(AR-Ex)を徹底的に連携させ、患者様の完全復帰を目指します。
低侵襲で最大限の効果を追求する手術
経験豊富な専門医が低侵襲な手技を用いて再建術を実施し、最小限の傷で最大限の肘の安定性を実現します。傷が小さく筋肉へのダメージが少ないため、術後の痛みが少なく、初期の回復が早まります。
知識とデータに基づく回復プログラム
手術を担当した医師と理学療法士が定期的に情報共有(カンファレンス)を実施し、患者様の回復状況をチーム全体で管理します。さらに、超音波診断装置を用いて治療部位を確認しながらリハビリを行うことで、安全かつ根拠に基づいた段階的アプローチを提供します。
再発予防に特化した運動療法
理学療法士に加え、アスレティックトレーナーなどが在籍し、専門スタッフが連携してサポートにあたります。痛みの原因となりやすい投球フォームの修正や、肘への負担を軽減するための全身的な筋力強化トレーニングを指導し、怪我をしにくい身体づくりを目指します。
よくあるご質問
Q. 手術後、すぐに投球を再開できますか?
A. いいえ、できません。競技への完全復帰までは、平均12〜18ヶ月程度の時間をかけて、段階的に慎重に進める必要があります。焦らず計画通りに進めることが重要です。
Q. 投球フォームを変える必要はありますか?
A. 靭帯損傷はフォームの癖や身体の使い方の偏りによって引き起こされることが多いため、リハビリの過程で肘に負担の少ない効率的な動作の習得を目指します。
Q. 手術の成功率はどれくらいですか?
A. 競技復帰率に関して、プロアスリートにおいては、80%以上が手術前のレベルで復帰を果たせることが報告されています。成功は、手術の精度と長期的なリハビリの継続にかかっています。
関連する疾患について
- 肘内側側副靭帯損傷(MCL)
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