鏡視下後十字靭帯再建術(PCL再建)
後十字靭帯(PCL)は、膝関節の中心にあり、脛骨(すねの骨)が後方にずれるのを防ぐ重要な靭帯です。この靭帯が完全に断裂すると、膝に不安定性が生じ、活動性の低下や、将来的に変形性関節症へ進行するリスクが高まります。PCL損傷は自然に治ることはほとんどなく、装具などを用いた保存療法では根本的な治療はできません。不安定性が続く重度のPCL損傷に対しては、膝の安定性を取り戻し、機能を回復させるために、鏡視下後十字靭帯再建術(PCL再建)が唯一の根治的な治療法となります。
治療の適応(対象となる方)
後十字靭帯再建術は、膝の不安定性を解消し、日常生活やスポーツ活動への安全な復帰を目指す方のために行われます。
手術適応の症状・状態
後十字靭帯再建術は、特に以下のような症状や状態にある患者様を対象とします。
- 歩行時や階段の上り下り、急な動作の際に、膝が不安定で「カクッ」と抜けるような感覚(動揺性)が続く方。
- 中程度から重度の靭帯損傷があり、膝の不安定性により日常生活に継続的な支障をきたしている方。
- 保存療法を長期間継続しても、膝の不安定性が改善しない方。
- サッカーやバスケットボールなど、方向転換や接触を伴うスポーツへの完全な復帰を強く希望している方。
手術術式の選択
PCL再建術では、損傷した靭帯を患者様自身の腱(自家腱)などを用いて新しく作り直します。当グループでは、体への負担を最小限に抑えつつ、最大限の治療効果を引き出すため、低侵襲な関節鏡視下手術を標準術式として採用しています。
鏡視下靭帯再建術の方法と特徴
関節鏡(内視鏡)を使用することで、小さな切開部から正確な処置を行うことができ、再建靭帯を適切な位置に固定します。
- 方法: 主に、患者様自身の太ももの内側から採取したハムストリング腱(半腱様筋腱など)を移植腱として使用します。採取した腱を加工し、関節鏡下に膝関節内に挿入します。新しい靭帯として機能するように骨に開けたトンネル(骨孔)に通し、適切な張力で固定します。
- 特徴: 傷が小さく、術後の痛みが軽減されるため、手術直後からリハビリテーションを早期に開始することが可能です。また、再建靭帯を正確な位置に固定でき、高い安定性が期待できます。
手術の詳細
鏡視下後十字靭帯再建術は、精密さが求められる手術です。
麻酔・所要時間
- 麻酔方法: 腰椎麻酔(下半身のみの麻酔)または全身麻酔(手術時間や患者様の状態により選択します)。
- 手術時間: 90分~150分程度です。
手術手順
- 術前準備と麻酔導入: 体位を整え、麻酔を導入します。
- 腱の採取: 移植腱となるハムストリング腱を太ももの内側から採取します。
- 骨孔の作成: 関節鏡で膝の状態を確認しながら、移植腱を通すためのトンネル(骨孔)を正確な位置に作成します。
- 移植腱の挿入と固定: 加工した移植腱を骨孔に通し、適切な張力(テンション)をかけてスクリューやボタンで強固に固定します。
- 止血・縫合: 移植腱の固定を確認後、切開部を縫合し手術を終了します。
入院・術後経過
手術後の集中したリハビリテーションが成功の鍵となります。
入院期間
- 標準的な入院期間: 5日間程度。
術後経過
入院中の管理
- 早期リハビリテーションの開始: 術後2日目からは、理学療法士による可動域訓練、筋力増強訓練、歩行訓練が始まります。
- 疼痛管理と創部管理: 痛みを和らげるための管理と、感染症を予防するための手術創部のケアを行います。
退院後の注意点
- 継続的なリハビリ: 退院後も外来リハビリテーションを継続し、段階的に運動負荷を上げていきます。
- 装具の着用: 再建した靭帯を保護するため、医師の指示に従い、装具を適切に装着する必要があります。
期待される効果
鏡視下PCL再建術により、膝の機能が改善し、活動レベルの回復が期待できます。
- 膝関節の安定性の回復: 慢性的な不安定感や、膝が抜ける感覚が解消されます。
- 疼痛の緩和: 膝の動揺が原因で発生していた痛みが減少し、日常生活の質が向上します。
- スポーツ復帰の実現: 適切なリハビリを経て、激しいスポーツを含む活動への安全な復帰を目指すことができます。
- 関節の長期的な保護: 膝の不安定性がなくなることで、関節軟骨や半月板への異常な負担が軽減され、将来的な変形性関節症の発症リスクが低減されます。
手術のリスクと合併症
手術を受けるにあたり、起こりうるリスクや合併症についてご理解いただくことが大切です。
一般的なリスク
- 出血: 術中や術後に、手術部位からの出血や血腫が生じることがあります。
- 感染: 手術部位や関節内に細菌が侵入し、感染症を引き起こす可能性があります。
- 疼痛: 術後に痛みが残存したり、慢性化したりする可能性があります。
特有のリスク
- 再建靭帯の緩み(不安定性の残存): 移植腱が期待通りに生着しなかった場合、膝の不安定性が完全に解消されない可能性があります。
- 関節拘縮: 術後の炎症や安静期間により、膝の曲げ伸ばしの範囲が制限される(動きが硬くなる)可能性があります。
- 移植腱採取部の症状: 移植腱を採取した太ももの内側周辺に、一時的な痛みや感覚の鈍さが残ることがあります。
費用について
後十字靭帯再建術は、公的な健康保険が適用される治療であり、高額な医療費に対する支援制度が利用可能です。
鏡視下後十字靭帯再建術は、公的医療保険(国民健康保険、社会保険など)の適用となります。
- 費用概算(3割負担の目安): 手術・入院費用(5日間)は25万円〜40万円程度が目安となります。この費用は、治療内容や手術の複雑さ、入院期間により変動します。
費用が高額になる場合でも、事前に申請を行うことで、窓口での支払い額を自己負担限度額までに抑えることができる高額療養費制度の適用が可能です。また、年間を通じて支払った医療費については、医療費控除についてもご相談いただけます。
当グループでの鏡視下後十字靭帯再建術の特長
アレックスメディカルグループ(AR-Ex)は、スポーツ整形外科を専門とし、手術(A: Arthroscopy)、リハビリテーション(R: Rehabilitation)、運動療法(Ex: Exercise)の3分野を柱とした集学的医療を提供しています。
1. A:1mm精度にこだわる低侵襲手術(Arthroscopy)
当グループでは「最小限の侵襲で最大限の効果を追求する」方針に基づき、高精度な関節鏡視下手術を行います。1mmの精度にこだわった再建靭帯の正確な固定は、術後の痛みや筋力低下のリスクを低く抑え、早期のリハビリテーションへの移行を可能にします。
2. R:医師と連携した根拠に基づくリハビリテーション(Rehabilitation)
PCL再建後のリハビリは、再建靭帯を保護しつつ段階的に機能を回復させることが重要です。
- 確認しながらの訓練: 超音波診断装置などを用いて治療部位を確認しながら訓練を進め、再建靭帯への不適切な負荷を避けます。
- 完全復帰への管理: 手術を行う医師とリハビリスタッフが連携し、月1回のカンファレンスを通じて進行状況を厳密に管理することで、再発予防を含めた身体づくりを目指します。
3. Ex:再発予防のための継続的な運動療法(Exercise)
単に痛みからの回復だけでなく、「完全復帰」と「再発予防」を目指すため、専門のトレーナーやアスレティックトレーナーが在籍しています。医師の連携のもとで、競技力向上や再発リスク管理に特化した科学的根拠に基づいたトレーニングを処方し、保険診療終了後も継続的なサポート体制を提供しています。
よくあるご質問
Q. 手術後、どのくらいでスポーツに復帰できますか?
A. PCL再建術後のスポーツ復帰には、再建靭帯の生着と十分な筋力回復が必要です。ジョギング開始まで約4~6ヶ月、接触を伴う激しい競技への完全復帰には9ヶ月から12ヶ月程度を目安とします。専門スタッフがリハビリテーションの進捗に応じて、安全な復帰時期を判断します。
Q. 靭帯を再建する際、体内に残るものはありますか?
A. 移植した腱を固定するために、スクリューやボタンといった生体適合性の高い固定材を使用します。これらの固定材は、多くの場合、再建靭帯が生着した後も体内に残りますが、患者様のご希望や状態に応じて、後日抜去手術を行うことも可能です。
Q. 入院期間はどれくらいですか?
A. 標準的な入院期間は5日間程度です。患者様の全身状態や術後のリハビリテーションの開始状況により、期間が前後する可能性があります。
関連する疾患について
鏡視下後十字靭帯再建術(PCL再建)が治療対象となる、または密接に関連する疾患・症状は以下の通りです。
- 膝関節後十字靭帯損傷(PCL)
- 変形性膝関節症
- 膝半月板損傷
- 膝関節前十字靱帯損傷(ACL)
- 膝関節内側側副靱帯損傷(MCL)
- 膝関節外側側副靱帯損傷(LCL)
対応クリニックのご紹介
当グループでは、下記のクリニックで後十字靭帯再建術に関する専門的な診断から手術、術後フォローアップまで一貫して対応しております。