症例 6 膝関節前十字靭帯(ACL)断裂 |
1. 膝関節前十字靭帯(ACL=Anterior cruciate ligament)とは |
膝関節を安定化させるために必要な主要4靭帯のうち、最も重要な靭帯であると言われています。
特に、脛骨(=すねの骨)の前方への移動や捻りを制限する働きを担っています。 |
 |
2. ACL断裂の原因 |
原因には加齢による変化(=変性)と、スポーツなどによる外的要因(=外傷性)があります。
外的要因としてはバスケットボールやサッカー、バレーボールなど、ジャンプやストップ、ターンなどの動作を多く行うスポーツがあげられます。
男女を比較すると女性のほうが1.5〜1.7倍高く、この差は女性の方が関節弛緩性(関節のゆるさ)が強いためとされています。 |
 |
3. ACL断裂の症状 |
<急性期>
・関節の痛み・腫れ・熱感
・荷重・動作が困難
⇒日常生活動作に支障があることが多い
<陳旧性>
・膝のぐらつきや外れるかんじ(階段を降りる時や運動時など)
・スポーツや長距離歩行後などに関節が腫れてしまう
・膝が伸びきらない
⇒運動や負荷をかけるような動作で支障があることが多い |
4. ACL断裂の好発部位 |
ACL断裂は靭帯中央部で起こる事が多く(7割程度)、大腿骨付着部での断裂が2割で、脛骨側での完全断裂は少ないとされています。 |
5. ACL断裂のMRI画像 |
 |
上の写真で赤く○をつけた部分にACLがあります。しかし、ACLなどの靭帯はレントゲンでは
描出されません。そのため、ACLなどの靭帯の状態を把握・観察するには、軟部組織の描出に優れるMRIを撮像することが最も適しています。
正常な靭帯はT2強調矢状断像では、すっと伸びた黒い帯状の構造として描出されます。
しかし、下の画像では途中で切れているかのように見えます。ACLは斜めに走行しているため、ACLの走行に合わせずに通常の矢状断で撮像すると下のような画像になってしまいます。 |
 |
そのため、我々の施設では、ACLの損傷・断裂をより詳しく観察するために、ACLの走行に合わせた設定を行っています。それにより、下の画像のようにしっかりと「連続した黒い帯」として描出されます。 |
 |
@ ACL部分断裂 |
ACLが損傷を受けた時に、一部分だけ断裂した状態です。MRI上は断裂の程度によってさまざまな像を呈し、診断が難しい時もあります。 |
A ACL完全断裂 |
完全断裂の場合、MRIにて靭帯が途中で完全に途切れているのが明瞭に描出される場合、なんとなくつながって見えることや、緊張感が無くなっている場合などが有ります。
下の画像は完全断裂の症例で、黄色の印の部分で完全に断裂しているのが分かります。 |
 |
<ACL断裂の二次所見> |
ACLが断裂すると、ACLを栄養する血管が切れることにより関節内に出血がおこり、関節がかなり腫れることが多いです。そのため、MRIでは関節内に多量の液体が貯留した状態として描出されます。
また、ACL断裂に伴い関節が亜脱臼することで、下の図のように緑色矢印と赤矢印の部分がぶつかり合って骨挫傷を生じることもあります。 |
 |
<陳旧性断裂の場合> |
陳旧性断裂の場合はMRI上も炎症所見に乏しく、切れた靭帯が別の部位にくっついていたり、完全に見えなくなってしまう事もあります。また、時間が経過しているため関節内に生じた出血が吸収されて、関節液があまり多く見られない事があります。また、上図の様な骨挫傷の所見も改善してしまい、MRIでは不明瞭になっている事もあります。
下図では靭帯がかろうじてつながっている様にも見えますが、矢印の部分で細くなっており、また緊張感もありません。完全断裂と思われる所見です。また、関節液もあまり多くはた溜まっておらず、陳旧性の断裂である事が予想される像です。 |
 |
☆ その他、症状や治療について詳しく知りたい方は、AR-Exホームページの『整形外科基礎知識』のページまたは、『横断的医療研究チーム』⇒『部位チーム』⇒『膝関節専門チーム』のページをご覧ください! |
2015/10/19 |