上腕二頭筋腱損傷・断裂
症状
上腕二頭筋は、力こぶを作る筋肉として知られ、肘を曲げたり、手のひらを上に向ける動作(回外)に重要な役割を果たします。この筋肉の腱が損傷・断裂すると、突然の激しい痛みや機能の低下が起こります。特に、腱が切れた場所(肩側か、肘側か)によって、現れる症状やその後の生活への影響が大きく異なります。
具体的な症状としては、次のようなものが挙げられます。
- 突然の激しい痛みと異音: 腱が切れた瞬間、肩や肘の周辺に鋭い痛みが走り、人によっては「ブチッ」という断裂音や、何かが切れたという感覚を覚えます。この痛みは、重い物を持ち上げたり、腕を引っ張ったりする動作で特に強くなります。
- 特徴的な見た目の変化(ポパイ徴候): 腱が完全に断裂し、筋肉が骨から離れて収縮すると、上腕の中央部に異常な膨らみ(しこり)が現れることがあります。これは、漫画のキャラクターにちなんで「ポパイ徴候」と呼ばれています。
- 筋力低下とあざ: 損傷した部位には、内出血によるあざや腫れが見られ、腕の筋力低下を伴います。特に、肘に近い場所(遠位腱)が断裂した場合、肘を曲げる力や手のひらを上に向ける力が著しく弱くなり、ねじる動作や重いものを持つ動作に大きな支障をきたします。
これらの症状を感じた際は、損傷の程度や場所を正確に把握し、早期に適切な処置を受けることが重要です。
原因
上腕二頭筋腱の損傷・断裂は、健康な腱にいきなり起こることは稀で、多くの場合、腱が慢性的に弱っている状態に、耐えきれないほどの強い外力が加わることで発生します。
主な原因として、以下の要素が複合的に関係しています。
- 腱の慢性的な弱体化: 加齢による組織の弾力性の低下に加え、長期間にわたり重量挙げや重いものの持ち運びといった腕に大きな負荷をかけ続けることによって、腱は徐々に疲弊し、損傷しやすい状態になります。
- 突然の強い外力の負荷: 腱が弱くなっている状態で、重い物を持ち上げようとした瞬間や、予期せず腕が強制的に引っ張られたり、肘を強くひねったりする動作により、腱の限界を超える急激なストレスがかかり、断裂を引き起こします。
日頃からの腕への負荷を意識し、腱の健康を保つためのケアを心がけることが、このような損傷を防ぐ上で大切です。
診断
上腕二頭筋腱の損傷は、どの腱が、どの程度切れているかによって、治療の進め方が大きく変わります。そのため、正確な診断が機能回復への第一歩となります。
まず、医師が受傷時の状況や痛みの程度、筋力の状態について詳しくお話を伺います。その後、腕の動きや筋力を確認する診察を行い、特に肘側の腱の断裂を調べるために、「フックテスト」などの専門的な徒手検査を実施することがあります。フックテストは、腱が骨から剥がれているかを確認する重要な検査です。
こうした診察に加えて、客観的な評価のために画像診断を活用します。
- X線検査: 骨折など、骨に異常がないかを確認するために行われます。
- 超音波(エコー)検査: 当院では、超音波検査を重視しています。これは、体への負担が少なく、腱や筋肉などの状態をリアルタイムで確認できる非常に有用な診断方法です。腕を動かしてもらいながら、腱の動きや断裂部位、程度をその場で観察する「動的評価」ができるため、診断の正確性が高まります。患者様ご自身もモニターで損傷の状態を確認できるため、ご自身の病態への理解も深まります。
- MRI検査: より詳細に軟部組織の広範囲な状態や、腱板損傷や断裂が合併しているかの有無、慢性的な損傷の程度を確認する必要がある場合に、MRI検査を行うことがあります。
これらの検査を組み合わせることで、損傷の状態を正確に見極め、最適な治療方針を決定します。
治療
上腕二頭筋腱の治療は、損傷した腱の場所が「肩に近い部分(長頭腱)」か、「肘に近い部分(遠位腱)」か、そして患者様の年齢や活動レベルによって大きく異なります。
治療の選択肢は主に以下の通りです。
- 長頭腱断裂(肩側)の場合の保存療法: 長頭腱が切れても、残っている短頭腱が肘の屈曲機能の大部分を担うため、日常生活に大きな支障をきたさないケースが多くあります。重労働や激しいスポーツをされない方、またはご高齢の方には、装具を用いた安静や、理学療法士による筋力維持・柔軟性回復を目的としたリハビリテーションが選択されます。
- 長頭腱断裂(肩側)の場合の手術療法: 力仕事やスポーツなど、高い機能回復と見た目の改善を強く希望される活動的な患者様に対しては、腱の修復や固定を行う手術を検討します。
- 遠位腱断裂(肘側)の場合の手術療法: 肘に近い遠位腱の断裂は、肘を曲げる力や手のひらを上に向ける力(回外力)が著しく低下するため、活動的な患者様に対しては、切れた腱を肘の骨に縫い付けて再接着させる手術が強く推奨されます。適切な手術と回復過程を経ることで、肘の動きや筋力は健側とほぼ同等に回復することが期待されます。
- リハビリテーション: 保存療法、手術療法にかかわらず、腱の強度を回復させ、関節の柔軟性を確保するためには、専門的なリハビリテーションが不可欠です。理学療法士の指導のもと、段階的に運動療法を行い、安全に元の日常生活やスポーツ活動に復帰できるようサポートいたします。
当グループでは、患者様一人ひとりの体の状態と、生活上の目標を詳しく伺い、最善の治療方法を提案し、最後まで一貫した回復サポートを行います。