拘縮肩(四十肩・五十肩)
症状
拘縮肩(こうしゅくかた)は、「四十肩」や「五十肩」という俗称で知られる、肩関節の病気です。医学的には「癒着性肩関節包炎(ゆちゃくせいかたかんせつほうえん)」と呼ばれることが多く、肩関節を包んでいる膜(関節包)に炎症が起こり、膜が縮んで硬くなることで、肩の動きが著しく制限されてしまうのが特徴です。
この疾患は、強い痛みが中心の「炎症期」、痛みが少し和らぐ代わりに動きが固まる「凍結期」、そして徐々に動きが回復する「回復期」という経過をたどるのが一般的です。
具体的な症状としては、以下の点が挙げられます。
- 強い運動時痛: 腕を真上に上げようとしたり、後ろに回そうとする動作(髪を洗う、エプロンを結ぶなど)で激しい痛みを感じます。
- 全方向の可動域制限: 関節包全体が硬くなるため、前、横、後ろ、すべての方向で動かしにくさ(肩が上がらない、回らない)が現れます。
- 激しい夜間痛: 炎症が強い時期には、夜間に肩の血流が悪くなることで、うずくような痛みが起こり、眠りから覚めてしまうことが頻繁にあります。
- 日常動作への支障: 服の着脱や洗髪など、日常生活で行う動作全般に支障をきたし、生活の質が大きく低下します。
これらの痛みや動きの制限が長期間続く場合は、専門的な診断を受け、適切な治療を始めることが大切です。
原因
拘縮肩(四十肩・五十肩)の多くは、なぜ炎症が起こり始めるのかという厳密な原因が、現在の医学ではまだ明らかになっていません(特発性)。しかし、痛みが長引き、動きが制限されるに至る具体的なメカニズムは解明されています。それは、肩関節を包む膜である関節包が炎症によって厚く、硬くなり、周囲の組織とくっついてしまう(癒着)ことにあります。
この炎症と癒着こそが、肩の動きを物理的に妨げる「拘縮」という状態を引き起こす根本原因です。
具体的な病態を引き起こす要因や関連性は以下の通りです。
- 原因は明らかではないこと: 転倒や怪我などの明確なきっかけがなく発症することが多く、厳密な発症原因はまだはっきりと分かっていません。
- 関節包の炎症と癒着: 肩の関節を包む関節包が炎症を起こし、それが治る過程で縮んで硬くなり、腕を上げるなどの動作が物理的に制限されます。
- 肩関節周囲の組織の炎症: 広い意味での肩関節周囲炎としては、腱板や上腕二頭筋の腱など、関節の周りのさまざまな組織に炎症が起こっている状態も含まれます。
- 肩甲骨の動きの関係: 肩関節の動きの土台となる肩甲骨の動きの硬さやバランスの悪さも、拘縮肩の発症や進行に関係があると考えられています。
発症のきっかけが不明であっても、炎症と関節包の癒着という病態自体を改善することが、症状緩和と回復へとつながります。痛みを放置して拘縮が進むと改善に時間がかかるため、病態が進行する前に専門的な治療を始めることが重要です。
診断
肩の痛みや動かしにくさがあるとき、それが本当に拘縮肩(五十肩)なのか、あるいは治療法が異なる他の病気なのかを正確に見極めることが、適切な治療への第一歩となります。肩の痛みは、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎、首の骨や神経の問題など、全く異なる原因で生じることもあるからです。
当院では、患者様の状態を細かく把握するために、以下の手順で正確な診断を進めます。
- 問診と診察による症状の特定: 専門医が、痛みの出方や夜間痛の有無、動きの制限されている方向などを詳しく伺います。その上で、肩関節の動く範囲(可動域)を丁寧にチェックします。
- 画像検査(X線)による評価: X線検査(レントゲン)を行い、骨折や骨の変形、石灰沈着など、骨の異常がないかを確認します。拘縮肩では骨自体に異常がないことが多いですが、他の重篤な疾患を除外するために重要な検査です。
- 他の病気の除外: 問診とX線検査の結果から、痛みの真の原因を特定します。症状が似ている腱板断裂や首の病気など、治療法が異なる疾患の可能性を確実に除外することで、最も効果的な治療への道筋を立てます。
治療
拘縮肩(四十肩・五十肩)の治療で目指すのは、「痛みを抑えること(炎症の改善)」と、「硬くなった関節の動きを回復させること(拘縮の解消)」の二つです。治療は、痛みが強い時期と動きの硬さが中心の時期の段階に応じて、薬やリハビリを組み合わせた「保存療法」を中心に行われます。
肩に起こっている炎症や癒着による拘縮を改善することこそが、この疾患の根本的な回復につながります。
当院で実施する主な治療方法は以下の通りです。
- 薬を使った治療(薬物療法): 痛みや炎症を抑えるための飲み薬や湿布などを使用し、患者様のつらさを和らげ、リハビリに取り組みやすい状態を作ります。
- 注射による治療: 特に夜間痛など強い痛みが続く場合に、炎症を抑える成分などを肩関節の周囲に直接注入し、効率よく痛みを軽減させます。
- リハビリテーション(運動療法): 痛みが落ち着いた段階で、専門スタッフの指導のもと、硬くなった関節を徐々にストレッチし、動かせる範囲を広げる訓練を行います。これが拘縮を解消する中心的な治療です。
- 物理療法: 温熱治療などの方法を使い、肩関節周囲の血流を良くして筋肉の緊張を緩めます。これにより、リハビリテーションの効果を高め、痛みの軽減をサポートします。
- サイレント・マニピュレーション: 麻酔をかけて肩関節を動かし、癒着した関節包を広げる(授動術)ことで、動きを一気に改善させる治療法です。重度の拘縮に対して検討されます。
拘縮肩の治療は、数ヶ月から年単位の時間がかかることがあります。専門医とリハビリスタッフが連携し、症状の段階に応じたきめ細やかなサポートを継続的に行います。