腱板損傷・断裂
症状
腱板損傷・断裂は、肩の奥深くにある腱(腱板)が傷ついたり、完全に切れてしまったりする状態です。これは、よくある「五十肩」と症状が似ているため見過ごされやすいですが、腱板の機能が失われることによる特有の症状が現れ、日常生活に大きな支障をきたします。特に、腕を動かしたときの強い痛みや、腕に力が入りにくいという感覚がこの疾患の特徴です。
腱板損傷・断裂で現れる主な症状は以下の通りです。
- 夜間の強い痛み: 痛みで夜中に目が覚めてしまったり、寝返りを打つ際に激しい痛みを感じたりします。この夜間痛は睡眠を妨げ、患者様の生活の質を大きく低下させる要因となります。
- 特定の角度での痛み(ペインフルアーク): 腕を横から徐々に持ち上げていく際、約60度から120度の範囲で特に強い痛みを感じます。これは、傷ついた腱板が肩の骨に挟み込まれることで生じることが多い現象です。
- 筋力低下と脱力感: 腕を上げようとしたり、特定の方向に回したりする動作で、急に力が抜けてしまうような感覚を覚えます。損傷が大きくなるにつれて、重い物を持ち上げることが困難になります。
- 腕を保持できない(ドロップアームサイン): 誰かに腕を水平の高さまで持ち上げてもらった後、ご自身の力でその位置を保てず、腕が落ちてしまいます。これは、腱板の機能が著しく損なわれていることを示しています。
これらの症状は、一時的な疲労や筋肉の張りとは異なり、自然に良くなることが少ないため、痛みを「歳のせい」と諦めずに、速やかに専門的な診断を受けることが早期回復のための大切な一歩となります。
原因
腱板損傷・断裂は、肩の腱の構造的な変化と、肩にかかる物理的な負担が合わさることで発生します。単なるケガだけでなく、年齢を重ねることに伴う腱の変化も深く関係しており、原因を理解することが適切な予防や治療につながります。
腱板損傷・断裂を引き起こす具体的な要因は以下の通りです。
- 加齢による腱の衰え: 腱は年齢を重ねるにつれて血流が悪くなり、柔軟性や強度が徐々に低下してもろくなります。特に40代以降でこの変化が顕著になりやすく、健康な若い人であれば問題ない程度の小さな負荷でも、腱が損傷したり断裂したりしやすくなります。
- 繰り返しの摩擦と使いすぎ: 野球や水泳など腕を頭より高く上げる動作や、重い物を持ち上げるような作業を日常的に繰り返すことで、肩に慢性的な負担がかかり続けます。これにより、腱板が肩峰という骨と繰り返し擦れ合い、摩耗することで徐々に傷つき、断裂へと進行していきます。
- 転倒などの急なケガ(外傷): 高い場所からの転落や、転倒した際に肩を強く地面に打ち付けた場合など、予期せぬ強い外力が一度にかかることで、健康な腱でも一気に断裂に至ることがあります。
これらの原因は一つだけでなく、多くの場合、加齢によって変性し弱くなった腱に、日常的な動作や急な外力が加わることで損傷や断裂が発生します。患者様の生活背景や肩への負担の状況を正確に把握することが、症状の進行を防ぎ、適切な治療を選ぶ上で重要になります。
診断
正確な診断は、腱板損傷・断裂に対する適切な治療法を決め、肩の機能を確実に取り戻す上で最も重要なプロセスです。当院では、患者様のお話(問診)と医師による身体診察に加え、高性能な画像検査を組み合わせ、損傷の正確な位置や程度、進行状況を詳しく調べます。
問診と身体診察
まずは、患者様からいつ、どのように痛みが出始めたか、どの動作で特に痛むのか、夜間痛の有無など、症状の詳細を丁寧にお聞きします。その上で、医師が実際に患者様の腕を動かしたり、特定の方向に力を加えてもらったりする診察(ドロップアームテストなどの筋力テスト)を行い、どの腱板が損傷している可能性が高いかを評価します。
画像検査による精密評価
腱板損傷を確定し、五十肩などの他の疾患と区別するためには、画像検査が欠かせません。
- X線(レントゲン)検査: 腱板自体はX線には映りませんが、肩関節の土台となる骨に、腱板断裂が原因で生じた骨の変形(骨棘)がないか、あるいは慢性的な断裂によって関節の隙間が狭くなっていないかを確認するために基本的な検査として実施します。
- 超音波(エコー)検査: 外来で迅速に行える検査で、リアルタイムで腱板の断裂の有無、その大きさ、腱の周囲の炎症状態を確認するのに非常に役立ちます。
- MRI検査: 腱板損傷の確定診断と、その後の治療方法を決める上で最も詳細な情報を提供します。MRI検査では、断裂の範囲や古さ、そして周囲の筋肉がどれだけ萎縮(やせ細り)しているかまでを詳細に評価できます。この情報は、手術が必要かどうか、手術を行った場合の回復の予測に決定的な役割を果たします。
これらの専門的な検査結果を総合的に判断することで、患者様の損傷が「部分的なもの」なのか、あるいは「完全に切れてしまった状態(完全断裂)」なのかを明確に見極め、最適な治療法をご提案します。
治療
腱板損傷・断裂の治療は、まず手術をせずに痛みと炎症を抑え、肩の機能を回復させる「保存療法」から始めることが一般的です。数ヶ月間の保存療法を行っても症状の改善が見られない場合や、重度の完全断裂が確認された場合には、手術による治療を検討します。
治療の全体像は、患者様の損傷の程度やライフスタイルによって異なりますが、主に以下の方法が用いられます。
- 安静と薬による治療: 痛みが強い急性期には、肩を動かさずに安静に保つことが重要です。炎症を抑え痛みを和らげるための飲み薬(鎮痛剤)や湿布薬を使用して、症状の緩和を図ります。
- 注射による治療: 激しい痛みによって日常生活や睡眠に支障が出ている場合には、炎症を強力に鎮める作用を持つ注射(ステロイド剤など)を患部に施すことで、迅速な痛みの軽減を目指します。
- リハビリテーション(運動療法): 専門スタッフの指導のもと、肩関節の動かせる範囲(可動域)を広げるための運動や、肩の安定性を高めるための筋力強化トレーニングを行います。このリハビリは、保存療法として症状を改善させるだけでなく、手術後の機能回復においても欠かせない重要な治療です。
- 手術による治療: 保存療法を続けても痛みが続く場合や、断裂が大きく筋力低下が著しい場合などに検討されます。現在では、小さな切開で済む関節鏡という内視鏡を用いた腱板縫合術(切れた腱を骨に縫い付ける手術)が主流となっており、身体への負担が少なく、術後の回復が比較的早いのが特徴です。
当グループでは、患者様一人ひとりの損傷の程度や生活スタイル、ご希望に応じて、保存療法と手術療法の最適な組み合わせをご提案し、早期に痛みから解放され、肩の機能を確実に取り戻せるよう、専門的なサポートを提供いたします。