ガングリオン
症状
ガングリオンは、関節や腱の周囲に発生する、体の中でもっともよく見られる良性の腫瘤(しこり)の一つです。多くの場合、皮膚のすぐ下に丸く触れるしこりとして現れ、そのサイズや硬さには個人差があります。特に手の甲や手首、指の付け根に発見されることが多いですが、足首や膝、まれに神経の近くなど、体のどこにでも生じる可能性があります。このしこりが、痛みや機能的な問題を引き起こすかどうかによって、患者様が感じる症状は異なります。
具体的な症状は以下の通りです。
- 無症状のしこり(腫瘤): ガングリオンの最も一般的な状態は、特に痛みや熱を持たない、弾力がある、あるいは硬いしこり(腫瘤)が触れることです。その大きさは米粒大からピンポン玉大まで様々です。無症状の場合、そのまま放置しても健康上の問題はないケースが多くあります。
- 鈍い痛みや違和感: しこりが大きくなったり、関節の動きと関連したりすることで、腫瘤の周囲に軽度から中程度の鈍い痛みや、引っ張られるような違和感を感じることがあります。特に手首の特定の動きや、患部を強く使った後に痛みが増すことがあります。
- 神経圧迫による症状: ごくまれに、ガングリオンが大きくなり、近くを通る末梢神経を圧迫してしまうことがあります。この場合、手足のしびれ(感覚が鈍くなる)や、筋力の低下、脱力感といった神経症状を引き起こすことがあり、このような症状がある場合は専門的な評価が必要です。
ガングリオンは自然に消えてしまうこともありますが、痛みやしびれを伴う場合や、見た目が気になって生活に支障をきたす場合は、必ず専門医にご相談ください。良性の腫瘍ではありますが、正確な診断と適切な評価を受けることが大切です。
原因
ガングリオンの発生メカニズムは、関節や腱をスムーズに動かすための液体成分が関わっていると考えられています。これは、細胞が異常に増殖するがんなどの病的な原因ではなく、関節や腱の構造的な変化から起こるものです。
ガングリオンは、以下のメカニズムによって形成されます。
- 関節液の漏れ出しと濃縮: ガングリオンの袋(嚢胞)は、多くの場合、関節を包む関節包や、腱の周りにある腱鞘といった組織に、細い管(茎)でつながっています。関節の潤滑油である滑液が、何らかの原因でこの細い管を通じて袋の中に流れ込みます。
- ゼリー状への変化: 袋の中に流れ込んだ滑液の水分が再吸収されることで、残された成分が非常に粘度の高い、透明なゼリー状に濃縮されます。このゼリー状の内容物が詰まった袋が、皮膚のすぐ下にしこりとして触れるようになります。
- 繰り返しの機械的ストレス: 手首や足首など、特定の関節や腱に繰り返し負担がかかること(使いすぎ)が、組織の変性を引き起こし、滑液が袋状の構造に流れ込みやすい環境を作ると考えられています。
ガングリオンの正確な発生理由はまだ研究中ですが、関節の構造と密接に関連していることが確認されており、活動性の高い方や関節に慢性的な負担がかかる方に比較的多く見られます。しこりの内容物が何であるかという機序を理解することで、このしこりが危険なものではないという安心につながります。
診断
ガングリオンの診断は、患者様への負担が少ない検査方法を中心に、迅速かつ正確に行われます。しこりを見つけた患者様の不安を解消するためにも、それが良性の腫瘍であることを確認し、症状の程度や周囲の組織への影響を評価することが重要です。
ガングリオンの診断は、主に以下のステップで行われます。
- 視診・触診: 医師が腫瘤の位置、大きさ、硬さ、および皮膚や周囲の組織との関連性を確認します。ガングリオンは、典型的な見た目と、触診による弾力性や可動性の有無を持つことが多いため、この初期段階でガングリオンである可能性が高いかを判断します。
- 超音波検査(エコー): 腫瘤が液体で満たされている袋状の構造(嚢胞性)であるかを確認するために、超音波(エコー)検査が非常に有用です。エコー検査は、リアルタイムで腫瘤の内部構造や、周囲の血管、神経との位置関係を痛みなく把握できるため、特に小さなものや、皮膚から触れにくい深部の診断に役立ちます。この検査は患者様の負担が少なく、その場で迅速に情報を得られる利点があります。
- 穿刺吸引検査: 注射器を使ってしこりに針を刺し、内容物を少量採取します。特徴的な透明で粘り気のあるゼリー状の液体が確認できれば、ガングリオンと確定診断されます。この穿刺は、診断を兼ねて内部の液体を取り除く治療へスムーズに移行できるため、患者様にとって効率的な方法です。
- MRI検査: 他の希少な疾患(悪性腫瘍など)との区別が必要な場合や、深部のガングリオン、あるいは神経の圧迫が強く疑われる場合に、より詳細な組織の評価を行うために使用されることがあります。
これらの精密な検査を通じて、しこりが良性のガングリオンであるかを正確に判断し、患者様の不安を解消するとともに、最適な治療方針をご提案するための根拠とします。
治療
ガングリオンは良性腫瘍であり、痛みや機能的な障害を引き起こさない場合は、必ずしも積極的な治療が必要とは限りません。治療の必要性は、痛みやしびれの有無、日常生活への影響度に応じて決定され、主に身体への負担の少ない方法から段階的に進めていきます。
標準的な治療方法には以下のものがあります。
- 経過観察: 痛みやしびれがなく、生活に支障がない小さなガングリオンは、無理に治療せず、定期的にサイズや症状の変化を観察します。ガングリオンは自然に消えてしまう可能性があるため、最初の選択肢として選ばれることが多くあります。
- 穿刺吸引: 注射器を使ってガングリオン内部のゼリー状の内容物を吸引し、しこりを一時的に小さくする方法です。これは手軽で低侵襲な治療法ですが、ガングリオンの袋の根元(関節や腱鞘につながる細い管)が残ってしまうため、滑液が再度流れ込みやすく、再発する可能性が高いことが知られています。手首のガングリオン全体では、吸引後の再発率は約59%(47~70%)という報告もあります。
- 手術による摘出: 穿刺吸引を繰り返してもすぐに再発してしまう場合や、腫瘤が非常に大きく神経を圧迫して強い痛みやしびれが改善しない場合に検討されます。手術では、ガングリオンの袋の根元(茎)ごと取り除くことで、再発のリスクを最も低く抑えることができます。
吸引治療の後に再発しても、それは疾患の特性によるものであり、治療が失敗したわけではありません。当グループでは、患者様のライフスタイルや症状の重さに合わせ、経過観察から再発時の管理、そして手術のご相談まで、長期的な視点で最も適した治療をご提案し、患者様が安心して日常生活を送れるようサポートいたします。