色素性結節絨毛性滑膜炎
症状
色素性結節絨毛性滑膜炎(PVNS)は、関節を包む滑膜という組織に炎症が起こり、腫瘍のように異常に増殖してしまう比較的珍しい病気です。この病気は現在、国際的な分類では「腱滑膜巨細胞腫(TGCT)」という良性腫瘍の一種として扱われています。多くは膝関節や股関節などの大きな関節に発生しますが、手足の小さな関節にも見られることがあります。異常に増殖した滑膜は、関節の機能に悪影響を与えます。
主な症状は以下の通りです。
- 関節の腫れ:滑膜が異常に増えたり、関節の中に液体がたまることで、関節が慢性的に腫れてきます。
- 痛み:関節を動かした時に痛みを感じることが多いですが、症状が進行すると安静にしても鈍い痛みが続くことがあります。
- 可動域の制限:関節の腫れや、増殖した滑膜組織が関節内で邪魔になることで、関節の曲げ伸ばしや動きが制限されます。
- 水がたまる状態の繰り返し:関節に水がたまる状態(水腫)の増減を繰り返すことがあります。
- 古い血液が混じった関節液:関節に注射をして溜まった関節液を抜くと、過去の微小な出血に由来する古い血液の色をした関節液が排出されることがあります。
これらの症状は、一般的な関節の痛みと間違われやすく、症状が長期間続く場合や、原因不明の腫れがある場合は、一度精密な検査を受けることが大切です。
原因
色素性結節絨毛性滑膜炎は、単なる炎症反応ではなく、滑膜を構成するごく一部の細胞が異常に増殖する良性の腫瘍性の病気として理解されています。スポーツなどによる外傷や関節の使い過ぎが直接の原因ではないとされています。
具体的な変化としては、以下の点が挙げられます。
- 細胞の異常な増殖:関節の内側を覆う滑膜の細胞が、絨毛状や結節状に盛り上がるように異常に増えます。これは特定の遺伝子のわずかな変化がきっかけとなり起こると分かっています。
- ヘモジデリンという色素の沈着:増殖した組織内には、過去の小さな出血に由来するヘモジデリン(鉄分を含む色素)が大量に沈着しています。これが病名にある「色素性」の原因です。
- 特定の物質の過剰な働き:腫瘍細胞が増殖の引き金となる特殊な物質を過剰に出すことで、免疫細胞が大量に集まってきて病変を大きくしていることが解明されています。
現在では、特定の細胞の異常が原因の腫瘍として、この病気の仕組みがかなり詳しく分かってきています。
診断
診断は、他の関節の病気と見分けるため、患者様の症状の確認、身体の診察、そして特に画像検査を組み合わせて慎重に行われます。
- 問診と診察:いつから、どのような状況で痛みや腫れが出ているのかをお聞きし、関節の腫れの程度や動きの制限がないかなどを確認します。
- X線(レントゲン)検査:初期段階では異常が見られないことが多いですが、病気が進行すると、関節の周りの骨がわずかに削れている変化(骨びらん)が見つかることがあります。
- MRI検査(最も重要):診断において最も大切な検査です。増殖した滑膜組織や、中に沈着したヘモジデリンが、非常に特徴的なパターンとして写し出されます。特にヘモジデリンが「黒い信号」として写ることで、病変の広がりや性質を明確に把握できます。
- 関節液検査:関節に水が溜まっている場合、細い針で液体を抜き取り、古い血が混じったような暗い色をしているかなどを確認します。
- 組織検査(生検):画像検査で判断が難しい場合や、手術で確定させるために、病変の一部を採取して顕微鏡で異常な細胞の増殖などを調べます。
治療
治療の目的は、異常に増殖した病変を可能な限り完全に取り除くことと、再発を防ぐことです。病変が関節全体に広がっている場合と、関節内の一部に限られている場合によって、最適な治療方法が変わってきます。
主な治療方法は以下の通りです。
- 手術(滑膜切除術):治療の最も基本となるのは、病変となった滑膜組織をできる限り全て取り除く手術です。関節を大きく開いて行う切開手術や、小さな傷で関節内を観察しながら行う関節鏡手術があります。
- 薬による治療(分子標的薬など):近年、病気の原因に関わる特定の物質の働きを抑える飲み薬の研究が進み、手術が難しい患者様に対し、進行を抑える効果が期待されています 。
- 放射線治療:手術だけでは病変が取り切れなかった場合や、病気が再発するリスクが高いと判断された場合に、補助的な手段として検討されることがあります。
- 保存的な治療:痛みを和らげるための飲み薬や湿布、関節の負担を軽くするための装具の使用、関節の動きを保つためのリハビリテーションなどが行われますが、これらは病気の原因を取り除く根本的な治療ではありません。
色素性結節絨毛性滑膜炎は再発しやすい性質があるため、治療で病変を取り除いた後も、定期的な診察と検査で慎重に経過を見ていくことが非常に重要です。患者様一人ひとりの状態や病気の広がりを考慮し、最も適切な治療方法をご提案いたします。