グローインペインシンドローム
症状
グローインペインシンドローム(GPS)は、サッカーやラグビーなど、股関節に大きな負担がかかるスポーツをする方に多く見られる、鼠径部(そけいぶ:足の付け根)やその周辺、下腹部にかけて慢性的に痛みが続く状態の総称です。この痛みは、単なる一つの筋肉の損傷ではなく、股関節周囲の筋肉、腱、関節、または骨の異常など、複数の組織の問題が複雑に絡み合って起こるのが特徴です。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 鼠径部(股の付け根)の痛みと太ももの内側にかけての痛み:股関節を内側に閉じる動きをする筋肉(内転筋群)の使いすぎや損傷に関連して、痛みが内ももに広がるのが特徴です。
- 下腹部や鼠径管付近の痛み:咳、くしゃみ、笑うなど、お腹に力を入れる動作で痛みが強くなる場合があり、これはお腹の壁の弱さが関係している可能性があります。
- 走る、ダッシュ、キックなどの動作での痛み:スポーツ活動の中でも、特に急な方向転換や加速、キックといった股関節に強いねじれや牽引力が加わる動作で痛みが目立ちます。
- 股関節の引っかかりや動く範囲の制限:股関節を深く曲げたり、内側にひねったりしたときに、鋭い痛みや関節の引っかかり感(インピンジメント)を感じる場合があります。
- 安静にしても改善しにくい慢性的な痛み:痛みが12週間以上続くことが多く、一時的に休んでも運動を再開するとすぐに症状が戻ってしまうため、パフォーマンスの低下につながります。
これらの症状は、痛みの原因が複数存在していることを示しており、日常生活やスポーツ活動に深刻な影響を及ぼします。
原因
グローイン ペイン シンドロームは、特定のスポーツ動作で鼠径部周辺の組織に過度な負担が繰り返し加わり、体の使い方やバランスが崩れることによって発生します。痛みの原因は一つではありません。
具体的な原因として、以下の要素が複雑に関係していることが多いです。
- 内転筋群や腹筋群の過負荷(オーバーユース):股関節を内側に閉じる内転筋群や、体幹を支える腹筋群が、繰り返しの強い運動や不適切なフォームによって炎症を起こしたり、小さな損傷を繰り返したりすることが主な原因となります。
- 体幹や股関節周囲の筋力バランスの乱れ:体の中心(体幹)を安定させる筋肉や、股関節の動きを制御するお尻や太ももの筋肉に左右差や筋力不足があると、特定の部位に過剰な負荷が集中しやすくなります。
- 股関節の構造的な問題(FAIなど):股関節の骨の形に生まれつき、または成長期におけるスポーツ活動の影響で異常があり、動くたびに骨同士が衝突(インピンジメント)して関節の軟骨や組織を傷つけることで痛みを引き起こすことがあります。
- 恥骨結合部への繰り返しの負担:走る、キック、方向転換の際に、腹筋群と内転筋群が連動して恥骨結合部に強い牽引力を繰り返し加えることで、骨やその周辺に炎症やストレス反応(恥骨炎)が発生し、慢性的な痛みにつながります。
これらの要因が複雑に絡み合い、炎症や組織の損傷が慢性化することで、安静だけでは治りにくい厄介な痛みとなってしまうのです。
診断
鼠径部の痛みは、鼠径ヘルニアや神経の圧迫など、他の重大な病気でも起こるため、グローイン ペイン シンドロームの原因を正確に見極めることが、適切な治療を行うための第一歩です。問診と身体の検査、そして専門的な画像診断を組み合わせて進めます。
- 詳しい問診と身体の検査:いつから、どのような痛みがあるのか、特に痛む動作や、スポーツの種類、練習量など、患者様の状況を詳細に確認します。また、医師が実際に鼠径部、下腹部、股関節周辺を触診し、どの動作で痛みが再現されるかを確認することで、どの組織に問題があるかを絞り込みます。
- 画像検査(レントゲン、MRI、超音波):骨や関節の状態、筋肉、腱、軟骨などの軟部組織の損傷や炎症の程度を詳しく調べます。特にMRI検査は、恥骨の骨に生じたストレスによる初期の炎症(骨髄浮腫)や、股関節の構造的な異常(FAI)の評価に非常に有用です。
- その他の病気との鑑別:鼠径ヘルニアや、稀に起こる神経の圧迫による痛み(閉鎖神経や腸骨鼠径神経など)といった、筋肉や骨以外の原因がないかを慎重に判断します。
これらの検査結果を総合的に判断することで、痛みの本当の原因を特定し、一人ひとりに合った治療計画を立てます。
治療
グローイン ペイン シンドロームの治療は、まず痛みを引き起こしている炎症を抑え、次に股関節周囲の機能と安定性を回復させ、安全なスポーツ復帰を目指すことが目標です。ほとんどの場合、手術をしない保存的な治療が中心となります。
主な治療法は以下の通りです。
- 運動の調整と安静:痛みが強い時期は、痛みを引き起こす特定のスポーツ活動を一時的に控え、患部の炎症が治まるのを待ちます。ただし、完全な安静は推奨されず、水泳など負担の少ない運動に切り替えることも有効です。
- 薬による治療:炎症を抑える飲み薬(非ステロイド性抗炎症薬など)や、湿布、塗り薬などを用いて、痛みを和らげます。
- リハビリテーション(運動療法):痛みが軽減してきたら、硬くなった股関節周囲の筋肉の柔軟性を高めるストレッチや、弱くなっている体幹や股関節周りの筋肉を強化する運動を行います。再発を防ぐためには、最低3ヶ月間継続し、正しい体の使い方を身につけることが非常に重要です。
- 注射による治療(ステロイド注射など):痛みが強く、リハビリの妨げになっている場合に、炎症を抑える薬を患部周辺に注射し、痛みを一時的に緩和させます。
- 手術による治療:保存的な治療を続けても症状が改善しない場合や、股関節の骨の形が原因となっている場合(FAI)など、構造的な問題を根本的に解決する必要がある場合に検討されます。
治療の成功には、焦らずにリハビリテーションを継続し、専門医と協力して取り組むことが大切です。