単純性股関節炎
症状
単純性股関節炎は、主に2歳から12歳くらいの小児、特に男の子に多く見られる、股関節の一時的な炎症です。急に痛み出すことが特徴ですが、ほとんどの場合は、安静にしていれば1〜2週間で自然に治る良性の病気です。お子さんの突然の痛みはご家族にとって心配なものですが、まずは他の重篤な疾患ではないことを正確に診断することが大切です。
具体的な症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 急な股関節の痛み:何のきっかけもなく、急に片側の股関節や足の付け根の部分に痛みが出始めます。これが最も主要な症状です。
- 歩き方の異常(跛行):痛みのために足をかばうようになり、歩くときに足を引きずったり、痛い側の足に体重をかけられなくなったりします。
- 膝や太ももの痛み:股関節の炎症からくる痛みが、関連痛として膝や太ももの内側や前に現れることがあります。股関節自体ではなく膝が痛いと訴えて受診されるケースも少なくありませんが、この場合も股関節の診察が必要です。
- 股関節の動く範囲の制限:股関節を動かせる範囲、特に内側にひねる動作などで痛みを感じやすくなり、動きが硬く感じられます。
- 軽度の発熱:発熱を伴うことがありますが、通常は微熱程度で経過することがほとんどです。38.5度以上の高熱がある場合は、化膿性股関節炎などの重篤な病気の可能性が高まるため、すぐに医療機関を受診してください。
これらの症状は、他の重い股関節の病気と似ています。お子さんが痛みを訴えている場合は、自己判断で様子を見ずに、速やかに整形外科を受診してください。
原因
単純性股関節炎は、特定の原因がはっきりと特定されていません。しかし、「股関節の滑膜(関節を包む膜)に一時的な炎症が起こり、関節液が通常より多く溜まること」が原因で痛みが発生すると考えられています。
原因として関連が指摘されている要因には、以下のようなものがあります。
- 先行するウイルス感染:痛みが出る2週間ほど前までに、風邪や胃腸炎、扁桃炎など、何らかのウイルス感染症にかかっていたケースが多く見られます。これは、感染に対する体の免疫反応が股関節の滑膜に作用し、炎症を引き起こすのではないかと考えられています。
- 股関節への軽微な刺激や外傷:普段よりも激しい運動をした後や、軽く尻もちをつくなど、股関節に一時的な負担や衝撃が加わった後に発症することもあります。軽い刺激が炎症のきっかけとなることがあります。
- アレルギー反応の関与:体内で起こるアレルギー反応のようなものが、股関節の滑膜に作用し、炎症を引き起こすという説も一部で唱えられています。
つまり、明確な単一の原因があるというよりは、体調の変化や軽い刺激などが引き金となり、一時的に股関節の炎症と関節液の増加が生じている状態といえます。
診断
単純性股関節炎の診断で最も重要なのは、化膿性股関節炎(細菌感染による関節炎)やペルテス病、大腿骨頭すべり症など、治療が遅れると重い後遺症を残す可能性がある他の重篤な病気ではないことを慎重に確かめることです。特に化膿性股関節炎を除外するためには、症状や検査結果から総合的にリスクを評価します。
当クリニックでは、以下のステップで詳細な診察と検査を行い、単純性股関節炎と他の疾患とを区別しています。
- 詳細な問診と身体診察:お子さんの年齢、痛みの出始め方、痛みの強さ、最近の生活習慣(先行感染の有無)などを詳しくお伺いします。その後、医師が股関節を動かし、動く範囲や、どの程度体重をかけられるか(荷重負荷の可否)を丁寧に確認します。特に痛みのために完全に足に体重をかけられない状態(荷重不可)は、重い炎症を示唆する重要なサインです。
- X線(レントゲン)検査:股関節の骨全体に異常がないかを確認します。単純性股関節炎では骨に異常は認められませんが、ペルテス病や大腿骨頭すべり症などの骨の病変を除外するために必須の検査です。
- 超音波(エコー)検査:体への負担が少なく、股関節の関節包の中に炎症で溜まった関節液がどの程度あるかをリアルタイムで確認できます。関節液の貯留は炎症が起こっていることの強い裏付けとなります。
- 血液検査:発熱を伴う場合や痛みが非常に強い場合、血液中の炎症反応を示す数値(CRP、ESR、白血球数など)を確認します。化膿性股関節炎のように細菌感染による重い炎症がある場合、これらの数値が基準値よりも著しく高くなるため、単純性股関節炎との重要な区別点となります。
これらの診察と検査を通じて、単純性股関節炎であるか、それとも緊急性の高い他の疾患であるかを総合的に判断し、適切な診断を確定します。
治療
単純性股関節炎は、適切な対応をとれば自然に治る病気です。そのため、治療は「痛みを抑えて炎症が自然におさまるのを待つ」という保存的な方法が基本となります。
治療の基本的な進め方には、以下のようなものがあります。
- 安静の保持:股関節にかかる負担を最小限にすることが回復への第一歩です。痛みが強い間は、体育の授業や激しい運動を避け、できるだけ股関節を休ませるようにします。痛みが改善し、歩けるようになるまでは、保育園や学校を休むことも推奨されます。
- 消炎鎮痛剤による対症療法:痛みが強い場合や微熱を伴う場合には、炎症を抑えて痛みを和らげるための飲み薬(非ステロイド性抗炎症薬など)を処方します。これは症状を緩和し、安静にしやすくするためのものです。
- 定期的な経過観察:重い病気ではないことが確認できていても、症状が改善しているかを慎重に見る必要があります。症状が改善した後も、稀ながらペルテス病へ移行するリスクがあるため、少なくとも6ヶ月間は定期的な診察による経過観察が大切です。
安静と適切な対症療法を保つことで、ほとんどのお子さんは1〜2週間程度で痛みがなくなり、通常の生活に戻ることができます。症状が長引く場合や、症状が悪化するような場合は、改めて診断の再評価を行いますのでご心配なことがあれば、いつでも医師にご相談ください。