治りづらい外側上顆炎の治療方法

上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)は肘の外側に痛みが出る障害です。
テニス愛好家やゴルフ愛好家に生じやすいため「テニス肘」または「ゴルフ肘」とも呼ばれています。
2017年の外側上顆炎患者の内訳の報告ではスポーツ別でテニスが32%、ゴルフが30%を占めています。
また、職業別ではPC作業者が32%、重量物の運搬者が15%であり、腕を酷使する職業の方が罹患(りかん)する傾向にあります。

肘外側の解剖


①長・短橈側手根伸筋
②尺側手根伸筋
③総指伸筋
④小指伸筋
⑤回外筋
前腕にある筋肉はたくさん存在しそれらの筋肉は肘の外側に付着します。
筋肉が付着する部分を腱と言います。
肘を動かすというより、手首を動かすときに働く筋肉です。
手首を甲の方向へ動かす動きを背屈動作と言い、手首を外側に捻る動きを回外動作と言います。
主にこの2つの動きで前腕の筋肉が働きます。関節の中には滑膜ひだや様々な靭帯も存在しています。

痛くなる部位

痛くなる部位は主に2つあります。
①外側上顆
腱が付着する部分が痛くなります。
肘の外側の骨の部分を押すと痛みが走ります。
②前腕伸筋群
上記の解剖で説明した筋肉が痛くなります。
筋肉の部分を押して痛みが走ると筋肉が硬くなり
次第に①も痛くなる可能性があります。
①②同時に痛くなる場合もあります。

 なぜ肘の外側が痛くなるのか?

一般的には、年齢とともに腱が傷んで起こります。
手首を上に曲げる動作(背屈動作)や手首を外側に捻る動作(回外動作)を行った時に肘の外側に付着する筋肉が働きます。
この負荷が繰り返されることで筋肉と骨との間に存在する腱に負荷がかかり肘の外側に疼痛が起こると考えられています。
ゴルフやテニス愛好家の方で痛めることが多いです。
また、近年では腱の炎症のみが原因ではなく、肘の外側に存在する神経も肘外側の痛みに関与していると考えられています。
Ex)
#手のひらを下にして物を持ち上げると肘の外側が痛い
#握ると肘外側が痛い
#肘外側の骨を押すと痛い
#包丁で食べ物を切ると肘外側が痛い

ゴルフで肘の外側が痛くなる原因

ゴルフスイングは8つのフェーズで成り立っています。

①セットアップ

②テイクバック~③バックスイング

④トップ

        ⑤ダウンスイング

        ⑥インパクト

⑦フォロースイング~⑧フィニッシュ
ゴルフ時では主に⑤と⑥で発症しやすいと言われています。
右打ちの場合で説明していきます。
痛める可能性は2パターンあります。
1つ目は右肘が痛くなる場合です。
ダウンスイング〜インパクトのフェーズ

(良い例)
右手首が中間位でインパクトを
むかえているため
右肘外側への負担が少ない

(悪い例)
右手首が上に曲がった状態(背屈時)で手首が固定され
ボールをインパクトしてしまうと肘の外側の筋肉が働き、
肘関節の外側に負担が増加して痛める可能性があります。

2つ目は左肘が痛くなる場合です。おそらく左肘の外側を痛める愛好家の方が多いと思います。

(良い例)
左手首が中間位でインパクトを
むかえているため
左肘外側への負担が少ない

(悪い例)
ダウンスイング〜インパクトに移行するときに
肘の外側に付いている筋肉に遠心性収縮(運動と筋肉の長さが伸張しながら収縮する)の負荷が加わると肘関節の外側に
負担が増加して痛める可能性があります。
リハビリテーション ゴルフ編
ゴルフで肘外側を傷めた方に対するリハビリテーションを紹介します。
あくまで一般的なリハビリ内容です。
ストレッチやトレーニングを紹介します。
前腕背側の筋肉ストレッチ

①手の平を下に向け手首を下に返します。
②図の黄色矢印の部分が伸びているのを
感じていればストレッチ出来ています。
③ストレッチを感じてから
30秒間伸ばしてください。
2~3セット行ってください。
前腕背側の筋肉のトレーニング

①肘を伸ばした状態でダンベルを持つ
 

②手首を上に返す

③ゆっくりと下へ降ろす
*痛みが出る動作と同じのため、この動きをしていたい場合はすぐに中止してください。
*痛みがない場合は、この動きを30回×2~3セット行ってみてください。
胸郭回旋(胸回りを捻る)エクササイズ

①横向きに寝て、ももを抱えます。
上体を丸めるように内側に捻ります

②上体を外側に捻ります。
*片方のみではなく必ず左右行ってください。
*片方15回×2~3セット行ってください。
胸郭(胸回り)エクササイズ

①腕にボールやクッションを挟みます。
矢印の方向に力を入れます。

②矢印の方向に力を入れながら
両腕を上に上げていきます。

③背中が丸まらないように
背中を反らせながら上に上げていきます。

*肩に痛みが出る方は中止してください。
*痛みなどが出ない方は、この動きを20×2~3セット行ってください。

テニスで肘の外側が痛くなる原因

テニスでは2パターンで発症しやすいと言われています。
1つ目は
バックハンドの打球において前腕背側の筋肉に負担がかかり発症するパターン

2つ目は
フォアハンド・バックハンドを繰り返し強力なグリップ動作(握る動作)で負担がかかり発症するパターン


上記の2パターンは患部(肘の外側)が原因で発症しやすい例です。
これからは患部外(肘の外側以外)が原因で発症するパターンを説明します。
外側上顆炎になりやすい方の特徴に肩甲骨周囲筋の筋力が低下していることが多いと言われています。
肩甲骨は背中についており腕に伸びていく筋肉の土台となります。
この土台がしっかりしていない状態でテニスを行うとバックハンドのインパクト時の衝撃を前腕の筋肉を過剰に使用して受け止めるため、負担がかかり炎症を起こしてしまいます。
実際の臨床でもテニスプレーヤーで肘が痛い方は肩甲骨周囲の筋力が落ちている傾向を感じます。
そのため、患部のみでなく患部外にも着目する必要があります。
当外来では評価を行い状態に応じて肩甲骨周囲筋のトレーニングを提供しています。

胸郭(胸回り)のエクササイズ

①腕にボールやクッションを挟みます。
矢印の方向に力を入れます。

②矢印の方向に力を入れながら
両腕を上に上げていきます。

③背中が丸まらないように
背中を反らせながら上に上げていきます。

*肩に痛みが出る方は中止してください。
*痛みなどが出ない方は、この動きを20×2~3セット行ってください。

肩後方組織のストレッチ

肩の可動域に制限がある場合も前腕を捻るように使用することで肘への過負荷になる場合があるので肩の柔軟性の獲得も重要になります。


①横向きに寝て肩90度に上げ、肘90度に曲げます

②手を床の方に動かし肩の後ろのストレッチを行います

上体は床に対して垂直になるようにしてください
30秒×2~3セット実施してください
肩の後ろ以外に痛みが起きているときは中止してください。

治りにくくなる原因

ゴルフやテニス、デスクワーク、力仕事をしていると肘外側に負担がかかります。
その痛みを長期間放置していると傷んだ腱や周囲の組織に痛みを感じとる神経(自由神経終末)が増えていきます。
そのようなことが起こると痛みを感じとりやすくなり、自己修復能(自分で組織を修復する力)が低下し治りにくくなります。
また、肩のインナーマッスルや肩甲骨周りの筋力が低下していると、肘に加わる負担が大きくなり治りにくくなるとの報告もあります。
そのため、早期の治療介入とともに肩や肩甲骨周りのトレーニングなど患部以外へのアプローチも重要になってきます。

AR-Exスポーツ・難治性疼痛外来での外側上顆炎の治療の特徴



 

画像所見




 

腱付着部に負担がかかることで骨の棘(骨棘)が形成されます

黄矢印:腱付着部の損傷(白く映っている部分)
黄矢頭:関節内に存在する「ひだ」の腫れ

正常例
腱が傷んでいない場合は黒く映りません

障害例
黄矢印:黒くなっている部分は腱の損傷を疑います

検査・評価


疼痛の原因組織は、腱なのか、関節内の組織なのか、神経なのか、またはそれ以外の組織なのかを
鑑別するために各種テストを用いて評価していきます。 原因組織を特定することは治療成績に大きく影響します。
検査結果と画像所見を照らし合わせながら治療対象となる組織を特定していきます。

治療方法

一般外来においては外用、内服、リハビリテーション、日常生活指導などの保存療法を行います。
スポーツ・難治性疼痛外来では、評価に基づき必要に応じて以下のような治療を行います。
体外衝撃波
体外衝撃波とは「音源が音速を超えた時に発生する圧力波」のことで、「拡散型」と「集束型」の2種類があります。
退行変性した腱に対し体外衝撃波を照射することで、組織修復の促進や疼痛の緩和を図ります。
外側上顆炎についての説明や治療の流れを説明しています。
 

                                                       実際に体外衝撃波治療を施行している様子
                         

                          損傷している腱の付着部を中心に衝撃波を照射していきます

体外衝撃波の詳細はコチラ
エコーガイド下注射
疼痛を引き起こしている組織に対して、超音波(エコー)を用いて正確に、最小限の量を注射して治療します。
主に体外衝撃波治療による治療効果がない場合に実施します。

神経リリース
疼痛を引き起こしていると考えられる神経に対し神経とその周囲組織の剥離を行います。

リハビリテーション
難治性疼痛外来でのリハビリは個々の患者さんにより特化していきます。
例えば、注射で神経に対するハイドロリリースを行った場合、リハビリでは神経の滑走性を出す徒手療法を行っていきます。
同じ「外側上顆炎」でもそれぞれ患者さんに合わせた治療を行い、より効果的な症状の改善を目指します。

                                                 神経の滑走性を促す徒手療法
       

                         疼痛が生じない範囲でゆっくりと神経の動きを促していきます
 

治療期間

まず3回の治療で効果判定を行います(治療間隔は1~2週)。
3回で満足のいく結果を得られた場合は治療を終了します。
治療効果はあるがまだ満足できない場合、医師との相談の上4回以上の治療を行います。
症状の改善が認められない場合、または悪化している場合は治療を終了します。
症状の経過によっては3回以下でも治療を終了する場合があります。

治療施設

スポーツ・難治性疼痛外来の受診の流れや費用については各施設のページからご確認下さい。
東京都で体外衝撃波治療を受けられる施設
都立大整形外科クリニック(目黒区)
明大前整形外科クリニック(世田谷区)

埼玉県で体外衝撃波治療を受けられる施設
さいたま整形外科クリニック(さいたま市)

長野県で体外衝撃波治療を受けられる施設
長野整形外科クリニック(長野市)
佐久平整形外科クリニック(佐久市)
上田整形外科内科(上田市)