高血圧の治し方

高血圧とは

体を動かしたり寒さを感じたりしたときの一時的な血圧上昇とは違い、安静時でも慢性的に血圧が高い状態が続いていることを高血圧症といいます。原則的に収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合をいい、どちらか一方でもこの値を超えていると高血圧症と診断します。高血圧自体には自覚症状がほとんどなく、放置してしまうと心疾患や脳卒中など生命を脅かす病気につながります。塩分の取り過ぎや肥満、ストレス、運動不足など生活習慣による要因、体質などの遺伝的要因のほか、腎臓疾患やホルモン異常などの病気によって引き起こされることもあります。
高血圧が身体に与える影響として血管に基づいた臓器の病的変化があげられます。高血圧症によって二次的変化と老化現象の両者が加って招来された動脈硬化、主に細動脈の硬化によって引き起こされる循環障害の結果です。血管の変化により、局所の循環血液量は減少します。生命維持に重要な脳、心臓、腎臓に対しての循環障害が最も目立ちます。日本では中枢神経系の動脈の変化による脳卒中が多いと報告されています。

高血圧の疫学

日本の高血圧者は約4,000万人とされ、血圧水準が高いほど脳卒中、心筋梗塞、心疾患、慢性腎臓病などの循環器疾患罹患率・死亡率は高いとされてます。また、高血圧の影響は心筋梗塞よりも脳卒中により特異的であり、日本では脳卒中罹患率が心筋梗塞罹患率よりも高いと報告されています。高血圧者のうち、約半数が管理不十分と推定され、より厳格な血圧管理が必要とされています。

原因

心臓から血液を送り出すとき、血液によって血管の壁にかかる圧力が血圧です。血圧の高さは心臓が血液を押し出す力と血管の広がり方(=硬さ、あるいは柔軟さ)で決まり、血液が血管の壁を押す力が強くなるほど高くなります。高血圧症には腎臓疾患や内分泌異常、心臓や血管の異常などが原因で起こる「二次性高血圧」と、主に体質的な要因(親が高血圧であるなどの遺伝的要因)と他のさまざまな要因が加わって発症する「本態性高血圧」にわけられます。本態性高血圧は、体質的に高血圧になりやすい人に、過剰な塩分接種、喫煙、過度の飲酒、運動不足、ストレス、加齢などの要因が加わることによって引き起こされます。
長期にわたって塩分を取り過ぎると血管の柔軟性が失われて血圧が上昇します。また、肥満によって血圧をコントロールするホルモンや自律神経の働きが乱れることも血圧上昇の原因になります。すなわち、体質的な要因の大きい本態性高血圧も生活習慣が大いに関係しています。高血圧の90%は本態性高血圧といわれています。

症状

数値の上では高血圧症であってもほとんど自覚症状がないことが多く、目立った症状がないうちに血管へのダメージなどが進行していくのが高血圧症の怖い部分です。ただし肩凝りや頭重感、めまい、動悸、息切れなどの症状が出る場合もあります。高血圧症の状態を放置していると、血管の壁に常に圧力がかかっている状態になるため血管が硬くなる動脈硬化が起こり、脳梗塞や脳出血、狭心症や心筋梗塞、慢性腎臓病などの重大な病気につながることもあります。自覚症状がほとんどないので、普段から血圧を測る習慣をつけることが重要です。

検査診断 

血圧測定  
診察室血圧は、腕に巻くマンシェットを心臓の高さに保ち、 安静座位の状態で測定します。1~2分の間隔をおいて複数回測定し、安定した値(測定値の差が5mmHg 未満を目安)を示した2回の平均値を血圧値とします。
診察室血圧の測定は自動血圧計を使用します。高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における診察室血圧値に基づいて行います。家庭血圧および自動血圧計による24時間自由行動下血圧の測定は高血圧、白衣高血圧、仮面高血圧の診断と薬効、薬効持続時間の判断に有用であり日常診療の参考となります。高血圧基準値は診察室血圧、24時間自由行動下血圧、家庭血圧で異なり、診察室血圧値は140/90mmHg 以上、家庭血圧値は135/85mmHg以上、24 時間自由行動下血圧値は130/80mmHg以上の場合に高血圧として対処します。また、家庭血圧における 正常血圧の基準は、125/80mmHg未満です。
高血圧診療では仮面高血圧、白衣高血圧の存在を常に意識することになります。これに加え、治療抵抗性高血圧の診断と治療のために、家庭血圧測定あるいは24時間自由行動下血圧の測定が不可欠となります。高血圧診療では、血圧日内変動パターンや夜間血圧、早朝血圧、職場血圧などにも配慮します。

高血圧管理計画のためのリスク層別化に用いる影響因子(JSH2009から引用)



(診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化(JSH2009から引用)


血圧値により、至適血圧、正常血圧、正常高値血 圧、Ⅰ度高血圧、Ⅱ度高血圧、Ⅲ度高血圧、(孤立性)収縮期高血圧に分類されます。血圧値のほかに、血圧以外の危険因子、高血圧性臓器障害、心血管病の有無により高血圧患者を低リスク、中等リスク、高リスクの3群に層別化します。糖尿病、慢性腎臓病(CKD)あるいは臓器障害、心血管病は、いずれかが存在するだけで血圧値によらず高リスクに区分します。正常高値血圧を含めたメタボリックシンドロームの存在にも注意します。
診療では体質が原因の本態性高血圧なのか、他の臓器に原因がある二次性高血圧なのかを判断するための検査を行います。問診や血液検査、尿検査、心電図検査、胸部エックス線検査などが基本の検査です。状態に応じて心臓や頸動脈の超音波(エコー)検査なども行い、高血圧による合併症の有無を調べることが必要。検査の結果、二次性高血圧が否定されれば、本態性高血圧と判断します。二次性高血圧の疑いがあるときは超音波検査やCT検査、MRI検査などの精密検査により、脳や心臓、腎臓などに高血圧の原因となる疾患がないかを調べます。

治療

高血圧治療の目的は、「高血圧による心血管病の発症、進展、再発を抑制すること」です。
高血圧に対しての治療方針は治療の対象はすべての高血圧患者(血圧140/ 90mmHg以上)であり、糖尿病や心筋梗塞後患者では130/80mmHg以上が治療の対象となる。降圧目標は若年者・中年者は130/85mmHg 未満、糖尿病、CKDあるいは心筋梗塞後患者は
130/80mmHg未満とし、脳血管障害患者、高齢者は 140/90mmHg未満とします。降圧治療は生活習慣の修正(第1段階)と降圧薬治療(第2段階)により行われます。生活習慣の修正は、食塩摂取量の制限、減量、運動療法、アルコール摂取量の制限、果物や野菜の摂取の促進、飽和脂肪酸や総脂肪量摂取の制限、禁煙などがあります。
降圧薬治療開始時期は個々の患者の血圧レベル、心血管病に対する危険因子の有無、 高血圧に基づく臓器障害の有無ならびに心血管病の有無から決定します。降圧薬は原則、1日1回投与の薬物を低用量から 開始するのが原則とされています。増量時には1日2回の投 与法も考慮します。副作用の発現を抑えながら降圧効果を増強するためには適切な降圧薬の組み合わせがよいとされています。Ⅱ度以上の高血圧では 初期から併用療法を考慮します。家庭血圧測定は、白衣高血圧や仮面高血圧の診断だけではなく、高血圧治療の効果判定に有用です。
高血圧患者のQOL(quality of life)には、高血圧 そのものによる身体的、精神的な問題と降圧薬による影響(副作用など)、医師(医療機関)・患者関係 などが影響します。十分なコミュニケーション、情報 提供、QOL・副作用への配慮に加え、服薬錠数を設定し、処方します。
 
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