前十字靭靭帯 ACL

Arthroscopic Surgery

前十字靭帯の治し方とスポーツ復帰の期間

前十字靭帯はどこ?

前十字靭帯の読み方はぜんじゅうじじんたいです。前十字靭帯靭帯は膝関節の靭帯です。膝関節には大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)をつなぐ靭帯が4本あり、前後方向の膝の動きを制動する靭帯が前十字靭帯です。

前十字靭帯断裂

前十字靭帯は膝関節を安定させる役割を持つ靭帯です膝関節に下記の過剰な力が加わると靭帯がストレスを受けます。

  • 大腿骨に対して脛骨が前へ移動しない様に制御
  • 膝関節が伸びた状態から過剰に伸びることを制限
  • 脛骨が大腿骨に対して回旋(ねじれる)ことを制限

これらの方向の力が膝関節に対して加わると靭帯は緊張します。加わる力が靭帯の強度を超えると断裂します。

 

前十字靭帯の受傷

前十字靭帯は急激なストップや方向転換、ジャンプの着地で膝に剪断力が加わった際に脛が前方にずれることを防ぎます。サッカーやバスケットボール、スキーなどの急激な方向転換を伴うスポーツや、ラグビーやアメリカンフットボール、格闘技など、コンタクトの多いスポーツにおいて、自分の意思とは違った方向に関節が強制的に持っていかれたり、地面に着地した際に損傷します。

膝関節が内側に曲がったとき
ストップ動作や方向転換時に生じやすい

膝関節の軽度屈曲と下腿内旋(膝が捻る)が起こると膝が内側に入り受傷してしまう
膝関節が通常より伸びた時
ジャンプの着地やタックルを受けた際に生じやすい

膝が伸びる方向により強制されると受傷してしまう

前十字靭帯断裂の診断とMRI検査

前十字靭帯の状態を把握・観察するには、軟部組織の描出に優れるMRIを撮像することが最も適しています。前十字靭帯の検査では横から見た矢状断像で靭帯の状態を確認します。

前十字靭帯の診断に必要な撮影条件

正常な前十字靭帯の矢状断像では、すっと伸びた黒い帯状の構造として描出されます。しかし、左の画像では途中で切れているかのように見えます。ACLは斜めに走行しているため、ACLの走行に合わせずに通常の矢状断で撮像すると下のような画像になってしまいます。そのため、我々の施設では、ACLの損傷・断裂をより詳しく観察するために、ACLの走行に合わせた設定を行っています。それにより、下の画像のようにしっかりと「連続した黒い帯」として描出されます。

前十字靭帯の完全断裂

完全断裂の場合、MRIで靭帯が途中で完全に途切れているのが明瞭に描出される場合、なんとなくつながって見えることや、緊張感が無くなっている場合などが有ります。下の画像は完全断裂の症例で、黄色の印の部分で完全に断裂しているのが分かります。

前十字靭帯損傷はどんな怪我

スポーツや事故によって自分の意思とは違った方向に関節が強制的に持っていかれたり、地面に着地した際に靭帯が断裂もしくは不全断裂を起こし、靭帯として関節を制動することができなくなった状態です。怪我をした時に断裂音が聞こえることもあります。

前十字靭帯損傷の症状

怪我をした直後は歩けることもありますが、徐々に関節から腫れてきて歩行できなることもります。炎症が落ち着いてくると歩行もでき、日常生活上問題なく過ごせる様になります。しかし、靭帯の損傷により関節が不安定なうえ、膝崩れや不安定な感覚など違和感を感じることがあります。また、関節内の炎症が起き、一時的に筋肉の萎縮も生じるため、力の入れにくさを感じやすくなります。

前十字靭帯の治療方法

靭帯の損傷は自然治癒はしないとされています。細胞レベルの修復は多少されますが、切れた靭帯が元通りの機能を取り戻すように修復されることはありません。そのため、根本的な治療は靱帯の構造(器質的)と、負担を少なくした膝の使い方(機能的)の治療が必要となります。器質的には手術療法、機能的にはリハビリテーションが重要です。大会が近いなどの理由で手術をしない方法も選択される場合がありますが、その場合筋力とテーピングやサポーターで膝を支持することになり、根本的な治療ではなく一時的な応急処置として選択されることもあります。

前十字靭帯の損傷を放置したらどうなりますか?

前十字靭帯の損傷を放置すると、膝の安定性を低下させ日常生活や軽い運動中に膝が不安定になる可能性があります。膝が抜けるような感覚や捻挫の再発が起こりやすくなります​​。この不安定さは、時間が経つにつれて膝の関節の軟骨や半月板などの正常組織を徐々に損傷し、最終的には変形性膝関節症のリスクを高めることがあります​​。そのため、機能不全が生じている場合、手術治療が望まれることが多いです​​。

前十字靭帯損傷後の後遺症

手術をしなかった場合、関節が不安定な状態なので長期的にみると、怪我をしていない膝と比較して早期に軟骨や骨の障害をきたします。生活でも膝崩れを繰り返すときは関節内を損傷させる原因となるため、早めの器質的、機能的に治療が必要です。
膝の不安定性
前十字靭帯は膝関節の安定性を保つ重要な役割を持っています。損傷により、膝が突然抜ける感じや膝の不安定感が生じ、日常活動やスポーツに影響を与えることがあります​​。
膝の怪我のリスク
膝の安定性が損なわれることで、捻挫などの他の膝の怪我が再発しやすくなります​​。
二次的な半月板損傷や軟骨損傷

不安定な膝は、半月板や軟骨に異常な負担をかけ、これらの組織の早期劣化や損傷を引き起こす可能性があります​​。

前十字靭帯は全治何ヶ月?

スポーツへの復帰にかかる期間は選択される治療方法により異なります。手術を行う場合はスポーツ復帰の期間は9〜12ヶ月です。

治療には手術か保存治療がありますが、スポーツを行う若い年代の場合は手術を行うことがスタンダードです。手術後は個人の回復の状況にもよりますが、6〜9ヶ月で各スポーツのトレーニングが開始され、徐々に以前の運動レベルへの復帰を目指します。競技によってはこの段階で部分的に復帰することもあります。9〜12ヶ月以上で多くの競技選手がこの期間に本格的なスポーツ復帰をします。

またケガを前十字靭帯の手術を行うためには下記の条件必要です。
・前十字靭帯損傷による炎症の改善
・膝関節の可動域(曲げ・伸ばし)の改善

前十字靭帯損傷の治療の心得

怪我をしたときはかなりのショックをあたえます。とくに学生スポーツで起こしてしまった怪我は人生を変えるほどの衝撃の走る大けがです。しかし、前十字靭帯損傷はしっかり向き合えば乗り越えることのできる怪我です。器質的には手術をして靭帯を再建させることができます。しかし、それだけではスポーツができる膝にはなっていません。更に怪我をしてから筋肉は細くなり、一時的に力を入れることもできない状態になります。そして、新しく生まれ変わった靭帯は新たに靭帯としての役割を担うことになります。そのために機能的、つまり新しい靭帯とともに運動の経験を蓄積して、自分の体の一部として重要な役割を担ってもらうように一緒に動きを学ぶ必要があります。この治療は半年〜1年と時間のかかる治療です。怪我をした方は時間も労力もかけて身体すべてを再構築していくことになります。おそらく、人生の中でもこれほど体と向き合う期間はないかもしれません。再びご自身が活躍されるフィールドに戻って輝かれること、そして怪我をしたことがいつか人生の中で貴重な経験だったと思えるように、私たちAR-Exのスタッフは最後までサポートいたします。