仙腸関節障害
症状
仙腸関節障害(せんちょうかんせつしょうがい)とは、骨盤の真ん中にある「仙骨」とその左右にある「腸骨」をつなぐ「仙腸関節」に負担がかかり、痛みが生じる状態です。この関節は本来、数ミリ程度しか動かない非常に強固な構造ですが、日常生活でのふとした動作や負荷によってわずかなズレや炎症が起きると、腰やお尻の周りに強い痛みを感じるようになります。仙腸関節障害による痛みは、腰痛全体の約10%から30%程度を占めるとも言われており、一般的な腰痛と見分けがつきにくいのが特徴です。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 片側のお尻の痛み:お尻のえくぼのあたりや、尾てい骨のすぐ横あたりに痛みを感じることが多く、特に片側に強く出ることが一般的です。
- 足の付け根(股関節)の痛み:骨盤の前面にあたる鼠径部(そけいぶ)に痛みや違和感が出ることがあり、股関節の病気と間違われることもあります。
- 太ももや膝までの広がる痛み:痛みがお尻から太ももの裏、さらには膝のあたりまで広がることがあり、坐骨神経痛に似たしびれのような感覚を伴うこともあります。
- 椅子に座り続けるのがつらい:硬い椅子に座ると関節が圧迫されて痛みが強まるため、長時間座っていられなかったり、頻繁に座り直したりすることが増えます。
- 寝返りや立ち上がる時の痛み:寝返りを打つ際や、椅子から立ち上がる瞬間、また動き始めにズキッとした痛みが走るのが特徴的です。
- 仰向けで寝られない:布団に寝た際に関節が圧迫されたり骨盤が引っ張られたりして痛みが出るため、横向きで膝を曲げて寝ることを好むようになります。
このように、症状は腰やお尻、足のしびれなど多岐にわたります。痛みの場所がはっきりせず、日によって変わることも珍しくありませんが、日常生活の何気ない動作で制限がかかることが多いため、早めの対処が望まれます。
原因
仙腸関節は非常に強力な靭帯(じんたい)によって支えられており、上半身の重さを足へと分散させるクッションのような役割を果たしています。しかし、何らかの理由でこのクッション機能がうまく働かなくなったり、過度な力が加わったりすることで痛みが発生します。
具体的な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 日常生活での急激な負荷:重い荷物を持ち上げた際や、不意に腰をひねる動作をした時に関節へ強い力が加わり、関節の適合が悪くなることがあります。
- 出産による骨盤の変化:妊娠中はホルモンの影響で骨盤を支える靭帯が緩み、出産時には骨盤が大きく開くため、産後に仙腸関節が不安定になり痛みが出やすくなります。
- 片側に偏った動作の繰り返し:足を組んで座る、片足に体重をかけて立つ、特定の方向へ体をひねるスポーツを続けるなど、左右非対称な負荷が関節のズレを招きます。
- 転倒や事故による衝撃:尻もちをついたり、階段を踏み外したりした際の衝撃が骨盤に直接伝わることで、関節を支える靭帯が傷ついたり関節がロックされたりします。
- 加齢に伴う靭帯の変化:年齢を重ねることで関節を支える靭帯の弾力性が失われ、関節の動きが大きくなりすぎたり、逆に硬くなって動きが悪くなったりすることで炎症が起きます。
- インナーマッスルの低下:お腹の深いところにある筋肉が弱くなると、骨盤を安定させる力が弱まり、結果として仙腸関節への負担が直接増えてしまいます。
仙腸関節は、動きすぎても動かなすぎても痛みの原因になります。特に同じ姿勢での作業が多い現代人は、骨盤周りの筋肉が固まり、関節への負担を分散できなくなっているケースが多く見受けられます。
診断
仙腸関節障害の診断で最も重要なのは、どこに痛みを感じているかを正確に把握することです。レントゲンやMRIなどの画像検査では、仙腸関節のわずかなズレや炎症は映りにくいことが多く、画像上では異常なしと診断されてしまうことも少なくありません。そのため、当グループでは丁寧な問診と身体診察を重視しています。
まず行われるのがワンフィンガーテストです。これは、患者様自身が最も痛い場所を指一本で示してもらうテストで、お尻の特定の場所(後上腸骨棘付近)を正確に指す場合は、この障害である可能性が非常に高まります。
次に、以下のような誘発テストを行い、痛みの再現性を確認します。
- ニュートンテスト:仰向けや横向きの状態で骨盤を特定の方向に圧迫し、痛みが出るかどうかを確認します。
- パトリックテスト:仰向けで膝を曲げて足を外側に開き、股関節や仙腸関節に負荷をかけて痛みが強くなるかを確認します。
- 大腿スラストテスト:仰向けで膝を曲げ、太ももの骨の方向に圧力を加えることで、仙腸関節に直接的な負荷を与えて反応を見ます。
画像検査については、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった他の原因が隠れていないかを確認するために実施します。もし画像で大きな異常が見当たらないにもかかわらず、お尻や足の付け根が痛む場合は、仙腸関節障害を強く疑います。最終的な診断の決め手として、関節の中に直接局所麻酔薬を注入する仙腸関節ブロックを行い、痛みが劇的に改善するかを確認することもあります。
治療
仙腸関節障害の治療は、まず痛みを取り除き、その後に関節の動きを安定させるための保存的治療(手術をしない治療)から開始するのが基本です。多くの患者様は、適切な治療を組み合わせることで日常生活に支障がない程度まで改善します。
主な治療方法には以下のものがあります。
- 薬物療法:痛みや炎症を抑えるための飲み薬や湿布などの貼り薬を使用し、まずは日常生活を楽に過ごせるようにします。
- 仙腸関節ブロック注射:痛みが出ている関節の中に麻酔薬などを直接注射することで、強い痛みや炎症を落ち着かせます。
- リハビリテーション:理学療法士の指導のもと、骨盤周りの柔軟性を取り戻すストレッチや、関節を支える筋肉を鍛えるトレーニングを行い、再発しにくい体を作ります。
- 骨盤ベルトの着用:専用のベルトを骨盤の正しい位置に巻くことで、不安定な関節を外側からしっかり固定し、痛みの軽減と動作の安定を図ります。
- 生活習慣のアドバイス:足を組まない、長時間同じ姿勢を避けるなど、関節に負担をかけない体の使い方や姿勢の注意点について具体的にお伝えします。
仙腸関節障害は、一時的に痛みが引いても、骨盤を支える力が不足していたり悪い癖が残っていたりすると再発しやすい疾患です。注射や薬で今の痛みを取るだけでなく、リハビリテーションを通じて関節を支える機能を整えていくことが、長期的な改善のためには非常に重要です。