頚椎捻挫
症状
頚椎捻挫(けいついねんざ)は、一般的に「むちうち症」とも呼ばれる疾患です。これは、交通事故やスポーツ中の衝突など、外部から首に強い衝撃が加わることで、首の骨(頚椎)を支える周囲の筋肉や靭帯(じん帯)といった軟らかい組織が損傷を受けてしまう状態を指します。骨折や脱臼といった骨そのものの大きな損傷は伴いませんが、首の周りだけでなく、全身にわたる様々な不調を引き起こすことが特徴です。症状は受傷直後だけでなく、数日経ってから現れることもあります。
頚椎捻挫によって引き起こされる具体的な症状には、以下のようなものがあります。
- 首の後ろや肩の痛み・こり: 最も多く見られる症状で、首を動かしたり、長時間同じ姿勢を取り続けたりすることで痛みが強くなります。
- 頭痛や後頭部の重さ: 首の強い緊張や炎症が頭部に影響を及ぼし、後頭部を中心に締め付けられるような重い痛みを感じることがあります。
- 手や腕のしびれ、だるさ: 損傷した組織の炎症が、首から腕へ伸びる神経(神経根)に影響することで、手の指先や腕に沿って鋭い痛みやしびれ、脱力感が生じることがあります。
- めまい、耳鳴り、吐き気(嘔気): 首の奥には自律神経のバランスを司る部分があり、この部分が影響を受けることによって、首の痛み以外に、めまいや耳鳴り、吐き気といった体調不良を伴うことがあります。
頚椎捻挫の症状は、多くの場合、適切な安静と治療によって数週間から数カ月で徐々に軽快に向かうとされています。しかし、手足のしびれが続く場合や、めまい、強い痛みが長期にわたって継続する場合は、他の神経の病気が隠れている可能性も考慮し、自己判断せずに専門的な診断を受けることが早期回復のために重要です。
原因
頚椎捻挫は、外部から首に加わる瞬間的かつ過度な力が主要な原因となって発生します。この急激な力の作用によって、首の骨が正常な可動範囲を超えて大きく前後に伸展・屈曲し、周囲の組織が損傷を受けることで痛みが生じます。
頚椎捻挫を引き起こす具体的な原因には、以下のものが挙げられます。
- 交通事故による衝撃: 特に車に乗車中に追突された際、体が固定されているにもかかわらず、頭部がムチのように大きく振られる(むちうち)ことで、頚椎の周りの組織に限界を超える負荷がかかります。
- 防御的な筋肉の過緊張と損傷: 衝撃を受けた瞬間、首の骨や神経を守ろうとして周囲の筋肉が反射的に強く収縮します。この急激で強い緊張自体が、筋肉の部分的な断裂や微細な損傷を引き起こす直接的な原因となります。
- 靭帯や関節包の損傷: 衝撃の大きさによっては、関節を安定させている靭帯や、関節を包んでいる関節包といった支持組織が強い力で引き延ばされて傷つき、炎症が生じます。
これらの急激な外力による組織の損傷と、それに伴う炎症が、急性期に感じる強い痛みの直接的な原因となります。後遺症を残さずにしっかりと回復するためには、急性期の炎症管理と、その後の機能回復に向けた取り組みが非常に大切です。
診断
頚椎捻挫の診断では、症状の多様性や、他の重い首の疾患と症状が似ていることから、痛みの原因を正確に特定することが重要になります。
まず、医師による詳細な問診と診察が行われます。受傷した状況(事故や怪我の種類)や、痛み、しびれ、めまいといった現在の症状やその強さを詳しくお聞きします。その後、視診や触診、首の動く範囲(可動域)の確認といった診察を通じて、痛みの部位や神経症状の有無を注意深く確認します。
他の重篤な疾患を鑑別し、診断を確定するためには、画像検査が不可欠です。
- X線(レントゲン)検査: 早期に特別な処置が必要な骨折や脱臼といった、骨の重篤な損傷がないかを確認するため、最初に行われる最も重要な検査です。頚椎捻挫の場合、レントゲン写真では骨に明らかな異常が見られないことが一般的ですが、この検査によって命に関わる損傷を否定できます。
- MRI検査: 手や腕のしびれが強い場合や、症状が長引く場合には、MRI検査を検討します。MRIは、X線では映らない筋肉、靭帯、椎間板、神経といった、軟らかい組織の状態を鮮明な画像として捉えることができます。この検査を行うことで、症状が似ている頚椎椎間板ヘルニアなど、他の病気が隠れていないかを明確に鑑別できます。
これらの徹底した画像検査と診察を通じ、患者様ご自身の痛みがどこから来ているのかを明確にし、医学的な根拠に基づいた正確な診断を行うことで、患者様が不安なく治療に専念できるようサポートします。
治療
頚椎捻挫の治療は、損傷した組織が持つ自然治癒力を最大限に引き出し、同時に炎症と痛みを適切にコントロールすることを目的とした保存療法(手術をしない治療)が中心となります。治療は、症状の強さや回復の段階に合わせて進められます。
治療の全体像として、まずは安静による炎症の管理から始め、痛みを緩和し、最終的に首の運動機能の回復を目指す多角的なアプローチが重要です。
- 急性期の安静と炎症管理: 受傷直後で炎症が強い時期(1~2日程度)は、首を無理に動かさないように安静にし、冷却(アイシング)によって炎症の広がりを抑えます。強い痛みがある場合は、短期間の頚椎カラーの着用も検討し、患部への負担を軽減します。
- 薬物療法(痛み止め・湿布): 痛みが強い時期には、内服薬や外用薬(湿布など)を用いて、痛みを効果的に和らげ、炎症反応をコントロールします。これにより、患者様の日常生活での苦痛を軽減し、次のリハビリテーションへ移行できる状態を目指します。
- 物理療法: 痛みの緩和と組織の修復を促すため、様々な機器を用いた治療を活用します。低周波や干渉波による電気治療で深部の筋肉の緊張を緩めたり、超音波治療器で炎症のある組織の回復を促進したりすることで、治癒をサポートします。
- リハビリテーション(運動療法): 痛みが落ち着いた回復期には、痛みの慢性化を防ぐため、専門スタッフの指導のもとでリハビリテーションを開始します。首の側屈や回旋ストレッチ、肩甲骨周りの体操など、少しずつ可動域を広げる運動を行い、弱化した筋肉の機能回復を目指します。
- 手技療法と姿勢指導: 固まった筋肉をほぐすマッサージなどの手技療法や、頚椎への負担を減らすための姿勢バランスの調整を行います。再発を防ぎ、日常生活や仕事における首への負担を根本的に軽減することを目指します。
頚椎捻挫の治療では、安静期間が長すぎるとかえって回復が遅れる場合があるため、痛みが引いたら適切な時期にリハビリテーションを開始することが非常に重要です。当グループでは、患者様の症状と回復段階に合わせて治療内容を調整し、早期に機能回復を図り、普段通りの生活に戻れるよう迅速に対応します。