頚椎椎間板ヘルニア
症状
頚椎椎間板ヘルニアは、首の骨(頚椎)と骨の間にあるクッション材(椎間板)の一部が飛び出し、近くを通っている神経や脊髄を圧迫することで、さまざまな不調を引き起こす病気です。症状は段階的に進行し、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
初期段階では、多くの方が経験する首や肩の「こり」や「違和感」といった、比較的軽微な症状から始まります。しかし、この段階で適切なケアをせずに放置すると、飛び出した椎間板が神経を強く圧迫し、様々な症状が出現します。
- 首や肩の痛み、肩こり
- 腕や手のしびれ、感覚の異常
- 握力の低下や、腕の筋力低下
- 手の細かい動作の困難(巧緻運動障害): 箸が使いにくい、シャツのボタンがかけられない、小銭をつまみにくいなど
- 歩行時のふらつきや不安定さ、足のもつれ
- ごく稀に起こる排尿に関する問題(排尿障害)
特に、腕や手のしびれや痛みが続いたり、手が動かしにくくなったりした場合は、神経の圧迫が進行しているサインです。症状を自己判断せず、早めに専門家へ相談することが大切です。
原因
頚椎椎間板ヘルニアは、椎間板が持つクッションとしての機能が低下し、そこに繰り返し負担がかかることで起こります。主に、椎間板の「老化」と「生活習慣による負荷」の二つが主な原因として考えられています。
椎間板は加齢とともに弾力性を失い、徐々に弱くなっていきます。この弱くなった椎間板に日常生活の中で過剰な力が加わることで、中の組織が飛び出し、ヘルニアとなってしまいます。
- 加齢による椎間板の老化: 年齢を重ねるにつれて、椎間板は水分を失い、弾力性が低下します。これにより、クッションとしての機能が低下し、亀裂が入りやすくなります。
- 長時間のデスクワークやスマートフォンの使用: 前かがみで下を向く姿勢は、首の自然なカーブを崩し、椎間板の一部に持続的に大きな圧力をかけます。これが椎間板の老化を加速させる大きな要因となります。
- 喫煙: 喫煙は体全体の血行を悪くし、椎間板に必要な栄養や酸素の供給を妨げます。その結果、椎間板の変性(老化)を早め、ヘルニアを発症しやすい状態にしてしまいます。
これらの原因が重なり、長期間にわたって首に負担がかかり続けることで、椎間板の突出が起こり、神経を圧迫してしまうのです。
診断
首の痛みや手のしびれは、他の病気でも起こる可能性があるため、頚椎椎間板ヘルニアの診断では、症状がヘルニアによるものなのか、また、どの神経がどの程度圧迫されているのかを正確に見極めることが非常に重要です。
当院では、患者様が安心して治療に進めるよう、以下のような手順で、原因と状態を詳しく確認していきます。
- 丁寧な問診と神経学的検査
- いつから、どんな時に痛みやしびれが出るのか、また、どのような動作で症状が悪化するかなど、患者様のお話を詳しくお伺いします。
- その上で、腕や手の感覚、腱反射、筋力などを確認する「神経学的検査」を行い、どの神経が影響を受けているかを客観的に評価します。
- 画像による精密検査
- 症状の原因を確定させるためには、MRIなどの画像診断が欠かせません。
- レントゲン検査では骨の状態が分かりますが、MRI検査を用いることで、飛び出した椎間板そのものが、神経の束(脊髄)や枝分かれした神経(神経根)をどれだけ強く圧迫しているかを鮮明な画像で確認することができます。この詳細な情報が、最適な治療方法を決めるための確かな根拠となります。
これらの検査を通して、患者様ご自身の体の状態を正確に把握し、不安なく治療に進めるようご説明いたします。
治療
頚椎椎間板ヘルニアの治療は、手足の麻痺や排尿障害といった緊急性の高い重度の症状がない限り、まず手術をしない保存療法から始めるのが一般的です。この治療の目的は、症状を和らげることと、首の機能を回復させることです。
保存療法は、「薬による痛みの管理」と「リハビリテーションによる機能の回復」の二本柱で進められます。
- 薬物療法: 症状が強く出ている急性期には、炎症を抑える薬や、神経の痛み(しびれ)を和らげる薬などを使用します。これにより、まずは痛みによる辛い状態を改善し、次のステップであるリハビリテーションに進めるよう準備します。
- リハビリテーション: 痛みが落ち着いたら、機能回復のためのリハビリテーションを中心に行います。首の動きをスムーズにし(可動域の改善)、筋力を回復させて首の安定性を高めることで、神経への圧迫を間接的に緩和していきます。
- 運動療法: 専門スタッフの指導のもと、首の筋力を安全に向上させるための運動を行います。例えば、首を動かさずに力を入れる「等尺性エクササイズ(アイソメトリック運動)」などは、首の安定性を高めるのに有効です。
- 生活指導: 痛みのある動作や、特に首を後ろに強く反らす動作は椎間板への負担を増やすため、日常生活で避けていただくよう指導します。
多くの場合、適切な治療を継続することで4週間から6週間程度で症状の明確な改善が見られます。痛みが減り、動作の制限が改善することで、着替えや入浴といった基本的な生活動作が楽になり、最終的には仕事や趣味活動への復帰を目指します。