膝前十字靭帯損傷:スポーツによる膝の怪我

2019/11/15
#膝関節
医師
綿貫 誠

前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament)とは?

膝には関節を安定させる靭帯が4つ存在します。前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)はその中の一つで、膝関節内にあり大腿骨と脛骨を結ぶ靭帯です。
この靭帯の役割は、膝関節の前方移動(膝がカクンと抜ける動き)や回旋動作(膝を捻る動き)を制御し安定性を保ちます。

 

前十字靱帯損傷の受傷機転

受傷機転は、接触型非接触型に分けられます。
【接触型】
コンタクトスポーツ等で膝の外側から外力が加わり、膝が内側に入り、かつ回旋ストレス(捻るストレス)が加わることで損傷します。


【非接触型】

ジャンプの着地、急激な方向転換、急激なストップ動作などで膝が内側に入り、捻ったときに損傷します。
 

前十字靭帯損傷の発症メカニズム

膝が内側に入り、つま先が外側に向いている状態(Knee in-toe out)で過度なストレスが靭帯に加わり受傷することが多いですが、急激なストップ動作により膝が伸びきった状態(過伸展)や靭帯に強い捻りが加わった時にも損傷が起こります。
Knee in-toe outになる原因としては、股関節や足関節、体幹などの柔軟性低下や筋力低下が考えられます。

 

損傷が起きやすいスポーツ

バスケットボール、サッカー、ラグビー、柔道、スキー等

 

前十字靱帯損傷の症状

・受傷直後は腫脹や疼痛が出現
・腫脹や疼痛による膝の可動域制限(曲げ伸ばしがしにくい)
・日常生活(例えば階段動作など)で膝がカクンと抜けてしまう(膝折れ)
・スポーツ動作時のジャンプ着地や切り返し動作で膝に力が入らず踏ん張れない
そのほか、スポーツ時に靱帯の損傷によって膝の不安定感が出現し、様々な動作で症状が出現します。

 

診断について

医師による徒手的検査やMRI画像による検査が有用です。
また、怪我した時の状況(受傷機転)も重要です。


 

治療について

保存療法手術療法の2つがあります。
【保存療法】
リハビリを中心とし膝関節周囲筋の筋力増強運動を行いながら、必要に応じて装具を装着し、日常生活動作の獲得とスポーツ活動への復帰を目指します。
また、不安定性が残存した状態で膝崩れを繰り返すことにより半月板や関節軟骨などの損傷が2次的に起こるリスクが高くなります。
【手術療法(靭帯再建)】
縫合しても血行不良から再損傷のリスクが高いため、再建術を選択します。再建術に使用するものとして2種類あり骨付膝蓋腱(BTB)か半腱様筋腱、薄筋腱(STG)を使います。
それぞれ長所、短所があるため医師と相談の上、スポーツの競技特性や社会復帰といった、様々な状況に応じて術式を選択できます。

※以前ではACL損傷は、スポーツ選手の間で手術療法が重要であると言われてきました。
損傷後スポーツをやめれば、問題なしとされていましたが、近年ではOA(変形性)の進行が早まり、人工関節置換術に至る確率が高くなるとの統計結果が出たことから若年者であっても基本的に手術を勧めています。
 

復帰目安

術後1ヶ月:日常生活を送れるようする
術後3ヶ月~:Jogを開始
術後6ヶ月頃:スポーツ復帰を目指す
※コンタクトスポーツや激しい動きのスポーツ復帰までは、7−9ヶ月かけてレベルアップすることが多いです。

競技復帰の目安としては、以下が挙げられます。
・正常な関節可動域と靭帯の安定性の獲得
・大腿筋力(ハムストリングス、大腿四頭筋)の回復
・危険肢位(Knee in-toe out)にならないような十分なスキル、フォームの獲得
・実際のスポーツ活動で不安感がない状態


※手術療法についてはこちらをご確認ください。→鏡視下前十字靭帯再建術
※手術療法後リハビリについてはこちらをご確認ください。→前十字靭帯損傷の手術後のリハビリテーション

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この記事を書いたスタッフ
医師
綿貫 誠
スポーツや職業現場の最前線で、長く治療を行っております。主に関節外科を中心としたケガや慢性疾患に対し、各個人のニーズに合わせた治療目標を立て、運動器機能診断に基づくリハビリテーションから関節鏡による最小侵襲手術まで最適な治療を行うことを心がけています。また3年間のアメリカ留学を含む基礎研究経験から骨代謝にも精通しており、早期治癒のための細胞レベルからのアプローチも考慮しております。疑問点は何でもお聞きください。
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