肩関節脱臼とは

2025/03/22
#肩関節
医師
中島 駿

肩関節の特徴

肩関節は人体の中で最も可動域の大きい関節の一つです。けん玉によく例えられますが、小さい受け皿(肩甲骨)の上に大きな球(上腕骨頭)が乗っているような関節です。骨性の安定性は非常に弱く、軟部組織(靭帯や腱板、筋肉)が関節を安定させる役割を持ちます。柔らかい組織が関節を安定させている特徴を持つので、肩は360°広く動かせる一方で、不安定である関節でもあるのです。

肩関節脱臼との病態

肩関節脱臼は、肩甲骨と上腕骨が正常な位置からずれてしまう状態を指します。きっかけは転倒やコンタクトスポーツ(ラグビー、アメリカンフットボール、柔道)などでの接触による外傷が多く、上腕骨が前方に押し出される力が強く働くことで、肩関節を安定させている軟部組織が破綻してしまい、受け皿である肩甲骨を乗り越えて前方に偏位してしまう状態です。一度脱臼すると再発しやすくなる傾向があり、場合によっては手術が必要なこともあります。

脱臼と亜脱臼の違い

肩関節脱臼には「脱臼」と「亜脱臼」という2つの状態があります。

脱臼

肩の関節が完全に外れたままの状態を指します。この場合、上腕骨(腕の骨)が肩甲骨のくぼみから完全に外れ、激しい痛みが生じ、外見上も関節の変形が明らかです。完全脱臼した状態では肩が動かせないのが特徴です。また、脱臼によって周辺の神経や血管が損傷することがあり、手や指にしびれや冷たさを感じたり、力が入らなくなる場合もあります。これらの症状が現れた場合、迅速に医療機関で診察を受けることが重要です。

亜脱臼

肩の関節が一瞬外れるも、すぐに元の正常な状態に戻ってることを指します。この場合、通常の位置から完全に一度外れているため痛みや違和感があっても、関節は元の位置に戻っています。そのため、明確な関節の変形は見られず痛みがあっても肩を動かせるのが特徴です。典型的な症状として、「肩が一瞬抜けた感じがした」「一時的に外れたがすぐ戻った」といった感覚になる方が多いです。多くの場合、2〜3週間安静にしていることで症状が軽減することが多いです。しかし、一度亜脱臼を起こすと、関節は正常な位置に戻っていても肩関節周囲の組織にはキズや一部破綻してることが多く、再発(いわゆる脱臼クセ)しやすくなります。これが進行すると、日常の一般的な動作でも亜脱臼を繰り返す可能性があります。そのため、亜脱臼が疑われる場合も、組織の損傷がないか医療機関で診断を受けることが重要です。 

脱臼や亜脱臼後の症状

脱臼直後は疼痛のために、痛みで肩が動かせない、動かしたくない状態が続きます。受傷後3週程度すると日常生活であまり困ることは少なくなってきます。一方で、腕を上げる(手を吊革を掴むような)動作、手を後に持ってい行く動作で不安感や痛みを感じたりします。またスポーツをやっている場合は以前できていた動作が,怖さや痛みで出来なくなったりします。不安定性が強いと、再脱臼したり、不安感があるためにある一定の動作が制限されたりします。

脱臼を繰り返すとどうなるか?

脱臼を繰り返すと、前方を支える軟部組織(関節唇、関節包)がさらに破綻していき、最終的に受け皿の骨(肩甲骨)が欠けて小さくなったり、上腕骨の後方に大きな骨欠損が生じたりして、スポーツ、日常生活でも大きな影響が出てQOLが低下してしまいます。若年者やコンタクトスポーツ、骨欠損がある場合は再発リスクが非常に高いので適切な治療が大事になってきます。

肩脱臼の診断方法

問診と診察

患者の症状や外傷の状況を確認します(いつ、どのようにして脱臼したのか)。肩の不安定性を評価するテスト(apprihension test, sucus test, load and shift test)

画像検査

X線(レントゲン)やMRI(磁気共鳴画像)を用いて、上腕骨の位置や、軟部組織の損傷程度を確認します。 

治療方法

初期治療を行った後にリハビリテーションによる保存治療もしくは手術を行います。

整復

まだ脱臼をしてる場合、医師が脱臼した肩を元の位置に戻す処置を行います(整復)。力を出来るだけ抜いた状態で腕を牽引する方法(ゼロポジション法)、うつ伏せで寝た状態で患側の手に錘を垂らして安静にしておく方法(Stimson法)などがあります。整復操作によって骨折が生じたりすることもあるので、正しい方法で行うことが重要です。痛みが強く、周囲の筋肉の緊張が強い場合、全身麻酔が必要なこともあります。

初期固定

整復後・亜脱臼直後は、肩の周辺の組織にキズや一部損傷があるため、組織が自己修復しやすくするために三角巾や専用の装具で固定し肩の安静と固定をします。通常、固定期間は1〜3週間程度です。固定中は無理に肩を動かさないように注意が必要です。

リハビリテーション(保存療法)

主なリハビリメニューとしては、関節の可動域を回復させ、肩の安定性を高めるために肩のインナーマスル(腱板筋群)を鍛えたり、肩甲骨周囲の筋肉を鍛えていきます。

腱板筋群トレーニング

肩関節を安定させるインナーマッスルを腱板筋群と言います。棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋という4つの筋肉で構成されており、それぞれの筋肉を負荷の軽いチューブを使ってトレーニングしていきます。

肩甲骨周囲筋トレーニング

肩関節は肩甲骨と上腕骨が連動して動くため、土台である肩甲骨の動きや安定性も非常に重要になってきます。肩甲骨周囲には僧帽筋や前鋸筋、菱形筋などの複数の筋肉がついており、それらの筋肉をしっかりと鍛えていくことが肩関節の安定性に必要です。

手術療法

肩関節脱臼を起こした場合、肩を安定させている軟部組織(関節唇や関節包)が破綻している可能性が高く、若年者やスポーツ選手、骨欠損が大きい場合は脱臼を繰り返す反復性肩関節脱臼に至るリスクが高いです。また反復性肩関節脱臼になってしまった場合は保存療法での治療が難しくなります。そのため患者さんの年齢やスポーツ種目、骨や軟部組織の状態を考えて手術を行うこともあります。
当院では関節鏡視下手術(1cm程度の小さな切開を行い、カメラを挿入し(内視鏡)そのカメラで肩の内部をのぞきながら、㎜単位で関節の損傷部分を修復)を行っています。
また患者さんそれぞれの状態(元々の関節の緩さがどうか、スポーツは何をやっているか、利き手は非利き手か、今後の目標は何か)を詳しく聴取して、その人にとってベストな手術方法を選択します。

関節窩骨欠損がない場合

関節鏡下バンカート修復術(通常法)
脱臼によって損傷した前方関節唇を、アンカーを受け皿の骨(肩甲骨)に挿入し、関節唇にかけて縫合することで修復する方法。
関節唇、関節包を点で固定するので可動域制限が出にくく、オーバーヘッド競技の利き手側などに行います。
鏡視下バンカート修復術(DAFF法)
脱臼によって損傷した前方関節唇を、アンカーを受け皿の骨(肩甲骨)に挿入し、剥離した関節唇に糸をかけて、関節窩にもう一つアンカーを打ち込むことで ’面’ で修復固定する方法。関節唇、関節包を面で強固な固定が出来るため再脱臼率が低いメリットがあり、コンタクトスポーツや関節弛緩性が高い人に行います。

関節窩骨欠損がある場合

AAGR(Arhroscopic Anatomical Glenoid Reconstruction:腸骨移植+鏡視下バンカート修復術)
骨盤(腸骨)から骨を採取して、欠損した肩甲骨の関節窩にボタンを用いて移植します。その後、鏡視下バンカート修復術を行います。骨欠損があり、早期復帰が望まれる場合に選択します。
人工骨移植+鏡視下バンカート修復術
人工骨を欠損している肩甲骨の関節窩にスーチャーアンカーを用いて固定します。その後、鏡視下バンカート修復術を施行します。人工骨を用いることで、骨採取部の疼痛がないメリットがあり、骨欠損がある場合に選択します。
鏡視下バンカート修復術+Bristow法

肩甲骨の一部である烏口突起を切離して、関節窩にスクリューを用いて固定します。その後、鏡視下バンカート修復術を行います。当院では患者様一人ひとりにあった治療法を提案させていただきます。また手術後には、しっかりとしたリハビリを行うことが回復の鍵となります。

まとめ

肩関節脱臼は、適切な治療と予防対策を行うことで、再発を防ぎながら日常生活への復帰が可能です。もし肩の脱臼が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診し、専門的な診断と治療を受けることをおすすめします。

この記事を書いたスタッフ
医師
中島 駿
肩関節、スポーツ整形外科を専門としています。ADLの改善、スポーツへの早期復帰のために、1mmの精度にこだわり関節鏡視下手術を行なっております。鏡視下手術やリハビリテーションに加えて、体外衝撃波、PRP(再生医療)、Coolief治療、動注療法等の先端医療の選択肢も合わせて、患者様にとってベストな医療を提供できることを心がけています。早期スポーツ復帰、痛みに悩まされない生活のためのサポートを全力でさせていただきますので、いつでもご相談下さい。
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