二の腕、上腕前側の痛み「上腕二頭筋長頭腱炎」
- 2023/01/30
肩の痛みや動かしづらさを感じている場合、それは「腱板断裂」の可能性があります。以下のような症状がある場合、注意が必要です。
これらの症状がある場合、単なる五十肩ではなく「腱板断裂」の可能性があります。このページでは、腱板断裂の原因、診断法、治療法について詳しく解説します。
肩関節は関節窩という小さなお皿の上に上腕骨頭という大きなボールが乗っている、いわば‘けん玉’のような関節で、人体の中で一番大きく動く関節である一方で、非常に不安定であるという特徴を持っています。骨性の安定性が乏しく、関節包靭帯や筋肉という軟部組織が安定性に寄与しています。腱板は、肩を安定して動かすために重要なインナーマッスルの腱の集まりです。具体的には、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉の腱が合流し、上腕骨を覆うように存在しています。これらの筋肉は、肩関節のスムーズな動きをサポートし、腕を挙げたり回旋させたりする際に欠かせない役割を果たします。
腱板の「腱」というのは、筋肉が骨に付着する前にスジ状になる部分を指します。例えば、アキレス腱はふくらはぎの筋肉が踵の骨に付く前にスジのように伸びていますが、腱板も同じように、肩の4つのインナーマッスルの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)が合流して平たい腱板を形成しています。
腱板は関節のすぐ近くに位置しているため、関節を安定させる働きがあります。肩は非常に可動域が広い関節ですが、その分不安定になりやすいため、腱板がしっかりと機能していないと肩の動きが制御できなくなります。
関節を安定させるインナーマッスルである腱板が摩耗したり、負荷がかかりすぎたりすると、部分的に裂けたり、完全に切れてしまうことがあります。それが「腱板断裂」です。
腱板断裂の症状は、断裂の程度や進行具合によって異なります。以下のような症状が見られたら、腱板断裂の可能性を疑いましょう。
腱板断裂はレントゲンだけでは診断できません。適切な診断には以下の検査が有効です。
肩の動作確認(empty can test, full can test, drop arm signの有無)や可動域を評価して腱板が機能しているかチェックします
腱板を描出することは出来ませんが、腱板断裂があることで起こる骨の変化や関節症性変化を確認できるので基本の検査として必要です。
診察時に迅速に行える検査で、腱板断裂の有無を即座にスクリーニングできます。
腱板部分断裂などの小さい損傷の確認、腱板完全断裂の大きさや進行度の確認、関節包の厚みや炎症の部位の特定など、肩関節に起きている現状を詳細に診断できます。)
腱板断裂の詳細な診断は専門医の評価が重要です。
炎症が強い場合は積極的に消炎鎮痛薬の内服をしたり、炎症が起きている場所にヒアルロン酸やステロイドの注射をすることもあります。
腱板断裂している部分に負担がかかると、さらに断裂が進行していく可能性が高く、傷んだ腱板に負担をかけないようにすることが大切です。その場合にアプローチするべきは肩甲骨です。肩甲骨は腕を上げる時の土台になる部分で、この肩甲骨の動きを良くすることで腱板にかかる負担を減らせます。また残存している腱板のトレーニングを行うことで、肩関節の安定化を期待できます。
結論からすると腱板完全断裂は自然に修復することはありません。靴下に穴があいてしまった状態を想像してみて下さい。そのまま使い続けると、穴は少しずつ広がっていってしまいます。この穴を糸で縫って修復する、それが手術になります。
まず腱板断裂があっても命に関わる病期ではなく、また肘が120度近く曲がれば最低限の日常生活は可能です。手術が必要か?と問われれば、絶対に手術が必要ということはありません。一方で腱板断裂があると痛みのために夜寝られなかったり、痛みのために日常生活が制限されたり、腕に力が入らない、腕が上がらないといった場合は、腱板断裂が自然に修復することはないので手術を検討した方が良いでしょう。
患者さんにとって一番大事なのは症状です。腱板断裂があっても、 痛みがなく、肩の動きに問題がない無症候性腱板断裂というものがあります。完全に症状がない場合や、少し違和感があっても日常生活には困らない程度の症状で、腱板断裂を抱えながら生活していう人は多くいらっしゃいます。 症状が強くなったら手術するという考え方も一つです。
しかし、無症候性腱板断裂は3年以内に50%以上が症候性腱板断裂に移行するという研究や、時間が経つごとに断裂サイズが大きくなっていくという研究が多くあります。手術をしないで経過を見る場合は、腱板断裂の穴のサイズが少しずつ拡大していくことも含めて付き合っていく必要があります。修復しようと思った時には、腱板断裂が進行しており修復困難になったり、人工関節が必要になるケースもあります。患者さんの現在の症状、腱板の状態、今後の活動量などを考慮して最終的に手術を選択するかしないかを検討する必要があります。 どちらの場合もリハビリテーションを行いながら、専門医による定期的なフォローアップを受けるといいでしょう。
以下のケースでは手術を検討
腱板断裂の手術方法について解説します。まだ一部では大きめの傷を作って、直視下に手術をする施設もありますが、現在は関節鏡という内視鏡を用いる手術が主流です。
肩関節は関節包、腱板という軟部組織により安定している関節であり、関節内が広く、ゆとりがあるという特徴があります。このために関節鏡との相性が非常によく、細長いカメラを関節内に様々な方向から入れて観察することで、直視下手術に比べて、遥かに広い範囲を細かく観察、処置することができます。また直視下手術と違い小さな傷から器具を出し入れ可能なので、傷が小さいというメリットだけではなく、その深層にある三角筋などのアウターマッスルや腱板、関節包に対しても侵襲が小さく、直視下手術に比べて体の負担も少なく、術後の痛みも軽減されます。
関節鏡視下手術が低侵襲とはいっても、全身麻酔で行うこと、術後の疼痛コントロール、リハビリテーションのために4〜5日間の入院が必要です。また術後の疼痛予防に、当院では全身麻酔に加えて、エコーで肩から腕にいく神経を描出し、麻酔を行うことで術後当日の痛みを限りなく少なくする処置を行います。術翌日からの疼痛は鎮痛薬や、点滴によりコントロールします。
肩に5mm程度の小さな傷を5カ所作ります。その傷から内視鏡を入れたり、細長い器具を出し入れして手術を行います。腱板は上腕骨の大結節という部分にくっついていますが、ここから剥がれてしまっている状態が腱板断裂です。この骨から剥がれてしまった腱板をもう一度骨にくっつけるのが手術の目的です。上腕骨の腱板付着部に糸や人工靭帯のついたアンカーを挿入し、腱板にその糸を通して、糸を引っ張ることで、穴を塞いだ状態で上腕骨の外側にもう一つのアンカーを用いてその糸を骨の中に固定します(suture-bridge法)。この時に使うアンカーは糸アンカーであったり、骨に置換される吸収性アンカー、PEEKと言われる医療用プラスチックなどを用いますが、金属ではないため、基本的に抜去は必要ありません。
手術により、腱板断裂は修復し開いた穴は閉じますが、最終的には自分の骨と腱板が完全にくっついていくことが必要ですが、これには時間がかかります。特に最初の3週間は修復腱板が非常に弱い状態ですので、肩を安静に保つために外転装具を使用します。腱板断裂の大きさによって装具の装着期間は3〜8週間使用してきます。術後はリハビリテーションを行い、日常生活は2ヶ月程度、軽作業は3ヶ月、重労働、スポーツ復帰は6ヶ月程度要します。肩の機能回復にはリハビリテーションが非常に重要ですので、一緒に頑張って行きましょう。
断裂が大きい場合は、傷んだ腱板を引っ張っても元々の付着部である上腕骨大結節部まで届かない場合があります。この場合は腱板をつなぐのを諦めて、太ももや膝裏から大腿筋膜、ハムストリングを採取して、そのスペースを埋めてあげる治療をすることもあります。
当院では自身の腱板を可能な限りもともとあるべき場所に再度修復したいので、腱板の起始部である肩甲骨から腱板を一度浮かせて、付着する方向にスライドして縫合できるようにする手術(筋前進術:Debeyre-Patte変法)を併用しています。この処置をするのに、肩の後方を4-5cm程度切開する必要がありました。技術的に難しいのですが、最近はこれの手術も鏡視下で行えるようになってきました。体に侵襲をかけることなく、鏡視で確認しながら腱板を剥がすことができるのでより困難症例にも対応できるようになってきています。
大断裂の場合は再断裂が問題になってきますので、より慎重なリハビリテーションが必要です。装具固定期間も6〜8週と長くなり、自分で腕を上げる動作も2ヶ月以上経ってから開始して行きます。日常生活は術後3ヶ月、軽作業は術後4ヶ月、重労働は6〜8ヶ月程度で行えるようになります。
腱板断裂は早期発見・適切な治療で改善が可能です。肩の痛みが続く場合は、専門医に相談しましょう。