肩関節脱臼とは
肩関節脱臼は、肩甲骨と上腕骨が正常な位置からずれてしまう状態を指します。肩関節は人体で最も動きが自由な関節であるため、強い衝撃や過度な動作などで脱臼が起こりやすい特徴があります。一度脱臼すると再発しやすくなる傾向があり、場合によっては手術が必要なこともあります。
脱臼と亜脱臼の違い
肩関節脱臼には「脱臼」と「亜脱臼」という2つの状態があります。
脱臼
肩の関節が完全に外れたままの状態を指します。この場合、上腕骨(腕の骨)が肩甲骨のくぼみから完全に外れ、激しい痛みが生じ、外見上も関節の変形が明らかです。また、脱臼によって周辺の神経や血管が損傷することがあり、手や指にしびれや冷たさを感じたり、力が入らなくなる場合もあります。これらの症状が現れた場合、迅速に医療機関で診察を受けることが重要です。
亜脱臼
肩の関節が一瞬外れるも、すぐに元の正常な状態に戻ってることを指します。この場合、通常の位置から完全に一度外れているため痛みや違和感があっても、関節は元の位置に戻っています。そのため、明確な関節の変形は見られません。典型的な症状として、「肩が一瞬抜けた感じがした」「一時的に外れたがすぐ戻った」といった感覚になる方が多いです。多くの場合、2〜3週間安静にしていることで症状が軽減することが多いです。しかし、一度亜脱臼を起こすと、関節は正常な位置に戻っていても肩関節周囲の組織にはキズや一部破綻してることが多く、再発(いわゆるクセ)しやすくなります。これが進行すると、日常の一般的な動作でも亜脱臼を繰り返す可能性があります。そのため、亜脱臼が疑われる場合も、組織の損傷がないか医療機関で診断を受けることが重要です。
主な原因
・スポーツ中の衝突や転倒(例:ラグビーやバスケットボールなどでのプレー中)
・転落や交通事故(車両同士の衝突や自転車からの転倒など)
・家庭内での事故(例:滑って転んだ際に腕を支えに使った場合)
・重い荷物を無理に持ち上げようとしたとき(特に不適切な姿勢で持ち上げる場合)
・子どもを高く持ち上げた際に腕が引っ張られる(親子での遊び中に発生することも)
・ジムでのトレーニング中にウェイトを無理に上げたとき
・高齢者の関節や筋肉の弱化による日常動作中の脱臼(例:寝返りを打つ際に肩を強くひねった場合)
・過去に肩の脱臼を経験している場合の再発(以前の脱臼が治りきらないまま活動を再開したケース)
・過度の肩の使用や無理な動き(例えば、急に後ろに手を伸ばしたりする動作)
症状
脱臼や亜脱臼直後の症状
激しい肩の痛み:肩を動かすのが困難になるほどの強い痛みが生じます。
関節の変形:肩が通常とは異なる不自然な位置に見え、外見から異常がわかります。
肩や腕を動かせない:脱臼により肩の動きが大幅に制限されます。
腕や手のしびれ・感覚の喪失:神経が圧迫されることで手や腕にしびれを感じたり、感覚が鈍くなることがあります。
肩のしびれや血行不良:血管が影響を受けて肩がしびれたり血行が悪くなる場合があります。
腫れや皮膚の変色:脱臼による炎症や内出血で肩が腫れたり皮膚が変色することがあります。
肩の不安定感:軽い動きでも肩が外れるような感覚があり、不安定に感じることがあります。
脱臼や亜脱臼後の症状(1か月以降)
日常生活への影響は軽微:症状が軽い場合、日常生活に大きな支障はないこともあります。
軽い動きでの不安定感:肩が簡単に外れるような感覚が続くことがあります。
後方への動作の恐怖:手を後ろに持っていく動作が不安でできなくなる場合があります。
動作への恐怖感:以前は普通にできた動作が怖くなり、避けてしまうことがあります。
肩周辺の筋肉の硬直:防御反応として肩周囲の筋肉が硬くなり、張りを感じることがあります。
違和感や引っかかり感:腕を持ち上げようとすると肩に違和感や引っかかりを感じることがあります。
診断方法
問診と触診
患者の症状や外傷の状況を確認します(いつ、どのようにして脱臼したのか)。
機能テスト
肩の可動域や筋力の評価を行います。
画像検査
X線(レントゲン)やMRI(磁気共鳴画像)を用いて、骨の位置や周囲の軟部組織の損傷を確認します。
治療方法
肩関節脱臼の治療は、以下のように段階的に行われます。
1. 整復
まだ脱臼をしてる場合、医師が脱臼した肩を元の位置に戻す処置を行います(整復)。
痛みが強く、周囲の筋肉の緊張が強い場合、全身麻酔が必要なこともあります。
2. 固定
整復後・亜脱臼直後は、肩の周辺の組織にキズや一部損傷があるため、組織が自己修復しやすくするために
三角巾や専用の装具で固定し肩の安静と固定をします。通常、固定期間は1〜3週間程度です。固定中は無理に肩を動かさないように注意が必要です。
3. リハビリテーション
関節の可動域を回復し、再発を防ぐためにリハビリが重要です。
軽いストレッチやエクササイズから始めることが多く(例:前後の振り子運動)
筋力を強化するトレーニングを段階的に追加していきます。
日常生活での肩の使い方を学ぶ指導も重要です(姿勢改善や動作の注意点)
4. 手術
再発が多い場合や、関節や軟部組織に重大な損傷がある場合、手術が必要になることがあります。
直視下(open)手術:大きな損傷がある場合や再建が必要な場合に行われます。
関節鏡視下手術:1-2cm程度の小さな切開を行い、カメラを挿入し(内視鏡)そのカメラで肩の内部をのぞきながら、㎜単位で関節の損傷部分を修復します。(体への負担が少ない・執刀医の技術が必要)
手術後には、しっかりとしたリハビリを行うことが回復の鍵となります。
注意点
初めての脱臼の場合は特に、無理に関節を元に戻さず、医療機関を受診してください。
再発を防ぐために、リハビリを継続し、肩関節を強化することが大切ですが、必要に応じて早期に手術をすることが結果的に良いこともあります。
痛みや違和感が残る場合は、早めに医師に相談しましょう。
再発予防のポイント
正しい姿勢を意識する(肩の関節に負担をかけない姿勢を保つ)
肩周囲の筋肉を強化するエクササイズを定期的に行う(例:腕立て伏せやゴムバンドを使った運動)
負荷の大きい運動をする際には適切なサポーターを使用する(肩の保護)
定期的に肩の健康チェックを行う(医師や理学療法士の診察を受ける)
問題点
「肩が一瞬抜けた感じがした」「一時的に外れたがすぐ戻った」といった感覚は、亜脱臼を繰り返していることが多いです。
亜脱臼の場合は、日常生活にそこまで支障がないことが、返って肩関節周囲の組織をどんどん悪化させてる場合も多く
手術が必要なこともあります。まずは、医療機関でしっかり診てもらうことが大切です。
Q&A
A: 子供の場合、成長中の骨や組織に注意が必要です。無理に整復を試みず、直ちに医療機関を受診してください。
A: はい、肩が脱臼した場合はできるだけ早く医療機関を受診してください。場合によっては、骨折をしてることもありますし、神経や血管を傷つけてる場合もあるため、適切な処置と治療が必要です。
A: 痛み、肩の変形、腕の可動域制限、しびれなどが主な症状ですが、亜脱臼の場合は肩の変形などは認めません。不安感がある場合は医療機関で診察を受けましょう。
A: 子供の場合、成長中の骨や組織に注意が必要です。無理に整復を試みず、直ちに医療機関を受診してください。場合よっては、手術を行い再脱臼しないような肩にすることも必要です
A: 自分や一般の方が脱臼を直そうとした場合、神経や血管を損傷する危険がありますので、必ず医師の診察を受けてください。
A: 適切な処置をしなければ、再脱臼や放置すると関節や周囲の組織に悪影響を及ぼす可能性があります。必ず医療機関で診断と治療を受けてください。
A: 脱臼の程度によりますが、軽度の場合は2〜3週間で痛みが和らぎ、日常生活に戻れることが多いです。ただし、完全な回復には数ヶ月かかることがあります。
A: 通常、整復後1〜3週間は三角巾や装具で肩を固定し、安静を保つ必要があります。その後、リハビリを開始します。
A: 個人差がありますが、軽度の脱臼の場合は数週間、重度の場合は数ヶ月かかることがあります。医師や理学療法士の指導に従いましょう。
A: リハビリを怠ると、肩の可動域が制限されたり、筋力低下が進み、肩の不安定感が残り、再脱臼のリスクが高まる可能性があります。リハビリは回復に不可欠です。
A: 後遺症として、肩の不安定感、可動域の制限、再脱臼のリスク増加などが挙げられます。必要に応じて手術や適切なリハビリを行うことで、これらのリスクを減らすことが可能です。
A: はい、不安定感や違和感がある場合は早めに医師に相談してください。放置すると再脱臼や関節の損傷が進む可能性があります。
A: 一度脱臼すると再発する可能性が高くなります。特に若年層やスポーツをする人では再発率が非常に高い傾向にあります。リハビリや筋力強化で一定のリスクを減らすことは可能ですが、結果的に再脱臼して、手術を行う場合も多くあります。
A: 放置すると関節が不安定になり、再脱臼や慢性的な痛み、さらには関節の変形や神経損傷のリスクが高まります。必ず医療機関で適切な治療を受けてください。
A: 脱臼後の関節音で、痛みを伴う場合や不安定感がある場合は医師に相談してください。
A: 医師の指示に従い、必要に応じて手術や適切なリハビリを行うことが早期回復につながります。また、過度な動きや負荷を避けることが重要です。
A: 肩を無理に動かしたり、脱臼した方向に力を加える動きは避けてください。特に手を頭上や後方に動かすのは危険です。
A: 日常的なエクササイズや肩の保護、無理な動作を避けることが重要です。また、サポーターの使用や専門家のアドバイスを受けるのも効果的です。
A: 通常は手術後3〜6ヶ月程度で運動再開が可能です。これは肩の状態や手術の種類によって異なりますので、必ず医師の指導を受けてください。
A: 感染症や神経損傷、術後の痛みや可動域の制限など一般的なリスクとして挙げられます。ただし、適切な術後ケアでこれらのリスクは最小限に抑えられます。
再脱臼が最も気をつけるリスクですが、当院では患者のスポーツや社会的背景、組織損傷の程度などを考慮し患者自身のあった術式で手術を行い、再脱臼のリスクを最小限に抑えます。
A: 以下をご参照下さい。 高額療養費制度を利用すれば、平均的な年収の方だと1ヵ月の自己負担分が10万円前後で済みます。
手術費用
A: 手術後、運動を再開するタイミングは、手術の術式やリハビリの進捗状況によって異なります。一般的には、肩関節が安定し、筋力が回復してきた段階で、医師の許可を得て軽い軽作業を再開できますが通常は手術から3ヶ月程度経過した後です。徐々に運動強度を高めていき、スポーツなどフル復帰は6ヵ月を目安に行うことが多いですが、無理がなく、医師と相談しながらスポーツ復帰していくことが重要です。
A: 手術後のリハビリ期間は一般的に3ヶ月から6ヶ月程度が必要です。初期は可動域を広げる運動や筋力回復のトレーニングを行い、日常生活に必要な動作を獲得していき、スポーツを実施する方は、スポーツで必要な動作取り入れたリハビリを進捗に合わせて段階的に負荷を増やしていくことが重要です。
A: 手術後も再発(再脱臼)のリスクはゼロではありません。 特に、肩の可動域を超える無理な動きや、十分にリハビリが行われなかった場合、再発する可能性があります。再発リスクを減らすためにも術後のリハビリは重要です。当院では、患者のスポーツや社会的背景、組織損傷の程度などを考慮し患者自身のあったオーダーメイドの術式で手術を行い、再脱臼のリスクを最小限に抑えるのための工夫をしています。
A: 手術後の痛みは、個人差がありますが、通常は最初の数日から長くても数週間で軽減します。痛みがある場合や強くなる場合は、医師に相談することが重要です。当グループでは、術後に神経ブロック注射などを併用し出来る限り、術後の疼痛を軽減するような工夫を行っています。
A: 社会復帰のタイミングは、手術の種類やリハビリの進捗状況により異なりますが、術後1ヵ月程度は、装具固定をしてるためPC作業などは工夫次第で可能ですが、日常生活に支障があります。ここで無理するとかえって肩の動きに制限が起きたりすることもあるので、無理せず、肩の状態を確認しながら、出来ること増やしていくことが大切です。通常、日常生活に支障がなくなるのは、2-3ヶ月程度は要する見込みです。
A:当グループでは、3泊4日の入院期間です。前日の13時から入院し、翌日の手術に備えます。手術の翌日は、術後の疼痛管理や術後の生活などの確認やリハビリを行い、翌々日に11時ごろ退院の予定です。
A:肩脱臼の手術時間は、患者さんの症状や手術の術式によって異なりますが、一般的には1~2時間程度です。消毒や麻酔、レントゲンなどの準備で前後30分程度かかるため、手術室にいる時間は、2-3時間程度のことが多いです。
まとめ 肩関節脱臼は、適切な治療と予防対策を行うことで、再発を防ぎながら日常生活への復帰が可能です。
もし肩の脱臼が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診し、専門的な診断と治療を受けることをおすすめします。
リハビリや再発防止の取り組みを継続することで、長期的な肩の健康を保つことができます。
当院では、患者のスポーツや社会的背景、組織損傷の程度などを考慮し患者自身のあったオーダーメイドの術式で手術を行い、再脱臼のリスクを最小限に抑える手術を行っています。