前十字靭帯(ACL)損傷の治し方

前十字靭帯損傷とは?

前十字靭帯は、膝のスポーツ外傷として頻度が高く有名で、前十字靱帯は略語としてACL( エーシーエル:Anterior Cruciate Ligament)とも呼ばれます。


膝前十字靭帯とは、膝関節の中にある靭帯で、運動する時などに膝を安定させる役目を担っています。膝前十字靭帯の機能があると、大腿骨(太ももの骨)に対して脛骨(すねの骨)が前方に脱臼するのを防いでいます。靭帯に加わる力が非常に大きいと、靭帯はその力に耐えきれずに切れてしまいます。これが「膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)」です。


膝前十字靭帯損傷は主にスポーツをしている人に起こり、特にサッカーやバスケットボール、ラグビーなど方向転換を伴うスポーツに多く見られます。ケガした瞬間は「ゴリッ」や「ポキッ」などのポップ音を伴うこともあります。その後、数分間は痛みのため動けなくなり、時間とともに膝が腫れてきて膝の曲げ伸ばしが出来ずらくなります。
通常、この症状は2~4週間ほどでで症状が改善し、日常生活などは支障がなくなります。しかし、スポーツ復帰した際、3次元のような回旋を伴ったり・飛んだりするような動作で、再度膝の痛みと共に「膝がずれた」「膝が抜けた」「膝がガクッとなった」などの膝が外れるよう症状を感じます。これは、前十字靭帯が切れ、靭帯の機能が失われたため、膝の中で再度 亜脱臼したために感じる症状です。この亜脱臼感は、繰り返すたびに、初回の受傷時より痛みなどの症状は少ないですが、頻度が増えてくる可能性があります。
(いわゆる癖になる?!)



膝前十字靱帯を損傷したままで運動や生活を続けていると、亜脱臼を繰り返すたびに半月板や軟骨などの膝のクッションの役割をする組織が傷ついてきます。また、亜脱臼を繰り返さなくても、膝の安定性が低下しているので、半月板や軟骨損傷などの組織は傷つき悪化していきます。
→半月板損傷・軟骨損傷へ発展
そのため、前十字靭帯の症状は出なくても、半月板や軟骨が傷ついてきたことによる、半月板損傷や軟骨損傷による症状が出てきます。結果、膝前十字靱帯損傷からの時間が長ければ長いほど、膝が痛くなる、腫れる、引っかかるなどの症状が出やすくなります。

前十字靭帯損傷は、急性期を過ぎると日常生活に支障が出るほどの症状は無くなるため、“治った“と自己判断して病院への受診が遅れる場合もあります。いつのまにか、半月板・軟骨が痛んでいて二次的な障害がメインになってきます。近い将来、変形性膝関節症(関節軟骨がすり減って痛む高齢者に多い疾患)となる恐れまであります。

前十字靭帯は関節内にある靭帯のため血流に乏しく、一度切れてしまうと自然治癒することが難しいです。手術しないと根治に至らない・スポーツ復帰するまでに時間を要すため、前十字靭帯が切れたことでプロを含めスポーツを辞める方も多くいます。一方、前十字靭帯の手術を行い復帰される方も多くいます。(フィギアスケートの高橋大輔選手が有名ですかね?!)

前十字靭帯損傷の原因

前十字靱帯損傷は膝関節の安定性(脛骨の前方偏位の制動)を担う重要な靱帯です。前十字靭帯損傷の原因は、接触型非接触型に分類されます。
接触型は、ラグビーやアメフトなどで膝にタックルが入り直接的な外力を受けたとき靭帯が切れます。非接触型は、接触型のような膝に直接的な衝撃を受けていない状態で前十字靭帯が切れます。

主には、ジャンプの着地時や、動作の切り替えやターン動作などの方向転換を行う際に、膝を捻る動作(足のつま先の方向に対し膝の方向が内側に入る)をしたときです。また、足が固定された状態で、体が回転するような動きも危険です。これらの動作時、足が着いた際に前後や左右だけでなく回旋も伴う3次元的な動きをします。その結果、前十字靭帯が耐えられないほど伸びたりねじれたりして、断裂することがあります。

サッカー、バスケットボール、バレーボール、ラグビー、テニス、バトミントン、アメフト、ラクロス、レスリング、セパタクロー、スキー、体操などジャンプや方向転換といった3次元的な動作が多く含まれるスポーツです。そのため、これらのスポーツを行う人は、前十字靭帯損傷のリスクが高いと言えます。

前十字靭帯損傷の症状

・膝が腫れて、熱を持っている(関節内血腫)
・膝がぐらぐらする(不安定性)
・歩いている時に膝がガクッと崩れる感覚がある(膝崩れ)
・膝に力が入らない(腫脹の影響)
・膝が完全に伸びない・曲がらない(可動域制限)

前十字靭帯は、一般的な上記の症状を訴えることが多いですが、受傷直後と、急性期を過ぎた後では症状に大きく違いがあります。受傷直後は、「膝がズレた」「ガクッと抜けた」「力が入らない」などの一瞬亜脱臼して靭帯が切れた事による抜け感と共に、外傷による激痛が膝全体に起きます。場合によっては、荷重困難になりその場は、歩く事が困難になります。また、前十字靭帯が切れた事による出血が関節内に溜まり始め、徐々に関節の腫脹と共に膝の曲げ伸ばしが困難になります。

受傷から2.3週間以上経っている場合、関節の腫れや痛みは徐々に軽減し、日常生活で支障が出ることが少なくなってきます。しかし、ジャンプや走ったりなど日常生活以上のスポーツ動作などを行うと、膝がガクッと抜ける感じが起きます。こういった、膝の不安定感がメインになります。繰り返していると、日常生活のちょっとした動作でも膝崩れを起こす場合があります。
 

前十字靭帯損傷の診断・検査方法

レントゲン検査
レントゲン検査では、前十字靭帯自体の評価はできませんが、捻った際に、膝が亜脱臼し骨折を伴う場合もありますので、その評価を行うことが多いです。また、膝崩れを繰り返し起こしている場合は、軟骨がすり減り変形性膝関節症になっていないかも確認が必要です。


 
前十字靭帯が切れている場合:陽性となる検査

前十字靭帯の評価です。※様々な評価の中から一部のみ紹介

関節を安定さている靭帯のため、以下のような理学所見を行った際本人の不安感や抜ける感じ、左右での関節の移動量などから、靭帯が正しく効いているか確認します。

・Lachman test(ラックマン テスト)
膝が30°くらいの角度で、大腿骨と脛骨を前後に徒手的に動かすことで、靭帯が機能しているか確認します。
 

・前方引き出しテスト
膝が90°くらいの角度で、脛骨を前方に徒手的に動かすことで、靭帯が機能しているか確認します。


・Pivot shift test(ピボット シフト テスト)
膝を捻った状態で、膝を伸ばした状態から曲げていきます。曲げていく途中で、膝がガクッとなる症状があったり、不安感が出ないかを確認します。

US(超音波検査)
超音波では、前十字靭帯が切れているか?判断することは出来ません。ただし、前十字靭帯が切れた場合、関節内に水が溜まります。関節内に水が溜まっているかエコーで確認することが出来ます。


 
MRI検査
前十字靭帯が切れている場合は、前十字靭帯の繊維がはっきりと見えません。また、受傷直後では亜脱臼して靭帯が切れた場合、大腿骨と脛骨が亜脱臼時にぶつかった痕である骨のダメージがMRIで確認できます。

 

前十字靭帯が切れて断裂しているか確実に判断するには、関節鏡で実際に前十字靭帯を見て切れているか確認する以外には方法がありませんでした。しかし近年では、MRIの技術が発達し完全ではないですが、今ではほとんどがMRIで確認することができます。
膝関節動揺性検査(膝ゆるみ検査)
膝関節動揺性検査は脛骨前面に専用のデバイスを取り付け、脛骨の前方引き出しを行い、牽引力の大きさに応じた大腿骨に対する脛骨の前方移動量を定量化する装置です。左右差やゆるみを認める場合に、前十字靭帯が効いてないと判断できます。
KT‐2000は世界的に多く使用されており、定量的評価には最良の装置です。

 

前十字靭帯損傷の治療方法

保存療法

前十字靭帯は関節内にある靭帯のため血流に乏しく、一度切れてしまうと自然治癒することが難しいです。そのため保存療法は不確実であり、一般的には薦めていないのが現状です。ただし、「数ヶ月後の最後の試合にどうしても出場したい」「スポーツを行わない方」や「仕事の都合で長期休暇が得られない方」「高齢の方」等、社会的背景を考慮し例外的に保存療法を選択することもあります。受傷直後の急性期では、炎症を抑えるような内服やリハビリを行い、日常生活の復帰をまずは目指します。
リハビリテーション

受傷直後は、炎症を抑えるような物理療法を中心に、日常生活で注意する内容などの指導を実施します。 膝前十字靱帯損傷後の膝は、膝の曲げ伸ばしの回復が遅れたり、ももの筋肉(大腿四頭筋)がやせて力が入りにくくなる場合があります。このような状態が続いていると、正常に歩けず日常生活に支障をきたしてしまいます。適切なリハビリテーションを行えば、通常2~4週ほどで日常生活はもちろん、ジョギングなどの軽い運動は出来るようになります。

ただし、前十字靭帯と同時に半月板損傷を併発している場合、膝の曲げ伸ばしに制限がかかる場合があります。その場合は、無理に可動域改善を行わない場合もあります。

また手術する場合でも、手術前の膝の状態が悪ければ、術後の回復も順調に進みません。スポーツ整形外科の執刀医と理学療法士が評価をして、手術前からできるだけ膝が良い状態を保ちます。

薬物療法
急性期で炎症がある場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs=ロキソニンなど)や湿布をすることで炎症を抑え症状の改善を目指します。
ただし、飲み薬は長期間使用すると胃があれるなどの副作用が出る場合があるので、注意が必要です。

 
注射
膝の水が溜まっている場合は、膝の曲げ伸ばしに影響を及ぼすこともあるため、関節の水を抜くことがあります。前十字靭帯が切れている場合は、下記のような赤黒い血性の水が抜けます。靭帯が切れてない場合は、黄色い色の水が抜けます。 →詳細

軟骨損傷がある場合、途中経過で必要に応じてヒアルロン酸注射を行う場合もあります。
サポーター(装具)
膝動揺性抑制装具(サポーター)を装着して、痛みのない範囲で関節の動きを改善する可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。
術後の日常生活や運動強度上げていく段階で、使用します。

硬性装具(Donjoy)

 

手術療法

スポーツ活動を継続したい方、日常生作でも "弛さ"や"膝崩れ"症状が出現してしまう方、年齢が若い方などは、靭帯の再建手術を行うことが望ましいです。早期のスポーツ復帰をご希望される場合を除き、どうしても急ぐ必要はなく、仕事や学校、ご家庭での都合に合わせて手術時期を決定します。ただし、その間は膝を捻るような動作を繰り返すと二次損傷を起こしてしまうリスクがあるため、そのような動作を避けて生活することが必要です。

現在では、自分の組織を用いて再建する(自家腱移植)のが、世界的にもベストな方法とされています。移植腱は、膝屈筋腱(ひざくっきんけん)を用いる場合と膝蓋腱(しつがいけん)を用いる場合があります。膝屈筋腱(ひざくっきんけん)を用いた関節鏡視下(かんせつきょうしか)再建術は、最小限の切開で大きな合併症もなく、術後の成績も安定しているため、有効な治療方法として確立されています。膝関節を構成する大腿骨と脛骨の最適部位に関節鏡を用いて細いトンネルを作製し、そこに採取加工した腱を貫いて上端と下端を金具で固定することで膝の安定性を得ることを目的とします。

また、体操、ラグビー、柔道、アメリカンフットボール、相撲など衝撃が激しいスポーツ患者の場合、膝蓋腱(しつがいけん)を用いた再建術を行うこともあります。
 

半腱様筋腱を用いる方法(ST法)
太ももの後面から膝の内側後方へ伸びるひも状の腱を採取して、関節内の長さや再建に必要な太さに応じて成形し、前十字靭帯の位置に移行する方法です。
骨への固定には、人工の腱か糸と固定用のスクリューを使用します。1本の太い靭帯を再建する「1ルート法」と2本の靭帯で再建する「2ルート法」があります。
膝蓋腱を用いる方法(BTB法)
膝のお皿の下にある幅3㎝程の腱の真ん中1/3程度を骨付きで採取し、前十字靭帯の位置に移行する方法
ST法とBTB法の比較 メリットとデメリット
メリット デメリット
ST法 ・手術後の採取部分の痛みが少ない。
・BTB法より手術の傷が小さい。
・BTB法より復帰がゆっくり。
・膝屈筋力(曲げる力)が低下する
BTB法 ・骨を腱と共に採取し固定するため、初期固定力が強い。
・身体に残す人工物は少ない。
・膝前方の痛みが残存する可能性
・術後の疼痛が他の方法に比べて大きい
・膝伸展力(キック力)が低下する
 


当院では、スポーツ競技やポジション、年齢、関節の柔らかさなどを考慮し患者に合わせた、最適な再建を目指します。
 
手術方法
①手術は膝関節に内視鏡(関節鏡)を挿入して行います。関節鏡や専用器械を挿入するための小さな傷が数か所、腱を採取するための3~4㎝の傷が1ヵ所できます。
②関節鏡を膝関節の中に挿入し、損傷したACLや半月板などの状態を確認します。切れて残存しているACLは、再建する際に専用の器械で除去します。必要があれば半月板の処置を行います。
③ 関節鏡で大腿骨と脛骨の形態を確認しながらACLを再建する位置を決め、専用の器械やドリルで大腿骨と、脛骨にトンネルを作成します。その中に成形した腱(グラフト)を通し、両端を大腿骨、脛骨に金属(プレート・スクリュー)などで固定します。
④ 移植する腱は、太腿の裏の内側にある半腱様筋腱や薄筋腱を使用します。膝の前にある膝蓋腱という腱を使用する方法もあります。 3~4㎝の皮膚を切開し、腱を採取した後、関節内の長さや再建に必要な太さに応じて成形していくため、患者さん一人一人サイズが異なります。
⑤ 成形し終えたグラフトを脛骨側のトンネルから大腿骨側のトンネルへ引き上げます。グラフトの大腿骨側を金属で固定する時は金属が大腿骨を貫通し、固定の位置が正しいか、骨に密着して固定されているかをレントゲンで確認します。
⑥ グラフトには吸収糸(体の中で溶ける糸)で関節内に留置する位置にマーキングをしているので関節鏡でその糸を確認しながら適切な位置までグラフトを引き上げていきます。
⑦ グラフトの固定位置が決定したら最適なグラフトの張り具合を計測しながら1㎝前後のプレートとスクリューで脛骨に固定します。(再建するグラフトの数、患者さんの状態によってはスクリューのみ又は非金属素材のものなどを選択する場合があります)
⑧ 関節内と傷口からの出血がないかを確認し、傷を縫っていきます。傷の奥側は吸収糸、皮膚は非吸収糸で縫合するため術後は皮膚の縫合糸の抜糸が必要になります。関節内は術後の出血や術中に入れた水が残り患部が腫れることもある為、血や水を外に出すチューブ(ドレーンチューブ)を留置します。
⑨ 手術終了後は患肢(手術したほうの足)にも血栓予防の靴下を履かせていただき、患肢固定のための装具を装着します。
⑪ 麻酔が覚め、足がしっかり動くことが確認できたら手術ベッドから病棟用のベッドまたはストレッチャーで病棟へ移動します。
⑫ 術後は患部の痛みが出てくると思いますが、術前に入れた硬膜外麻酔チューブ(背中のチューブ)と点滴から痛み止めの薬を投与します。
痛みがある時は我慢せず、病棟看護師にお声をかけて下さい。



 

 

前十字靭帯損傷の予防エクササイズ

前十字靭帯を損傷すると、スポーツの長期離脱が余儀なくされます。前十字靭帯を損傷しないためにも、ちょっとした膝や股関節の使い方を変えるだけでも
予防に繋がる可能性があります。

予防は、健康保険では出来ませんが、関連施設である自費の施設(都立大パーソナルコンディショニングセンター)で行うこともあります。前十字靭帯損傷だけでなく、様々な疾患予防を含めたコンディショニングやトレーニングを行なっています。
詳細→  パーソナルコンディショニングセンター

 

ヒップヒンジ


【方法】
①足を肩幅に開きます。
②つま先が真っ直ぐになっているのを確認します。
③お尻を引くように股関節から曲げていきます。
④股関節が曲がった後に膝関節が少し曲がり、膝がつま先に出ないようにします。
【目的】
殿部、大腿前面、後面の筋力強化
【ポイント】
①つま先が浮いていることが確認できたら、重心が後方にあるので、前方に少し移動することがポイントです。
②膝が内側に入らないように注意します。
 

ランジ


【方法】
①片脚を前方に出し、踏み込みます。
【目的】
殿部、大腿前面、後面の筋力強化
【ポイント】
①つま先より膝が出ないようにします。
②背骨と後ろにある足が一直線になるようにします。
③殿部、大腿後面、前面の筋肉を意識します。
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