変形性膝関節症（OA）は、高齢者を中心に多くの方が悩む膝関節の疾患です。関節の痛みや可動域制限が進行すると、日常生活の質（QOL）にも大きな影響を与えます。その治療には様々な選択肢がありますが、近年注目されているのが「PRP（多血小板血漿）治療」と「ヒアルロン酸（HA）注射」の関節内注射です。これら2つの治療法を最新のエビデンスを元に比較・解説します。

変形性膝関節症（OA）の治療

ヒアルロン酸（HA）注射とは？

ヒアルロン酸は、関節液の潤滑とクッション作用を担う物質であり、関節機能の維持に重要です。変形性膝関節症では関節液中のヒアルロン酸が減少するため、それを補充することで痛みやこわばりを軽減する目的で使われます。

PRP（多血小板血漿）治療とは？

PRP治療はは患者さん自身の血液から血小板を濃縮して取り出し、成長因子を豊富に含む血漿を関節に注入する再生医療の一種です。軟骨の修復や炎症の抑制が期待され、近年、変形性関節症に対する新しい選択肢として注目されています。

治療効果の比較

痛みと機能改善効果

PRP治療はヒアルロン酸注射よりも痛みの軽減と機能改善において優れるという結果が多数の研究で報告されています。1年間の追跡調査では、PRP治療の方が関節機能やQOLで有意に改善したことが確認されています (Raeissadat et al., 2015)

6ヶ月間でPRP治療の方が有意に痛みが軽減したと報告されています (Shoma et al., 2022)

重症度による効果の違い

軽度～中等度の変形性膝関節症では、PRP治療が特に有効であり、ヒアルロン酸注射よりも長期間効果が持続する報告があります (Lin et al., 2019)

重度の変形性膝関節症では、PRP治療とヒアルロン酸注射の効果差は縮まり、明確な優位性が示されないケースもあります (Saturveithan et al., 2016)

副作用と安全性

どちらの治療も重篤な副作用は報告されておらず、安全性が高いとされています。

PRPは自己血由来であるためアレルギーリスクが極めて低いですが、注射後に一時的な腫れや痛みが生じることがあります(Montañez-Heredia et al., 2016)

まとめ

軽度～中等度の膝関節症には、PRP治療の方が効果が高く持続も長い可能性が高いというエビデンスが揃っています。ヒアルロン酸は歴史が長く安定した治療法として有用ですが、PRPは将来的な標準治療として期待されています。

引用文献一覧
Raeissadat, S.A. et al. (2015)：Knee Osteoarthritis Injection Choices: Platelet-Rich Plasma (PRP) Versus Hyaluronic Acid
Shoma, F.K. et al. (2022)：Intra-articular Injection of Hyaluronic Acid (HA) and Platelet-Rich Plasma (PRP) in the Treatment of Mild and Moderate Osteoarthritis of Knee
Lin, K.Y. et al. (2019)：Intra-articular Injection of Platelet-Rich Plasma Is Superior to Hyaluronic Acid or Saline Solution
Saturveithan, C. et al. (2016)：Intra-articular Hyaluronic Acid (HA) and Platelet Rich Plasma (PRP) injection versus Hyaluronic acid (HA) injection alone
Montañez-Heredia, E. et al. (2016)：Intra-Articular Injections of Platelet-Rich Plasma versus Hyaluronic Acid